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ナイトハンター

ナオトたちがいる塩那前線基地の地下には、虜囚とした敵の将兵を投獄する収容所とは別に、後々自軍の戦力となる者及び、なる可能性のある者を隔離する為の施設があった。そこではある程度の自由行動...、例えばボードゲーム等の娯楽や、期限付き、監視部隊付きで外出まで許可されているが、しかしそれが必ずしも叶うかといえばそうではなかった。

そんな飼い殺し専用のような施設で、ナオトとレオナは鉄格子越しに再び相対していた。

「何の用だ?准尉殿?」

皮肉たっぷりの声音でレオナが言い捨てる。准尉とはナオトの事である。南海ナオト准尉、それが義勇軍でのナオトの名であった。ちなみに、アキラは同じく准尉、小隊長であり基地守備隊の責任者であるタイゾウは少佐である。

「お前を軍に登用するとの司令部の命令だ、来てもらうぞ」

「はっ、笑わせんなよ。お前らと協働なんざ死んでもゴメンだ」

やはり、レオナは軍に入ることを拒む。経歴を考えれば当然の事だ。必然と言っていい。

彼女は手に持っているタバコを吹かす。この辺りでは手に入りにくい銘柄である。大方看守から貰ったものと推測出来た。

「タバコはやめろ...」

ナオトはタバコは吸わない主義であった。この時世、タバコは数少ない嗜好品であり、未成年でも吸う者は多かった。しかし、ナオトはあの臭いと喉の違和感が辛く、一度吸ったきり2度と吸ってはいなかった。匂いも辛い。

それはそれとして、地下空間故に換気が難しいという理由もあったのだが、それは言うまでもないだろうと言わなかった。

「お前に指図される謂れはねぇ、とっとと失せろ。もしくは死ね」

「言うなよ。まぁ、分からんでもないがな...」

そう受け流しながら、ナオトは看守から借りた鍵で格子を開け、中に入ってレオナの隣に座る。

「おい!」

「殴ってもいいぞ」

ぎゃんぎゃんとレオナは噛み付くが、ここで准尉という階級の人間を殴ればどうなるかは分かっているようで、渋面を浮かべながら振り上げかけた拳を下ろした。

「ずりィぞ、てめぇ...」

「なんとでも...」

小さな空間に、しばしの間沈黙が流れる。ようやく得たゆっくりと話し合える空間は、思っていたよりも重く、苦しい。

「なぁ」

「あのさ」

堪え切れずに二人が口を開いたのは、ほぼ同時だった。そして、思わず口を閉じる所作も同じだ。

「...先、言えよ」

レオナが気まずそうに言う。そう言うなら、とナオトは言葉を先程の思考で生まれたものと繋げた。

「あの攻撃の事、調べてみようと思う」

その言葉に衝撃を受け、レオナがナオトの方を見る。ナオトはレオナの目をじっと見つめていた。その目には決意の光が宿っていた。

「何だと?」

「何年かかるかは分からん。街一つを焼き払うくらいの事なんて、そこらで起きてるんだ。記録にも残ってないかもしれない。小さなボロ街だったしな。だが、必ず実行犯を突き止める」

「アテはあるのかよ。それに、それなら俺たちの所に来ても出来たはずだ」

「外部より内部からの方が調べやすいだろ。それに、俺も人の子だ。仇は許せないし、でも、確信が持てるまでは、やっぱり仲間は撃ちたくない」

「...それで、もしお仲間がやってても撃たねぇのか?」

「その時は、背中からでも」

「それほど切り替えれるやつはな、それはサイコパスって言うと思うんだがよ」

「そうだろうが、いやそうであろうと、俺はやるよ」

「ふぅん...」

ナオトの覚悟を見て取ったのか、それきりレオナは悪態をつかなくなった。ということは、会話もそこで1度途切れたということだ。面会時間はまだ残っていた。ナオトは先程のレオナのように相殺された発言を求める。

「いや、俺も同じこと聞こうとしてた。そうか、調べるのか...」

レオナの声からは、棘が少しだけ抜けているように感じた。ここがチャンスと、ナオトは彼女の心に雪崩れ込もうとする。

「だからそれまで、一緒に戦ってくれないか。お前と俺、あの頃を取り戻したいわけじゃない。お前だってこんな所で飼い続けられるのは本意では無いだろ」

捕虜にした時にそれなりに()()()()を言った手前、彼は情に訴えかける様なことは言えなかった。あくまで事務的な、凡庸な言葉だった。

「やーなこった。お前らに手を貸すくらいなら、ここでお前らの食料を食い尽くしてやる」

レオナの返事は変わらなかった。しかし、先程よりは柔らかくなっているような気がした。

「...お前の行く道はお前が決めればいい。正しさとか、利益とか、そんな事は知らん。だが、俺なら...、故郷の皆に、死んでしまった皆にあの世で笑って話せるように、恥じない生き方をしたい」

それだけ言い残して、ナオトはレオナの独房を後にする。決意を伝えられた喜びと、僅かな失意と苛立ちが胸を覆っていた。その歩みは力強かった。

(何も今、無理矢理に頼み入れる必要は無いだろう。じっくりと奴の心から棘を取り除いてやる)

残されたレオナは、彼の胸中をある程度察しているのか、複雑な心境を表情に出さないように火の消えたタバコを灰皿に潰し、もう1本くれ、と看守に声をかけた。


「ここか...、アレが鹵獲されている基地は...」

基地の外縁に、二人の男が立っていた。彼らの目には、堅牢に固められた基地の防衛設備が映っている。鉄条網と監視塔、そこから伸びるサーチライトの光線と12.7mm固定機銃と68mm迫撃砲の砲列は、侵入者を尽く挽肉に変える為のものであり、そういう圧力を放っている。

「アレを回収、あるいは破壊。必要に応じて戦闘員の殺害も許可...。安い仕事だわね」

もう一人の男が軽薄な口調で命令の内容を復唱する。その手には消音器付きの短機関銃が握られていた。

「油断はするな。アレを戦闘不能にしたパイロットもいるんだ」

「所詮はパイロットよ。生身であたくしたちに勝てる相手じゃないわ」

「また口調を変えたのか、前までは熱血な感じだっただろう」

「気にしないで、女の子はすぐ変わるものよ」

「何が女の子だ!付き合ってられん...」

「何だ、誰がそこにいる!」

張り上げられた怒声に空気が引き締まる。どうやら外回りに出ている警備の兵士が、2人の声を聞いたのだ。

「あーあ、アナタが怖い声で怒鳴るから」

「今度は嫁さん面か...」

ふざけながら、あるいは呆れながら、二人は兵士に向けて各々の銃を向けた。

「...っ!」

兵士が声を上げる間もなく、二つの銃口から飛び出た鉛玉が頭部を貫通する。兵士は目を剥いて、力無く崩れ落ちる。地面には脳漿と血が混ざったものがこびりついた。

「殺っちゃった以上、あたくしたちの侵入もそのうちにバレちゃうわね。さっさとやりましょっ?」

「はぁ...」

そのまま監視塔の下まで走り、周りに兵士が居ないことを確認したオカマ口調の男が背負ったケースから、さながらスパイ御用達と言ったような鉤爪付きのグラップルガンを取り出した。

「あたくしが行くわ。アナタは下から援護をお願い」

「了解」

突っ込むのにも疲れたのか、もう一人の男が背負ったケースから消音器付きの半自動小銃を取り出して、監視塔にいる兵士に照準を合わせる。その頃、オカマは落下防止用の柵に鉤爪を引っ掛け、そこから伸びた綱を収納する動きのまま上に上がっていく。

「何かの音?」

兵士が気付いた瞬間、下からの銃弾が顎を貫き、脳髄を破裂させた。それと同時に、塔に上がったオカマが塔の中にいる兵士を銃で排除する。

そのまま下の男も同じ要領で登り、二人は基地内部に侵入した。この時点で、ナオトは当然のこと、基地要員の全員がこのことに気づいていなかった。


「...で、ダメだったと」

「...すみません」

基地のフリー・スペースで合成豆のコーヒーを啜るタイゾウに、ナオトは施設での仔細を報告する。タイゾウは特に咎めることはしなかった。ちなみにアキラはというと、既に寝ているとタイゾウが愚痴った。曰く、もっと話に付き合ってくれても良かったと。

「だが、いい感触だったんじゃないか?」

「分かるんですか?」

「顔を見ればな」

タイゾウの言う通り、ナオトの顔は、少なくとも以前に比べれば見違えるほど影が消えていた。心残りがある程度払拭出来たのだろうと、タイゾウは思った。

「でな、俺たちが鹵獲したあの機体あるじゃない」

「あぁ、レオナの?」

「あれの解析がある程度終わったそうだ。とんでもないことが分かったんだと」

タイゾウが小さい子に聞かせるように抑揚を大きくつけて言う。

「とんでもないこと?」

「実は...」

そこまでで、突如鳴り響いたサイレンとラッパ音にタイゾウの言葉が遮られた。

「くそ!こんないい場面で敵かよ!」

「こんな時間に!?...しかし、MPTはいないようです」

MPTがいるなら、相応のラッパが鳴るはずだ。しかし、今サイレンの裏で鳴っているラッパは第三種戦闘警報、「総員、白兵戦闘用意」を意味するものである。すなわち、敵の歩兵部隊ないし戦車や装甲車などの装甲部隊が基地内部に侵入したということだ、が。

「戦車部隊のような駆動音はしない。大規模な部隊なら監視網に引っかかってとっくに警報は鳴ってるはずです。つまり...」

「少数精鋭の歩兵って事だ」

格納庫に走りながら、二人は冷静に状況を分析する。基地の防衛に務めるためだ。

通常、基地にはこのような状況に対応するため、陸戦用の即応部隊が駐屯している。塩那基地においても同様で、少数の主力戦車(MBT)即製戦闘車両(テクニカル)を中心とする第一〇三機動大隊が配備されていた。実際、今もテクニカルが基地中を索敵するために巡回し、武装した兵員が走り回っていた。

「敵の目的が分からない以上、あらゆる所を守る必要がある。俺たちは月華に乗って、MBT隊と共に敵の本隊が来るかどうか、周辺の警戒をするぞ」

機装服に着替え、兵舎から自分たちの月華がある第2格納庫に飛び込む。そこでは最低限の整備員と、バリケードを構築している兵員で立てこもっていた。

「鹵獲した機体は!」

「シートをかけてあります!敵の狙いだとして、これの可能性が高いですから!」

「ようし!」

格納庫の一番奥に、ブルーシートで覆われたMPTが擱座していた。あまり戦略的価値の無いこの基地に敵が潜り込んだなら、狙いは鹵獲した機体の奪還、または破壊の可能性が高いからとタイゾウは踏んでいた。

「俺の機体は出せるのか!?」

「全機稼働問題なし!」

既にコクピットが開いている月華に乗り、いくつかのシークエンスを省略して起動する。

「ナオト!念の為だが、ネットガンを持っていけ!敵戦闘員と接触する時に使うんだ!」

銃を持ったカンジが無線越しに伝えると、ナオトは懸架された二七式重機関砲とは別に、様々な装備が入っているコンテナの中からネットガンを手に取った。掴んだそれを腰部フロント・ウェポン・ラックに収め、ナオト機を待っているタイゾウ機に振り返る。

「もし敵戦闘員を見つけたら、ネットガンで生け捕りにしてやれ。色々と聞くことがある」

「了解。...アキラは?」

「今起きましたぁ!」

走りながら絶叫するアキラが、ナオトの視界に入る。茶色の髪は乱れに乱れ、顔には精力というものが無かった。

「遅い!」

「早く乗って来い!」

「は、はい!」

二人の怒号に気圧され、慌てて自機に乗ろうとするアキラだったが、突然動きを止めると、

「全員伏せてください!」

そう彼が叫ぶと共に、格納庫の天井が爆発した。ガラス片が次々に落ち、下にいる人間に容赦なく降りかかる。間一髪と言ったところでナオトとタイゾウの月華が覆ったことで多くの人間は事なきを得たが、覆いきれなかった他の兵士たちは、ガラス片が突き刺さり呻き声をあげていた。

「上だ!」

誰かが挙げた声に、全員が天井を見上げる。そこには確かに、二人の人影が月を背景に並んで見下ろしていた。

「この野郎ふざけやがって!」

血の気の多い兵士が小銃を撃ちまくる。しかしまともに当たらず、全ての弾は掠めることもなかった。

右に立つ男が何かを取り出す。ナオトは機体のカメラの倍率を上げ、そしてその正体に気づいて叫んだ。

「グレネードランチャーだ!」

言うや否や、ぽん、ぽんと気の抜けた音が六回鳴る。下にいる兵士達が肉片になる覚悟を決めたその瞬間、六発の銃声とともに、六個の爆発が立て続けに起こった。そして、爆発の黒煙が晴れた時、そこにいる全員が驚愕した。

煙の中にいたのは、銃口を上に向けたカンジの姿だった。その表情に戸惑いはなく、ただ小虫を叩いた後のような顔付きであった。

「...カ、カンジ、さん?」

頭を抱えて蹲っていたアキラが、禁忌のモノに触れるかのように恐る恐る声をかける。それに構わず、カンジは続いて、人影に向けて数発小銃を撃つ。

極めて高い精度で発射されたそれは、二人それぞれに全弾が命中し、よろけた二人は天井から体勢を崩したまま落ちた。

「全員離れろ!こいつらは俺が相手をする!」

言い終わる前に、落ちたはずの二人の敵の内、一人がカンジに向けて飛びかかる。その手には大振りのナイフが握られていた。しかし、カンジはすんでの所で身体を反らし、鼻先で刃を避ける。そして、腰のホルスターからDAR-44と呼ばれるオートマチック・リボルバーを引き抜くと、体勢が伸びきった敵に向けて六発全てを撃った。が、敵もそれを間一髪で避けた。

「やっぱり、生きてやがったな」

「ちょっとヤダ、ナイスで素敵なおじいちゃんがいるじゃない」

後ろに跳躍して距離を取った敵の影が驚嘆する。しかし、ナオトたちの脳内では敵が生きているとか、カンジの白兵戦能力とか、それらのごちゃごちゃした考えは1つの思考に蹂躙されていた。

「オ、オカマ?」

「ふざけてるのかよ!?」

しかし、オカマな口調に反して、敵の容姿はあまりにも漢らしかった。剃り上げた頭髪、生え揃った口から顎にかけた髭、並列に頭を三つは並べられる程の肩幅。正に屈強な戦士といった風貌だ。故に、余計に混乱の元になっていた。

「おい、見つかっちまった以上、プランBに変更すべきだ。ビーコンを使うぞ」

埃を払いながら立ち上がる、もう一人の敵はまともそうだ。男らしい話し方とは裏腹に、華奢でその顔立ちは端正な、中性的な顔だった。アキラは整った顔の中にも男らしさを感じるが、この男は傍から見れば女子と見紛うほどに可愛らしい面と声と体格をしていた。横目でちらと見たアキラは敵であると言うのに、少しだけドギマギしたのはまた別の話だ。

「そうね。ごめんなさいおじいちゃん、あたくしたち任務の為なら手段は厭わないの」

オカマが言うと共に、もう一人が掲げたビーコンから秘匿信号が空へと打ち出される。不可視のそれを、超高空で待機していたステルス輸送機SC-1の電信機がキャッチする。

「"ナイトウルフ"より信号です。コード300、作戦行動上二支障アリ、MPTヲ要ス」

「"ナイトホーク"はこれより敵基地空域に進入し、MPTを投下する。アンチレーダーシステム解除、主翼格納、全速前進!」

機長の号令が下ると、総勢十名の乗員たちの手によって次々と命令が実行される。先程まで翼を広げた巨鳥のようであった機影は、段々と矢尻や弾丸のような姿となる。

SC-1は超音速巡航形態に変形する事が出来る、特殊な輸送機である。無論凄まじいコストがかかるため、生産された機体は少ない。

その機体を基地のレーダーが捉えたのは、SC-1が格納庫上空手前まで飛行を終えた所だった。

「き、基地上空に機影あり!これはステルス輸送機SC-1!?」

「なぜ見つけられなかった!」

「撃ち落とせるか?」

CIC担当が怒鳴り、基地司令が落ち着いた声で尋ねる。報告したオペレーターは、

「この基地には旧式の対空ミサイルや火砲がありますが、何れもSC-1のスピードには及びません。大体SC-1の設計思想は敵の迎撃を全て振り切るってものですから、ただでさえ旧式しかない我が基地では撃墜は不可能です。初飛行が行われた際にはマッハ8もの超スピードを...」

「わ、分かった。不可能なんだな」

早口でまだ説明を続けようとするオペレーターを抑え、司令は命令を下す。

「第五航空団に支援要請を。あれを逃せば後々まで災いとなりうる、ここで叩くのだ」

第五航空団は塩那基地より南西に六十km程の地点にある飛行場に駐屯する航空部隊である。少数ではあるが、最新鋭戦闘機の九八式制空戦闘機や一〇〇式多用途戦闘爆撃機などが配備されていた。

九八式の加速性能ならば、SC-1であっても捕捉が可能である、と司令は踏んだ。九八式の最高速度はマッハ9.2、SC-1よりも速いからだ。

しかし、彼の期待は思わぬ方向へ向かう。

「第5航空団は現在、第八歩兵連隊への支援攻撃を行っています!余剰戦力では対抗不能!」

前日から続いている、新奥州軍による前線への攻撃。それに対応している第八歩兵連隊を支援するため、航空隊は出払っていると言う。つまり、対応は不可能ということだ。

「...やむを得んか。総員、敵機の行動には十分に警戒するように」

ついに、司令は折れた。そして、その間に輸送機は、二機のMPTを投下していたのだ。

その光景は、ナオトたちも目撃していた。

「あれは、MPT!」

「マズイな。仕方ない、生身の内に排除する!」

タイゾウの月華がバルカン砲を向けるが、オカマらは腕を大きく振りかぶって何かを投擲した。

次の瞬間、格納庫に強烈な光が発生する。

「クソ、閃光弾だ!」

「み、見えない...!」

視界が奪われた事で人間は恐慌状態となる。この場合、ナオトはそこらかしらにライフルを撃ちたい衝動に駆られたが、ここは格納庫、まして周りには生身の友軍がいる状況。ギリギリ残っていた理性が働き、視界の回復を優先した。

しかし、その間に二人は既にMPTに乗り込んでいたのだ。

「いやー、想定外だわね。まさかMPT(この子)を使うことになるなんて」

「お前が派手に撃ちすぎなんだ!全く!」

半ば独り言のようにおどけ、それを叱るが、2人とも素早く機体を操作し、起動させた。

月華のセンサーが、敵機のエンジンが起動したことを知らせる。ナオトは徐々に戻りつつある視界をアテに小銃を構えるが、それより速く連射された弾丸が光の中から飛来し、二七式の銃身を貫いた。運悪く弾倉に誘爆した二七式を慌てて放棄する。

「...やってくれるな!」

「俺の腕は、まだまだこんなものではないぞ」

オカマではない、もう一人の自信に満ちた声。得体の知れない奴が相手じゃなくて良かった、と思う反面、この敵も油断ならないものとも感じていた。

左腕のバルカン砲を敵機に向ける。しかしそれを相手は読んだのか、右腕に持ったMPT大のハンドガンを連射する。そのうちの何発かが月華の左腕を貫いた。

「左腕くらいで...!」

幸いにも弾倉への誘爆は避けたのか、月華の左腕はその機能を喪失したのみで、爆発はしなかった。

ナオトの月華が急加速をかける。敵はハンドガンを撃とうと銃口を上げるが、次の瞬間、月華から迸った予想外の火線に晒され、月華の左腕と同じように機能を失った。

月華の脇腹部には対人用14mm機関銃が装備されており、これはMPTの装甲を貫徹するのは困難だが、ライフル等の兵装程度ならば容易に破壊することが出来る。

とはいえ、ナオトが14mmを隠し持っていたように、相手も何か別の手段があるかもしれない。ナオトはあくまで慎重に対峙した。

同時刻...。

タイゾウとアキラは、もう一人の敵、つまりオカマを相手に死闘を繰り広げていた。

「こいつを引き離さないと...!」

アキラが呻く。敵の狙いが鹵獲した機体ならば、少なくともそれが置いてある格納庫内では戦えない。そうでなくとも、ここにはカンジ含め多くの生身の人間がいる。15mを超える機体同士が縦横無尽に戦えば、巻き込まれるかもしれない。

「アキラ、俺の合図でミサイルを言う通りに撃て!」

手をこまねいているアキラに、タイゾウは吼えた。その声には有無を言わさぬ重苦しさがあった。普段の軽薄な口調から一転、アキラは少し怯えつつ、

「了解!」

といつも通り元気いっぱいに答えた。

タイゾウ機と敵機が対峙し、徐々にポジションを変えながら間合いを詰めていく。敵機の武器は短銃身のガトリング銃、タイゾウ機は先の戦いで装備していた大型スナイパーライフルでは無く、武装コンテナの中から無造作に取ったストックレスタイプのショットガンである。どちらも有効射程が短く、距離を詰めなければ打撃を与えられない。しかし、タイゾウにはとある秘策があった。

タイゾウ機のグライディング・ギアが急速に回転速度を上げる。

「今だ!奴の後ろに向かって斉射しろ!」

「行きます!」

アキラ機の両肩のミサイル、左腕のハンドミサイルが一斉に白煙を帯びて放たれる。十数発のミサイルが一直線に敵機を()()()いく。

「あんら、可愛らしいのに腕はまだまだね...!」

「間抜けがぁ!」

オカマの声を遥かに超える声量で、タイゾウが叫ぶ。同時に、回転が最高レベルに達した機体が凄まじい速度で敵機へ突進を仕掛けた。衝突の衝撃でオカマはコンソールに顔をぶつける。

「ヤダ、大胆なアプローチは好きじゃないのよね!」

オカマは鼻に痺れるような痛みを感じながら、尚もおどけて見せた。

「うるせぇ!潰して黙らせる!」

ミサイルによって破壊された格納庫の壁をそのまま突き抜け、両機は格納庫の外へもつれ出た。体勢を崩したまま敵機はガトリングを撃つが、タイゾウ機は横に素早く避ける。そのまま懐に潜り込み、ショットガンを撃とうとしたが、ガトリングの分厚い弾幕がそれを許さない。と、そこにアキラが現れて、右手に持ったニードルランチャーを一連射する。超電磁誘導で直径60cm程のチタン製の針を連続で撃ち出す兵器であり、敵機を行動不能にするのに最適であった。

アキラの側面からの援護射撃により生まれた僅かな弾幕の間隙を認めたタイゾウは、ここぞとばかりに間合いを詰め、ショットガンの銃口をコクピットと思しき箇所に押し当てる。

「取った!」

「取ってないのよォ!」

その銃口から何十発もの鉄球が放たれる直前、突如敵機の二ー・アーマーが開き、そこから放たれた高速の徹甲弾がショットガンを貫いた。

「レールガンだとぉ!?」

「仕込みが役に立つなんてね!」

オカマの機体は、機体の膝にレールガン発射機構を備えていた。無論、位置が位置だけに装填数はたったの一発で、使い所も限られるが、今のようなシチュエーションでは正に仕込み銃としての活躍を見せた。

「でも、こんなに追い込まれるのは久しぶり。中々やるわね、アナタ」

オカマは依然余裕を崩さない。だが、それはタイゾウも同じだった。

「面白い!...俺は深山タイゾウ!この基地の守備隊長だ。あんたの名前は!?」

「うん?ナンパなら戦場外のところで聞くわよ?」

「茶化すな、俺は本気を出す相手には名前を聞き合うのが礼儀だと思ってるんだ。だから、名前を教えろ!」

無線越しにオカマが僅かに驚いた(あるいは引いた)のが、タイゾウに伝わる。少しの間の後、笑いを含んだ声音でオカマが言った。

「いいわ、教えてア・ゲ・ル♪...あたくしの名前は桃月タケル。傭兵部隊ナイトハンターの構成員よ。ちなみにあそこのカワイコちゃんは九頭竜ハルキよ、タイゾウちゃん♪」

「おい!?何故勝手に教える!」

もう一人の敵...、ハルキが信じられないと言った風に叫ぶ。

「ナイトハンター...、殺し屋部隊か」

「道理で気付かなかった訳だ...」

ナイトハンター。日本列島ならず、アジア圏各所に根拠地を置く、大規模な民間軍事会社(PMC)。前大戦に初めて結成、実戦投入され、その特性と実力から殺し屋部隊という仇名が付けられた。

航空機やMPT、果ては艦隊まで保有している他、"金を払えば何でもする"という組織の方針の為、現在ではPMCでは無く、軍隊規模の戦力を持つテロリストとして扱われている。

「そのナイトハンターが、我々を狙う...」

「隠密作戦に特化した部隊が、戦術的価値のないこの基地を狙うか...。どうやら、俺たちの考えは間違ってないようだ」

(ヤダ、バレてる...、この子達面白いわぁ)

(ここは一度退くぞ。こいつら、思ったよりやり手だ)

無線ではなく、ナイトハンターが開発した秘匿信号を用いる携帯機器で意思疎通を行う。

(冗談!こんな面白い子達相手に逃げるなんて、作法がなってないわ)

「いや作法とかそんなんじゃなくてだな...、んん!?」

「うぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!!!!」

ふざけたオカマに煮え立っていた思考を、無線に流れた絶叫が掻き消す。ハルキが振り返ろうとした途端、ドガン!という激しい衝突音と共に機体が横に傾き、コクピットに衝撃が伝わる。

「ぐっ...!クソっ、なんだ!」

「...あらヤダ、こりゃまずいワ」

即座に体勢を立て直したハルキ機が、今にも動き出そうとしているタイゾウ達の月華が、そして真っ先に状況を理解したタケルが冷や汗を1滴かいて呟く。

「月華...!味方なのか!?」

「ちょっと待ってください!今の声って...!」

強烈な体当りを喰らわせた月華のバイザータイプのセンサーが妖しく光る。片腕の無い中破した月華は、恐らく格納庫から無理やり出したものだろう。

「レオナか...!」

「ナオト...、借りをやるよ」

何故彼女がここにいるのか、何故月華に乗っているのか、話は数十分ほど遡る...。

前回に続いて裏設定的なの書きます

ナイトハンターの保有戦力は歩兵9万、戦闘機76機、爆撃機49機、戦略爆撃機51機、MPT231機、艦艇39隻と普通に1国の軍隊規模はありますね

これが金払えば好きに動かせるんだからそらテロリスト扱いもされる訳や

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