The world end
世界は終わった。
終わってしまうのも仕方が無かった。
軍人政治、総力戦、核、新たな兵器、新たな戦術、変遷する戦争の形。
世界は形を変えながらも、確実に終焉を迎えようとしていた。
西暦2095年、長く長く続いた戦争に疲弊した世界中の国民達が立ち上がり、軍人政治の体制は倒れ、戦争は終わった。
戦争は終わり、平和が訪れたかに見えた。しかし、多くが市井の人間で構成された暫定政府には戦後処理を行う能力が備わっていなかった。
また、終戦直前に何処かの国が放った核...、最早国家の形すら成していなかった末期の戦場から放たれた核兵器により、地表の三割が汚染され、占領地の返還、領土の分配は事実上、汚染地域の押し付け合いとなっていた。新たな戦争が起こる火種としては充分すぎた。
だが、戦争は起こらなかった。先の戦争で疲弊しきっていた人々は、再び自分たちを戦火に包もうとする問題を放棄してしまった。
その結果、一部の者たちの不満が再び爆発し、世界中で内乱が起こった。それが、今日まで続く各国の統一抗争である。そしてそれは、日本という島国においても同様であった。
関東・南近畿・四国を支配下に置く日本統一義勇軍。
北海道・樺太を支配下に置く蝦夷・樺太共同戦線。
東北・北陸を支配下におく新奥州軍。
九州・中国・北近畿を支配下に置く神州統合軍。
この四つの勢力に分かれて、日夜泥沼の抗争を繰り広げていた。日本統一を夢見た者、今日生きるための資源を求める者。純粋に殺しを楽しむ者。日本列島は、様々な思惑をぶち込んだ地獄の釜となった。
これは、自由と統一、そして贖罪を求めて命を賭した青年の、ほんの短い闘争の記録である。
「...」
軍事基地の郊外で無言で佇んでいる青年がいた。歳の頃にして十六歳程の、ごく普通の青年だ。ただ違いがあるとすれば、左の瞼が閉じきって、そこに大きな一本の傷跡が走っていることだろうか。
名前は南海ナオト。彼の眼前には凄惨な戦場の残滓が広がっている。未だに立ちこめている硝煙と死体の腐臭は、今となってはこの日本という島の至る所で嗅ぐことが出来た。
地平線の彼方まで続いていると思える戦場跡の中に点々と、残骸を掻き漁る人影のようなものがあった。全高十五m程の巨体で、かつ、骨格を露出させ、人間にしては動きが機械的だ。
マルチ・パーパス・タンク、直訳して多用途汎用型戦車。略せばMPT、様々に呼ばれる汎用戦術機動兵器である。かつての大戦で初めて本格的に投入され、その汎用性により戦場の在り方を一変させ、戦争を長期化させた原因の一つである。
その基本用途は無論戦闘や輸送であるが、例えば目の前の光景のように残骸回収から建設、工事、果ては下水等の汚染が疑われる地域の清掃まで幅広い分野で運用されている。
ナオトもMPTのパイロットだ。
二式歩兵型機動戦闘車両、採用名[月華]。
ナオトが所属する日本統一義勇軍が運用している戦闘用MPTである。
ふと、ナオトの背後から足音が近づいてきていた。彼が振り向くより先に、その足音の主から声をかけられる。
「何やってんの、こんな場所で」
一人の青年が手を振っている。ナオトと同じ制服を身にまとう、端正な顔立ちをした青年だ。この時勢に似つかわしい、さらり、さらりと風に揺れる柔らかそうな茶色の髪の毛が育ちの良さを現している。
「...俺が何をしようが、お前には関係ないだろう、アキラ」
「そういう訳にも行かないよ、僕と君は友達じゃない」
凄みを利かせたナオトの声に、アキラは臆した様子も無く答える。
彼の名は名雲アキラ。ナオトと同じく、日本統一義勇軍第五特装機動小隊に属するMPTパイロットである。天真爛漫、純真無垢を現したような人間だ。
「ね、僕たち友達だよね?」
「...」
「どうして何も言わないの?」
渋面を浮かべるナオトに尚も質問攻めを繰り出そうとするアキラだったが、突如響いたサイレンがその流れを断ち切った。
「戦闘配備の警報?この辺りに他勢力の部隊はいなかったと思うけど」
疑念を口にするアキラを無視して、自身の月華が鎮座する格納庫へ駆け出す。
格納庫の中では、整備員や他のパイロットが慌ただしく活動していた。ナオトも専属の整備員が取り付いている月華のコクピットに飛び込む。ハッチを閉める直前、整備員の一人、小峠カンジがナオトに仕様書を突きつけてこう言った。
「お前さんの要望通り、この機体の反応速度を弄ったぞ。かなりピーキーな操縦性になっちまったんだが...、使えるか?」
「いや、十分だ。後は慣れて見せればいい」
「ヌハハ、頼もしいな」
上品とは言い難い笑い声を上げて、古傷まみれの手がナオトの頭を描き撫でる。
彼は時々、ナオトを自身の息子のように扱う癖があった。聞けば、ナオトと同じくらいの歳の息子を、戦火の中で亡くしたという。最初はナオトも嫌がっていたが、それを知ってからはある程度大人しくされるがままになっていた。
「ま、つまらん死に方だけはすんじゃねぇぞ」
カンジが少し寂寥を瞳に浮かべ、コクピットハッチを閉めた。
カンジの瞳を脳に刻み込みながら、機体の起動キーを差し込み、同時に起動した計器類を確認する。
ふと上を向くと、上面モニター越しにカンジが親指を立てて、ナオトにサインを送っていた。
「エンジン始動、出力正常、油圧、エネルギー供給、問題なし」
「出せるぞ!」
カンジ他、月華の整備員たちが離れていく。
「無線状況確認、管制塔へ、こちら十四番機。発進準備完了」
《り、了解。十四番機は第二格納庫より十五番機と発進後、目的地にて戦闘指揮中の十三番機と合流し、各個の行動に移ってください》
オペレーターから不慣れそうに大雑把な指示が飛ぶ。
所詮は軍閥。人員不足の為、経験が無い者でも仕事が割り振られる例も少なくなかった。
アクセルを踏むと同時に、機体がゆっくりと立ち上がり、壁に懸架されているMPT大の小銃、二七式重機関砲を手に取る。
「ウェポン・コネクション・システム異常なし。全武装稼働確認」
《十四番機、発進を許可します》
「行くぞ」
脚部裏に隠されていた車輪が顕になり、ローラースケートのような形になる。グライディング・ギアと呼ばれるこの機構は、MPTによる機動戦闘を簡略化するためのものであり、現在生産されている殆どのMPTに搭載されていた。
地面を滑りながら格納庫から離れ、指定された迎撃ポイントへと向かう。
その道中、以前まで新奥州軍の支配下にあった焼け荒れた街を通過した。そこには無数の腐敗した死体が転がっていた。街で1番大きな建物の壁には、『裏切り者に死を』とでかでかと殴り書かれている。
「裏切り者か...。まぁ、彼らにとってはそうなのかもしれないけど...」
アキラの声にナオトは深い憤りを感じた。彼はその無邪気さ故に感情の変遷が激しい。
「僕たちがやってないだけで、味方も同じようなことをやってる。いつまで続くのかな、こんなこと」
「...さぁな」
会話はそれ以上続かなかった。
「十四、十五番機戦線に到達。これより戦列に加わる」
ナオトがオペレーターに報告するが、混線しているのかノイズにまみれている。
迎撃ポイントに辿り着いた二人が見たのは、堅牢とは言い難い防衛線と、それの突破に苦戦する敵性部隊の姿だった。
険しい丘陵地帯に沿うように月華や重砲が配置され、踏破を狙う敵の部隊に対して砲弾を浴びせまくっていた。
月華の防衛線のその上に、別のMPTが配置されている。肩に装備された大型の複合砲からは絶え間なく発射炎が瞬き、その度に敵方に粉塵が舞った。だが、注目すべきはそこだけではない。MPTの下半身は通常の物のように人間のそれを象った二本足ではなく、蜘蛛のような六本足だったのだ。
「[轟嵐]を?」
「そうだ。近畿戦線の状況が良くなったのでな、こちらに回させた」
アキラの問に答えたのはナオトではなく、この防衛戦闘の指揮官であり、第五特装機動小隊隊長、深山タイゾウである。指揮官という肩書きながら、彼も月華に搭乗し、八合目の辺りに展開されている最終防衛ラインにて直接指揮を執っている。
轟嵐は、月華を砲撃戦用に改修した多脚型砲撃戦闘車両である。月華の上半身の内、コクピットは火器管制用のみに機能を絞り、右腕は四七式固定型重機関砲、左腕は一六式四連装ロケットランチャーにそれぞれ直結させ、下半身を六本足とそれを支える土台、そして操縦用のコクピットを搭載したものに換装した複座重装型のMPTである。当然高価であるから配備数も月華に比べれば少ないが、それでも複数の戦線を支えられる程には量産に成功していた。
「隊長、敵は誰なんです?MPTもそれなりにいるようですし、やはり他軍閥の...」
「うむ、俺もそう思ってはいたんだが...、そちらに偵察機からの航空写真を送ろう、確認してくれ」
タイゾウがそう言うと共に、側面のディスプレイに写真が映し出される。
「MPTか...、...これは新奥州の[鷹山]。やはり新奥州軍が?」
「待って。ほら、鷹山の隣の機体。これは多分、神州統合軍の[疾風]だ」
アキラがフォローを入れる。
「まさか、連中が共同戦線を?はっきり言って、そんなことが出来る程関係は良くないと思っていたが」
「そうじゃない。肩の部隊章が不自然に上塗りされてるでしょ?」
ここで初めてナオトはタイゾウの発言を理解した。
互いを憎み合ってる別組織の機体が協働しており、部隊章は抹消しようとした痕跡があるとなれば、紡がれる結論は一つだけだった。
「盗賊か...」
ナオトが静かに叫んで、タイゾウが意を得たりと指を鳴らす。
「この辺りでは最近、賊の活動が盛んになっていたらしい。司令部も襲撃の兆しだと思って戦力を回そうとしたらしいが、何せ現状が現状だからな」
如何にも疲労困憊といった風にタイゾウが溜息をつく。
何せこの男、先日まで東京区・赤坂の陸軍総司令部に派遣されていたのだ。そこで頭の硬い軍の官僚相手に三日三晩、予算を出せ、戦力を増強させろ、補給を潤沢にしろと食い下がっていたのだ。そして、帰ってきたと思えばすぐさま防衛戦の指揮。軍人とはいえ、並の者ならぶっ倒れている。
「第五小隊は第一防衛ライン、野戦部隊に加わる。敵は統率も執れていないし弱兵であるが、油断はするな」
「了解」
第一防衛ラインは丘陵地帯の外縁、旧市街地エリアに展開されている。市街地と言っても建物の多くは崩壊しており、MPTにとっては遮蔽の少ない戦場であったが、反対に戦車や対機甲歩兵等の通常兵器にとっては隠伏場所が多く、敵の進攻を食い止める防衛部隊においては、地の利を得ていると言える。
「来たか第五小隊!お前らは敵の攻勢が激しい左翼に向かってくれ!戦線を後退させつつ、後方砲撃部隊からの支援を受ける!」
現場指揮官の男の言葉に従い、砲火の激しい左翼の部隊と合流し、配置に着く。
「彼我の戦力は把握した。十四番機、これより攻撃を行う」
ヘッドアップディスプレイ(略HUD)に、非友軍機を示す赤色の光が映る。手前にいるMPT、鷹山に照準を合わせ、操縦桿に取り付けられた発射ボタンを押し込む。
ガン、ガン、ガンと金属が弾ける鈍い音が鳴り、二七式重機関砲の銃口が瞬く。放たれた90mm弾は真っ直ぐ、目標に向かって飛んでいく。
鷹山に着弾し、爆炎に変わると同時にディスプレイから反応が消える。
隣で戦っているアキラを見遣る。アキラの月華は前方に展開している装甲車部隊に向けて、左肩部に装備されているミサイルランチャー、HM-2八連装ミサイルランチャーを撃ち放っていた。これは月華の標準装備であるHM-1四連装ミサイルランチャーを改装したものであり、正面制圧能力を高めているものである。噴進煙が辺りを覆い、一歩遅れて立て続けに爆発が起こった。 だが、一つ撃ち漏らした車両がある。放たれたミサイルの一発が明後日の方角で爆散した。
「整備不良なんだから!」
悪態をつきながら小銃で撃破する。
月華は旧陸上自衛隊が使用していたMPTフレームを流用した急造量産機のため、性能そのものは低いものだった。
それに、整備員の質もお世辞にも良いとはいえなかった。カンジのような本職の整備員はまれで、大体は徴用された自転車屋や機械工と、アマチュアが多かったのだ。故に、実戦でも整備不良は散見された。
「ナオト!三時方向から来てるぞ!」
タイゾウの声。指示の方向を見ると、鷹山が二機、近接戦闘装備であるコンバット・メイスを構えてナオト機へ突撃を仕掛けていた。
月華の左腕部に固定された対鋼ナイフを展開し、これを迎撃する。鷹山はナオト機を挟み込む様にそれぞれ左右に別れた。左に展開した鷹山をHM-2で捉え、四発一斉に撃ち放つ。
一発は鷹山の左腕に直撃した。しかし、あとの三発は虚しく空を切る。体勢を崩した鷹山だが、パイロットが手練なのか直ぐに立て直し、メイスを振りかぶる。
ナオトは冷静にメイスを握る鷹山の腕をナイフで切断し、そのまま右手に持つ小銃の銃口をコクピットに合わせ、速射した。心臓を撃ち抜かれた鷹山が膝から崩れ落ちる。僚機の撃墜に激昂したもう一機が急速に接近してくるが、遠方から飛来した徹甲弾によってコクピットを狙撃され、僚機と同じ運命を辿った。
「この距離で成功させちまった。俺の腕もまだまだ落ちてないな」
狙撃したのは、MPT大の狙撃銃を構えたタイゾウの月華だった。自動式である狙撃銃から未だ熱の残る薬莢が地面に落ちる頃には、既に次弾が装填されている。
「このまま敵を漸減させる。各員は持ち場から離れず、各個に敵を攻撃せよ」
ナオトらの優勢のまま、この戦闘は佳境を迎えようとしていた。
「ま、相手が賊でよかったねぇ。楽ちんでさ」
アキラが鷹山を撃破しながら言う。アキラもナオトも、敵は既に多くの戦力を失い、いつものように徐々に後退しつつある。ナオトは内心安堵し、ほっと息を吐いた。
しかし、その安堵を粉砕したものがあった。
「こちら第二小隊六番機!敵一機が仕掛けてきた!応戦する!」
友軍の多くが撤退している中、単機で仕掛ける機体がいるという報告が入った。
第二小隊は、第五小隊と同じ戦域で戦っている部隊だ。確かにナオトらも、突撃してくる機体は確認出来た。
「深山隊長、どうします?」
アキラがタイゾウに指示を仰ぐ。タイゾウは少し焦りを滲ませて、
「恐らく味方を逃がすための囮か...、しかし一機で...。ナオト、アキラ、第二小隊の援護に回ってくれ」
ナオトは滅多に無いタイゾウの落ち着きの無い声に、不吉なものを感じた。そしてそれは、直ぐに現実になった。
「くそ、こちら第二小隊!隊長がやられた!敵は未確認の機体!めちゃくちゃ速いやつだ!援護を!うわぁぁ...」
隊員の悲鳴混じりの報告が、耳障りなノイズに掻き消された。
「二小隊がやられた!?五分と経ってない!」
「一機でこれか...、アキラ、俺たちで抑えるぞ」
「了解!」
アキラが溌剌に返事をし、ナオト機の隣にピタリと張り付く。
「敵機インバウンド、薄桃色の新型だ」
「良い趣味してる!」
会話をしつつも、お互い息のあった動きを見せる。ナオトが入隊して五年が経つが、その間ずっとペアを組んで戦ってきたのだ。その連携は凄まじい。
ほぼ同時に、ミサイルを敵機の両脇に撃ち、また同時に敵機へ小銃を撃つ。避ければミサイルが、避けなければ小銃弾が直撃する厄介な攻撃だが、敵機は予想外の動きを見せた。
敵機の脚部から電流が走り、凄まじい加速をする。その勢いで小銃弾を躱し、アキラの月華に蹴りを仕掛けてきた。
「嘘!?速すぎでしょ!」
両肩のミサイルを撃ち尽くすが、敵機には掠らない。間一髪で、ナオトが同じく蹴りを放ち、両機の脚が交差する。しかし、パワーが負けているのか、月華が後ろに弾き飛ばされる。
「なんて機体だ、それにパイロット」
「良い腕だ。...こいつは俺が引き受ける。援護は任せる」
「あぁ、いつも通りね」
「そういう事だ」
右腕部に内蔵されている30mmバルカン砲で牽制しながらナイフを展開し、敵機との距離を詰める。敵機は無駄の無い動きでバルカンを躱し、刀を模したと見える得物を腰部に下げた鞘から抜いて突進してくる。
「避けるか、だが」
「そっちは本命じゃないよ!」
ナオト機が右に急加速し、それと同時に背後にいたアキラ機が小銃と虎の子のハンド・ミサイルを斉射する。敵機は急制動を掛け、あの電流を用いて後ろに跳躍し、それらを回避する。
しかし、それは悪手であった。ナイフを展開したナオト機が、全速で着地地点に突撃していたのだ。
「これも本命じゃない」
虚をつかれた敵機は手に持つ短銃身のマシンガンを撃つが、まともに当たるはずもなく、地面に穴を開ける。
敵機は着地した瞬間、距離を取ろうとするが、
「隊長!」
「本命は俺なんだよ!」
タイゾウの声が無線を駆け抜けると同時に、敵機の頭部が銃弾に抉られた。強烈な衝撃によって体勢を崩した敵機が、地面に背中から叩きつけられる。戦闘不能となったのは明白だった。
「殺すな!鹵獲する!」
タイゾウが命じる。アキラにバックアップに付いてもらい、ナオトは月華から降りて敵機のコクピット・ハッチを開ける。
電力が落ちた、狭い暗闇のコクピットに向けて携行している拳銃を構える。
「機体から降りろ。そうすれば殺さない」
「クソ、誰が!」
中のパイロットが呻き声と共に、ナオトに拳銃を向けた。
「...なッ!?」
ナオトが引き金に指を掛けた刹那、パイロットが素っ頓狂な声を上げた。
「お前...まさか、ナオト!南海ナオトか!?」
「...何故俺の名を」
段々と目が慣れてきたようで、ナオトもパイロットの顔が見えるようになってきた。
どうやらパイロットは女らしい。短い黒髪が爆発したように跳ね回っており、破けた機装服からは腕や腹部に切り傷が確認出来た。
ナオトは、彼女の顔に見覚えがあるような気がした。朧気ではあるが、確かに自身の記憶の中に在るように感じた。
「俺を覚えてねぇのかよ!?レオナだ!春崎レオナ!」
瞬間、ナオトの記憶が次々とフラッシュバックしていく。荒んだ公園、通った廃学校、友人達と漁った戦場跡。暖かいとは言えないが、幸せと感じていた在りし日の記憶。その中の自分には、常に行動を共にした人物が存在していた。
「レオ...?」
春崎レオナ。ナオトの幼馴染であり、7年前に死んだと思っていた、初恋の人。
「ナオト、どうしたの?」
愕然としたナオトを見たアキラが、訝しみながら尋ねる。しかし、その声すらもナオトの耳には入らず、ただ生きて再会したことに嬉しいやら、殺し合っていた相手が初恋の相手だったことに対するショックやらで、頭がいっぱいだった。
既に周りにはナオトとアキラ、そしてレオナのMPT以外に機影は無く、ただ鉄兵の屍だけが横たわっていた。
「全ユニットに通達。追撃戦の終了を宣言する、稼働機は負傷者と生存者の救助に当たれ。以上」
静まった三人の空間には、タイゾウの声が吹き抜けていくだけだった。
懲罰兵です。
この作品は「退廃した世界で戦う少年兵を描きたい」という思いの元、授業の合間にノートに書き散らかしていた妄想を形にしたものになっています。
拙い文章や設定ですが、楽しめる方は楽しんでいただけたら幸いです。