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夢現

帰りの馬車に揺られながら、普段は見ることのできない高い位置にある太陽をぼうと眺めていた。

先ほどまでの出来事を、噛み締めるように思い出す。


3人を見送ったあと、二人が心配そうに近寄ってくる。

「これからどうしようか。アイリスの話を聞いたからにはこのまま素直に家へ帰したくはないのだけど。」

ベルフラウに同調するようにミモザも言う。

「そうだよ! わざわざ傷つく場所へアイリスを返したくはないよ!」


二人が心配し、心から身を案じてくれている。だが、ナスタチウム家の力はやはり強大なものだ。

自分がここで逃げたとあれば、婚約は破棄になりこのまま兄テッセンの思惑通りにこのまま公爵家から追い出されるだろう。これを好機とみた兄に先導され私は殺される未来が見える。父も利用価値がなくなった私を、生かしておくという義理などない。おじいちゃんを看取ること自体が叶わぬ可能性が高い。

それに母一人置いて逃げるという選択肢は、アイリスになかった。


「ありがとう。二人の気持ちは良くわかるけれどそれはできないの。

今屋敷へ帰らなかったら、今逃げたらきっともう二度と帰れなくなると思う。

だから今は心配しないで任せてほしいと思ってる。ごめんね。」


アイリスの反応を見て納得したような表情を見せるベルフラウと、対照的に心配が拭えないといった態度のミモザ。

「アイリスの言うとおりだね。きっと二度と帰れなくなるだろう。」腕を組み思案しているベルフラウ。


「ベルまで!? うーん。それならこうするのはどう?

私からお父様に頼んで、ナスタチウム閣下に今日のアイリスの状態を伝えてもらおうよ!」


「妙案じゃない! サイネリア閣下は今日のアイリスの状態も診察して理解してくれているし、なにより身体にできた痣の状態と傷の処置の指示を出してくれている。王太子妃候補のアイリスの身を案じるのは必然。なによりの牽制になる。」猫目(キャットアイ)を大きく見開き、やや興奮気味な様子。


「本当にいいの? 私の問題に完全に巻き込むことになってしまうし・・・。二人の身が危ないんじゃ」


「なーに言ってるの。私だってミモザだって覚悟はできている。それにこれはシンビジウム王女殿下のご意思でもある。さっきは伝えなかったけれど、このすべての指示を出したのは誰だと思う?

こんなにも沢山の人を巻き込む力を持ち、他国の皇族でさえも引き入れられる方はお一人しかいないんじゃない?」


ふと脳裏に浮かぶ穏やかで太陽のような笑顔、あの方が発する言葉だけで心が暖まるような優しい人。

浮かんだ人物の名前を独り言のように呟いた。

「・・・・・・・・・・ソラリス、王妃殿下。」


「わかった? 私たちストレリチア家はシンビジウム王女殿下のご意思に従う。でも元々はソラリス王妃殿下のご意向なの。私たちはとっくに巻き込まれているし、なにより主君の意向に沿う役目がある。」


「そうだよアイリス! 私たちは助けに来たの! 

巻き込むとか悲しいこと言わないで? お役目を与えて下さったからこうして堂々と巻き込まれに来たんだから!」


こうしてはいられないといった慌てた様子で、病室からサイネリア公爵へ使いを出すミモザ。

ここまでの顛末を、ストレリチア公爵の元へ報告へ行くというベルフラウが退室していった。

あっという間にサイネリア公爵から、父コロンバインへ使者が送られ速やかに帰路につくこととなったアイリス。


屋敷につき自室へ引きこもることにしたアイリスの元へ訪ねてきたのは、母であるクレマチスだった。

「アイリス大丈夫なの?学園で倒れたってサイネリア閣下から聞いたわよ?」


「ご心配をおかけしてすみません。明日の夜会には必ず王太子妃婚約者として参加しないけらばいけないので、明日まで安静にするようにと伝えられました。」


「そうだったのね。大事な身体なのだから無理はしちゃダメ。私にも、あまり辛いことは気を遣って話してくれないでしょう?しっかり休息をとってちょうだいね。」

「はい。わかりましたお母様。」

そして突然二人の間に重い空気が流れ始める。


(なんだろう。とても嫌な予感がする。なんで。なぜ?)


クレマチスはどこか遠慮したような、申し訳なさそうな口ぶりで告げた。


「私のお父様。

フォンテーヌおじい様のご容体が、あまりよくなさそうなの。エーデル公爵家のお母様から書状を、皇弟殿下から頂いたの。そこに書かれていたわ。

詳細は皇弟殿下に伺うしかないわね。私たちも少しの間領地へ行くことになると思う。

体調が悪いときにごめんなさい。でもどうしてもアイリスには伝えておきたかったの。」


母が退室していった部屋で、ベッドで横になり一人物思いにふけるアイリス。おじいちゃんは前世でも大病を患い、病で一人苦しんでいたと聞く。

無事を祈ることしかできない。

おじいちゃんから貰い、大切にしていた折られた筆を握りしめ、隣国からでも祈りが届くよう強く願った。どうか病で苦しむことが減りますように。苦痛を取り除けますように、と。

すると視界が突然弾けた感覚がした。


ここは見慣れたアイリスの部屋だ。

10にも満たないだろう小さな女の子と、それを優しく見下ろす1人の老年男性。


「フォンテーヌおじいさま!

きょうは、きてくださり、ありがとうございます!」

屈託のない笑顔の女の子。


「いいんだよアイリス。私が来たかったんだよ。

愛しい孫娘の入学式を見られるなんて、これほどまでに嬉しい事はないものさ。」

嬉しそうにすり寄るアイリス。


「アイリス、手を出してごらん?」


「はい!おじいさま!」

両手を差し出すと、フォンテーヌはアイリスに跪き懐から大事そうにあるものを取り出した。

手に乗せられたそれは、小さな手には余る大きさ。

水色のリボンに紺色の箱。


「おじいさま、これはなんですか?」

「これは、おじいさまからの入学お祝いだよ。

開けてごらん?」


リボンを解き、箱の中を開けると目に見えたのは星空のような深い青色。キラキラと煌めくような意匠が施された筆だった。

「わぁー!とってもきれい!!!

わたし、青色が1番好きなの!

ぜったいに大事にします!!!」


「卒業する頃になったら、また記念になるよう贈り物をするよ。それまでは勉学に励みなさい。

おじいさまとの約束だぞ?」


「はい!!!」


2人で小指を合わせて指切りの歌を歌っていた。


その光景をぼんやりと見ていると、疲労のためか瞼が落ちてくるのがわかった。幸せだった光景を見ながら眠りに落ちていく。


数時間後、ナスタチウム邸にて。

ダンダンと足音を立て屋敷を歩き、近くを通った使用人を男女問わず「邪魔だ」と弾き飛ばしながら移動している。そしてノックもせず執務室の扉を乱暴に開いた。


「父上! どういうおつもりですか? 

王太子殿下に不敬な態度をとったものを屋敷において置くなどと!!」

大声で怒鳴るかのような口ぶりで言うテッセン。


父上と呼ばれたのは執務室の豪奢な椅子に座り、背もたれに寄りかかっているコロンバインだ。

明らかにテッセンの態度が気に入らないといった様子で、とてつもない威圧感を放っている。

「やかましいぞテッセン。 

なんだ?私の決定に不服があると申すか。」


「当たり前です。アイリスは殿下に生意気な物言いをし、侮辱しました。これはあるまじき行為。正当な処罰が必要と思いますがなぜしないのですか!?」

明らかに納得がいかないといった態度で、怒りを隠すこともしないテッセン。


「聞こえなかったのか? これは家長である俺の決定だ。お前が口出す権利など毛頭ない!!!」

それを上回るような怒声をあげるコロンバインに驚き、口を噤むテッセン。


「もしもお前の独断で、アイリスに傷ひとつ負わせてみろ。貴様の首を刎ねてやるぞ? 良いな!?」

「出ていけ!」と父に未だかつてない程怒鳴られ、

追い出されるように執務室をでたテッセンは荒れていた。自室で家財や私物を投げ当たり散らす。

あろうことか、自身の王太子宮の近衛制服をも乱暴に脱ぎ捨て床や壁に叩きつけた。そして、壁や家具を素手で殴り倒す。優秀選抜騎士として華々しく社交界に出るキッカケになった大会で、優勝した際に授与されたトロフィー。自身でとても大切にしていた飾り棚でさえも、無惨に大きく拳で穴が開けられている。


「これで済むと思うんじゃねぇ・・・・・!!!

必ず、叩きのめしてやる。」

苦虫を噛み潰したような表情で、薄暗い部屋の中怪しげな笑みを浮かべていた。


そして翌日。夜会前に準備をしたアイリスはドレスを身に纏い、とある場所へ向かっていた。

貴賓室の前で立ち止まり、使用人がノックをして扉を開いた。

そこには隣国の皇弟であるクレムが優雅にソファへ腰かけていた。


「やあ。ようこそ。来ると思っていました。」



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