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Reunion

「レオ...、なんで...」

「ナオト...!てめぇ...!」

幼い頃の初恋の相手は、今や友人でも何でもなく、自分に殺意を向ける敵になっていた。

両者は互いに眉間に皺を寄せて、再び銃口を向ける。

「何故盗賊なんか!春崎レオナ程の女が!」

「ナオトこそ!なんでここにいやがる!」

互いに本心からの問いだった。二人は相手の主張の意味がわからなかったが、それを知るには7年程、時を遡る必要がある。


「ナオト!今日も例の場所、行かねぇか!?」

いつものように、レオナが戦場跡に誘ってくる。そこは二人が住んでいるバラック街から山1つを越えた平原にあり、連日大小問わず戦闘が起きている、所謂激戦地であった。そこに、レオナが軍用バイクを運転し、ナオトがその後ろに乗って行く、というのが通例だった。この時、三浦レオナ十一歳、南海ナオト九歳である。

「また?あんまりいい事じゃないと思うけどね、僕は」

幼かった二人の間には、考え方の隔たりがあった。ナオトは戦場跡は恐ろしく、また愚かな集団墓地のようなものと考え、一方でレオナは、戦場跡はお宝の海と思っていたのだ。もっとも、後にナオトも戦場跡を作る一因となったのは皮肉な事だ。戦場漁りは日本のみならず世界中で起こっていた事で、兵器の残骸や兵士の死体から剥ぎ取った装備品などは自衛の装備にしたり、他の軍に売ればそれなりに金を得れるし、稼動状態にあるMPTなどは、貴重な労働力として運用出来る。バラック街では、こうした事で何とか生計を立てている人も多かった。事実、レオナのバイクだって、そこに落ちていたものを修理して使用している。彼らにとってはまさに、お宝の海だったのだ。

「ンだよ、どうせオメーもやることねえんだろ?なら付き合えよっ。俺のケーザイカツドーなんだからよ」

「...はいはい、分かったよ」

読んでいた本を置き、バイクに跨る。

「あら、またあそこへ?気をつけるのよ?」

窓から母親がひょっこりと顔を出す。彼女は兵士だった父親を戦地で亡くした後、女手一つでナオトを育て上げた女傑だった。

「分かってるよ、母さん。行ってくるね」

「ンじゃ行こうかぁ!」

エンジンの重低音とレオナの声が混ざり、ナオトの耳をつんざく。

「叫ぶな!」

「一々口煩い奴め!」

憎まれ口を叩いていたが、レオナがバイクを加速させると、正面から来た空気がナオトの顔面に直撃し、言葉が成立しなくなる。

「へへっ!ざまぁねぇや!」

(こいつ...!)

上半身を前に屈め、レオナを盾にして顔への空気の直撃を避ける体勢になる。

「もうちょっとスピードは落とせよ!顔面が吹っ飛ぶと思った!」

「ん?わりーな、風の音で聞こえねぇんだわ!」

「馬鹿にしてくれてさぁ...!」

「そんなことよりもうすぐ着くぞ、軍手とマスク、着けとけよ」

先程まで空を覆っていた木々の緑を抜け、代わりに仄暗い曇天が見える。バイクが走る道も段々舗装が無くなっていき、振動による尻への攻撃が激しさを増しつつあった。

「えぇ?まだ先でしょ...?...うわぁっ!く、くさいっ!」

打ち付けて来る風の中に腐臭が混じり出す。レオナを見ると、いつの間に付けたのか、マスクで臭いを防いでいた。

「ほら、だから付けろって。嘘はつかねぇんだよ、俺は」

「こんな強風で出来るか!」

ナオトが遂に本気の声音で怒るも、レオナは悦に入ったような声で笑う。

そういえば、この女はこういうやつだった、とナオトは少し落胆した。何故自分はこんな女を好いたのか、それは分からない。故に、ナオトは複雑な感情を抱き続けてきた。


「うひょー!相っ変わらずお宝!」

レオナが嬉々として残骸と死体の海に飛び込んでいく。ナオトは凄惨な風景に辟易しながらそれに続いた。

「こいつはM-21ライフル?こんな骨董品で良くこんな所に出てきたな、このオッサン。おっ!こりゃ良いもん見つけた!おいナオト!来てみろよ!」

ぶつぶつと物色していたレオナが大声で呼ぶと、少し離れたところでMPTの残骸から電子部品を漁っていたナオトがひょこひょこ歩いてくる。

「これすげぇぞ!稼働出来るAPCだ!」

「へぇ、珍しいね」

レオナが見せつけたのは、殆ど無傷の装甲兵員輸送車(APC)であった。こういった輸送能力のあるものは大抵戦闘終了後に勝った側が鹵獲して持って帰るため、放置されているものは珍しい。

「これならさ、いつもよりいっぱい持って帰れるじゃねぇか!いやぁ、こりゃ一攫千金も夢じゃねぇ!」

中々聞けない、純粋に喜気に満ちた笑い声が響く。だが対照的に、ナオトは不安気な表情を浮かべていた。

「いや、危ないでしょ。APCの運転なんてしたことないし、なによりどこかの馬鹿に敵と思われて撃たれたらどうするの」

彼の言い分に一理あると思ったのか、レオナが渋面を浮かべて押し黙った。それはそれは渋い顔だった。

結局、その日の成果は旧ロシア軍の小銃であるAKC-772ライフルにバイクの替えのタイヤ、そして何人かの死体から剥ぎ取った現金だった。

これらはバラック街の住人と、あるいは2人とその家族だけで山分けするということになった。

「絶対大丈夫だったのに...。なぁナオト、やっぱりAPCにさ...」

「いーやーだ。僕はまだ死にたくないんだ」

「死ぬかよぉ...」

既にバイクに跨り、なおも恨み言を零すレオナだった。


「せめてトラックでもあればねぇ」

「ほんと、なんでAPCは残っててトラックは無いんだよ」

「輜重部隊が使ってるんでしょ?前線にはあんまり出てこないんじゃない?」

日は徐々にその姿を完全に隠しつつあり、山道は既に薄暗い。その中を、二人のバイクは走っていた。走りながら、未だにレオナは愚痴り、ナオトはそれを宥めていた。

「ていうか、おいナオト。さっきから背中が痛てぇんだけど」

レオナがじろりと振り返りながら言い放つ。何の事かと一瞬思ったが、ナオトは直ぐにその原因を理解した。

ナオトは今、兵隊の死体から剥ぎ取った防弾チョッキを着ているが、そのマガジンポケットに入っているAKC-772のマガジンがバイクが揺れる度に彼女の背中に当たっているのだった。

「あぁ、ごめん。後ろに回すよ」

しかし後ろに回そうとすると、今度は肩に掛けているライフルが干渉して、上手く回せない。その上バイクの振動があれば、体勢を崩してしまうのも仕方が無かった。

「ちょっ、レオナごめん!一回止めて!お願い!」

「ん?おぉ!?わ、分かった!」

流石に不味いと、レオナが無理矢理バイクを止める。しかし、その時に変な負荷がかかったのだろうか、バイクから小さく破裂音が鳴った。

「しまった...!パンクしちゃった...!」

「あちゃー...」

「替えのタイヤあるけど...」

「無理だ。工具もねぇんだぞ」

一呼吸挟んで、ナオトが呟く。

「...僕が走って迎えを呼んでくる。僕のせいでパンクしちゃったようなものだ」

レオナが振り返ると、ナオトはバツの悪そうな顔をしていた。彼の心を汲んだのか、レオナはにっかり笑って言う。

「いーや。俺が行ってやる。体力無い癖に責任感ばっか強いんだからさ」

「でも...」

「いーって。ここで待っててくれ。二時間もかからねぇよ」

そこまで言われ、自分の情けなさに呆れつつ、

「ごめん、じゃあ、任せた」

と、責任を託すしかなかった。出来るだけの荷物を降ろして身軽になり、軽快に駆け出していったレオナの背中を、ナオトは遣る方無い気持ちで見送った。


レオナが言った二時間が過ぎた。まだ帰ってこない。三時間が過ぎた。まだ帰ってこない。四時間が過ぎた頃、ナオトは流石に異常事態だと感じた。レオナが少し前に言っていたように、彼女は基本的に嘘をつかない。特にこんな状況下で嘘を言うほど、腐った人間では無いとナオトは確信していたからだ。ナオトはバイクとタイヤを長考の末に置いたまま、ライフルと現金を持ってレオナの行った道を辿りだした。

周りの見えない視界から、何かに狙われているような気配を感じながら進む。実際のところ、ナオトを狙うものは一つたりとも存在していなかったが、彼の幼い心はその得体の知れない恐怖に包まれていた。

街まであと数キロメートルといった所で、覚えのある臭いがナオトの鼻腔に絡みついた。

それはナオトに、ナオトが持つ戦利品に染み付いている臭いだった。そして、その臭いは街の方から流れてきている。

「...まさか?」

胸を釘で打ち抜かれたような感覚を覚えた。呼吸がだんだん短くなる。いてもいられず、ナオトはライフルを捨てて走り出した。

(嘘だ、冗談だ。これは錯覚だ...!)

動悸が早くなり、太腿が痛み出す。それでも、足を止められない。道を外れ、街を見渡せる高台へと走る。状況を把握しやすいからだ。

(何かの間違いだ、ありえない。そんな馬鹿な...!)

自身に言い聞かせながら、走って、走って、走り抜けた先の景色を見て、ナオトは崩れ落ちた。

見渡す限りの火、夜の闇を貫くマズルフラッシュ、漂う硝煙の臭い、あちこちで上がる悲鳴とうめき声、それに銃声。そこは戦場などではなく、ほんの半日前まで自分達が日常を送っていた、愛しきボロのバラック街だった。

(なんで...、攻撃されて...)

あまりの衝撃に、ナオトは声すら出せなかった。そしてひたすらに、自分の家を探した。ようやく見つけたそれは、その直後にMPTの持つ火炎放射器によって焼き払われた。

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

駆け出した。地獄へと向かって。しかし、燃え広がる炎がそれを許さなかった。最早近づくことさえできないまま、ナオトは故郷が焼き尽くされるのをただ呆然と見つめる他無かった。


悪夢の夜が明け、襲撃者達が去った後、燃え残った街をふらふらと歩く。あの愛おしい故郷の街は完全に壊滅していた。そこら中に死体と臓物、汚物が散乱している。その中には、ナオトと交流の会った人間も多くいた。

不思議と彼の頭は冷静だった。例え仲の良かった友人が臓物を撒き散らして転がっていても、

ちらりと一瞥をくれてやるばかりで、感傷のひとつもなかった。ただただ全ての事象に興味が湧かなかった。

そして、かつて自分の家だった燃え殻の前に立った。その玄関口には焼け焦げた死体が横たわっていた。識別出来ない程損壊は激しかったが、何故かナオトは瞬時に正体を理解出来た。

「母さん...!」

その場に跪いて、焼死体に縋り泣く子供。それはこの時代、どのような場所でも見られる、戦災孤児の典型的な例だ。それに、ナオトはなったのだ。


一通り涙を流した後、ナオトは母親を埋めるために、燃え殻の中に穴を掘り始めた。そこに母親を惜しみながら納め、そして埋める。その間も、また涙が溢れていた。

いよいよもって、街は完全に壊滅していた。先程まで苦しそうに呻いていた血塗れの男も、子を抱いた母親も、その腕の中で泣いていた子供も、老人も鳥も犬も、何もかもがその命を失っていた。

「...レオは...?」

街に居たであろうレオナの姿も、また無かった。巻き込まれる前に逃げたのか、あるいは死体すら残らなかったのか。実際、誰かの判別がつかないほど原型を留めていない死体はそこら中にあった。

この死の街に生きているのはナオト一人だった。

そのことに気付いた時、ナオトは自身の心の中で何かが音を立てて壊れたのを知覚した。

親も友人も、恐らくは初恋の人も一挙に失い、拠り所を失った。人との繋がりを完全に失った時、人は自己を失う。他人を意識するから、自我を知覚する。ナオトは今、まさにその繋がりを失ったのだ。

それを実感した時、ナオトはあらん限りの声で吼えた。天をも貫く、命を搾り切る様な慟哭だった...。

こんばんは。

後書き後書きと何を書けば良いのか全く分かりません。とりあえず近況報告をば。

第一志望の進路に受かりましたやったね。これで卒業までは執筆に専念出来ます。

投稿ペース死んでますけどこれからはちょっとだけ早くなると思います。

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