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猫目

カーテンがスッと開く音に2人で思わず視線を向けると、そこに立っていたのは男女3人だった。


「落ちてるグラスくらい、ちゃんと片づけないと怪我するし危ないでしょう?」


ため息混じりにそう言うと、しゃがみ込んでグラスとトレーを片付け始める。

濡羽色の横髪がサラサラと流れた。


「ベルありがとうー!!!

アイリスが目覚めて嬉しくなっちゃって忘れちゃった!」

てへっとにっこり屈託なく笑うミモザも一緒に駆け寄り、片付け始める。

ベルと呼ばれた少女は、ベルフラウ・ストレリチア。ストレリチア公爵家の小公女だ。


ストレリチア家は代々王家に仕えており、現在は王太子エリンジウム・ピオニーの妹である王女シンビジウム・ピオニーの近衛隊長職を現公爵が担っている影響で、ベルフラウも同様の任務をシンビジウム王女より仰せつかっている。


普段からベルフラウは王女宮近衛隊制服であるブラウンの軍服に身を包み、王女宮の紋章であるシンビジウムの刺繍がされているつばがついた軍帽を被っている。


濡羽色のロングヘアは後頭部から編み込みがされている。毛先まで三つ編みをしており、白いリボンで毛先を結んでいるがそれでも臀部と同じくらいの長さだ。

横髪は頬骨から顎までのラインで切り揃えられ、前髪をおろしている。

睫毛が長く、猫目(キャットアイ)を思わせる瞳はピンクサファイアを彷彿とさせ見るものを圧倒する美しさがある。


キリリとした出立ちだが、まだ成人前の幼い少女の笑顔を時折見せることがある。

そのため学園内で男女を問わず、ファンクラブがあるほど人気者だが本人は意にも介さない。


「割れたグラスを不用意に素手で持つと、大事な手を怪我してしまうぞ?」

膝を折りミモザとベルフラウを優しく自身の手で制すのは、ミモザと似ている金髪青眼で白衣に身を包み優しい表情で微笑む男性。


彼はミモザの父親で、現公爵のヒオウギ・サイネリアだ。この国の衛生兵全てを指揮し、王国では医療の権威だ。ミモザに遺伝した金髪青眼で、短髪の髪は綺麗にオールバックにされている。


「閣下の言う通りだ。騎士たる者、その手でいつ何時でも主君を守ることができねばならない。」


もう1人はストレリチア家の現公爵でベルフラウの実父。シェフレラ・ストレリチア。ストレリチア家当主に続くピンクサファイアの瞳を持つ。


濡羽色で長めのツーブロックにしており、前髪も瞳にかかるくらい下ろされている。

王女宮近衛隊のブラウンの軍服に身を包み、刺繍の入った軍帽を被っている。隊長の証である外套は、ネイビーの上質な生地に銀糸で豪奢なシンビジウムの刺繍がなされている。

かつて戦場では、黒狼と異名がつき畏れられた過去をもつ。彼が王女宮の近衛隊を指揮していると同時に、王国内での警察も組織している。真面目で実直な性格で国王からの信頼も厚い。


「はい!お父様。」

キリッと礼をしているベルフラウを見ながらアイリスは困惑していた。


(どうしてここで、サイネリア閣下とストレリチア閣下が?こんな展開、書いた覚えがないのだけれど・・・?)


「アイリスが倒れたと聞いてここへ来たの。お父様と、サイネリア閣下とご一緒にね。」

グラスを片付け終えたベルフラウが立ち上がり、アイリスの側へと近寄る。


「サイネリア閣下、ストレリチア閣下。この度は私事でご迷惑をおかけし、大変申し訳ありません。また、このような場所からご挨拶をすることとなり、重ねてお詫びを申し上げます。」ベッド上より頭を下げようとしたところ、シェフレラから手で制される。


「どうか怖がらず聞いてください。私たちはシンビジウム王女殿下より、とある任務を課せられ参りました。ナスタチウム嬢にお聞きしたいことがございます。」


「・・・? 私でよければ、全てお答え致します。」


(ある任務?直々にシンビジウム王女殿下から?

そんな事あり得ない。こんな展開書かなかった。

物語に抗うためとはいえ、エリンジウムと揉め事を起こしたから?この先がとても読めない。恐ろしくてたまらない。 まさか、婚約者からおろされた?

私はまたあの独房に入れられる?)


その刹那。前世で最期を迎えた″あの部屋″がフラッシュバックした。


         空腹と口渇感


       痩せた身体に粗末な衣服


         落ちてくる雨水


       しっとり濡れた床の感触


      冷ややかな空気に震える身体


       助けを求めていた過去


         病の苦しみ


        無限に思える時間


          そして


       迫り来る死への恐怖


ガタガタと震え出すアイリスを見て、異常を察知したミモザとベルフラウが慌てた様子で距離を詰める。

ベルフラウはアイリスの手をさすって握ってくれた。

「アイリス、平気だよ。私たちもここにいるから。」

ミモザは横から抱きついて「大丈夫。大丈夫。アイリスは1人じゃないよ!」と落ち着くよう促してくれる。


アイリスの異常な様子を見ていた2人の大人たちは、娘たちに任せ事の成り行きを見守っている。


(私、1人じゃないんだ。昔とは違う。違うんだ。)


ベルフラウとミモザのおかげで落ち着きを取り戻しつつあるアイリス。

「申し訳ございません。昔を思い出し、動揺してしまいました。そして聞きたい事とはなんでしょうか?」


シェフレラは促されるまま続ける。 

「突然のことで無理もありません。実は王宮内で、

エリンジウム王太子殿下の素行は問題となっているのです。王子宮の守護はナスタチウム閣下と、小公爵であるテッセン様ご担当の手前、私どもは進言することもできずに居ました。ですが今回学園で起きた事件には、怪我をしお倒れになったナスタチウム嬢に対して酷くシンビジウム王女殿下がご心痛のご様子です。」


「シンビジウム王女殿下が・・・。」


シンビジウム王女はソラリス王妃の長女で、エリンジウムより年齢は3歳年下だ。

ソラリス王妃に似た雰囲気を纏い、金髪で空色を模した瞳を持つ。王太子妃として王宮に入ることになるアイリスとは、実の姉妹のように仲が良い。


「このような事件が起こった経緯と、ナスタチウム嬢の身体にある痣についてお聞きしたいのです。」


痣。テッセンにより負わされた痣が身体中に大小残っている。


そこでヒオウギが助け舟を出した。

「実はお倒れになった際、王太子妃候補であるナスタチウム嬢のお身体を改めることになったのです。

その右手の傷は故意につけられたものだ。そして身体のあちこちにある痣も、服で隠れるような場所に付けられている。未来の王太子妃の身体を無闇に傷つけて、決して良いものではない。お身体を確認したのは我が娘のミモザです。」


「アイリス、ごめんね?でも、みんな心配なんだよ?

どうしてもっと早くに教えてくれなかったの?

倒れなかったら誰にも気づかれなかったんだよ?」

心配そうなミモザに顔を覗き込まれる。


「私1人で解決できる問題だと思ったの。

皆の手を借りるわけにはいかないし、ご迷惑でしょう?

そして、誰かの助けを借りて何かをしようとすればお父様も兄上も黙ってない。心配かけてごめんね?」

「ううん!私はアイリスが安心して暮らせるようにしてほしいの。話してくれる?この痣のこと。」


「・・・。わかった。これは多くの人にお話ししないとお約束頂けませんか?ストレリチア閣下、サイネリア閣下。」

「最小限に留めると約束しましょう。」と両公爵は頷いてくれた。

それを見たアイリスは深呼吸した後、話す事にした。

「私は幼い頃より父と兄上から、良く思われていません。私の出来も容量の悪い態度が問題で、体罰を受けて育ちました。」


信じられないと言った表情で目を見開くベルフラウと、驚いた表情で口元を両手で覆うミモザ。


「エリンジウム王太子殿下と婚約が成立してからは尚更兄上からの風当たりは強くなり、この右手の傷も昨日不機嫌な兄上から八つ当たりされてできたもの。

その際床に引き倒されたので、肩にも痣があります。

夕食の時も私が容量を得なかった為、兄上にグラスを投げつけられたので胸にも痣があります。お母様だけが止めてくれますが、母1人娘1人では抵抗する事が出来ないのです。そして、今日エリンジウム殿下に右手を掴まれ出血したのは昨日の傷のせいです。」


静まり返る部屋でアイリスの声だけが反響して響く。


「そして、エリンジウム殿下は既に既知の事実とは思いますが、カルミア・クロームス伯爵令嬢と以前から非常に懇意にされていらっしゃいます。エスコートやファーストダンスは全てクロームス伯爵令嬢とご一緒で、私の存在はお2人の邪魔にしかなっていない状況です。お恥ずかしい限りです。」


途中から涙を流していたミモザとベルフラウ。


「ナスタチウム小公爵は、王宮選抜や国内選抜の騎士にも選ばれる程の実力者。妹に手を挙げるなど卑劣極まりないですね。反吐が出る。」

怒りに震えるベルフラウを見つめ、落ち着くようにベルフラウの手を握るアイリス。


「私のために怒ってくれて、ありがとうベル。」


「なんでもっと早くアイリスの辛さをわかってあげられなかったんだろう。そしたらもっと早くに親友を、助けられたのに。」猫目(キャットアイ)の瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちる。

一度睨んだ猫目(キャットアイ)は獲物を狩るまで、瞳に宿った炎が消えることはない。


アイリスから話を聞いた両公爵が、なにやら2人で会話している様子だが、こちらに声は届いてこない。

話し終えたシェフレラは一度退出した。


ヒオウギがアイリスへ話しかける。 

「私は医療に携わる者です。未来の王太子妃のお身体は最重要。エリンジウム殿下に気に入られているクロームス伯爵令嬢とはいえ、ナスタチウム嬢を除いて王太子妃になることはできない。ソラリス王妃殿下も、そのようなお考えです。」


(確信に触れても良いものか・・・。

私が卒業パーティーで断罪されること。

信じてもらうことは難しいかもしれない。

ソラリス王妃殿下のお言葉を信じてまだ、話すことはやめておこう。)


ヒオウギは続ける。

(やはりあのお方の想定されていたお話は正しかった。)

「ナスタチウム嬢、貴女とお母様であるナスタチウム公爵夫人の保護を申し出た方がいらっしゃるのです。」


「私たちの保護、ですか?」


驚きを隠せないアイリスの前に現れたのは、アイリスが探していた騎士様そのものだった。

ヒオウギ公爵、ミモザとベルフラウも後ろへ下がり、アイリスまで続く道を開けている。

一度退出したシェフレラは騎士様の後方につき、控えている。皆の中心を通り、アイリスの前に来た彼は柔和な笑みを浮かべる。

「こんにちは、ナスタチウム嬢。私は隣国のルドベキア帝国から参りました。皇弟のクレム・ルドベキアと申します。 ご令嬢のお祖父様にあたる、フォンテーヌ・エーデル公爵たっての願いでピオニー王国に参りました。」

鉄色の外套を身にまとい、瞳と同じく輝くようなエメラルド色の絢爛な刺繍が目に入る。

そして長い渓流のような瑠璃色の髪が揺れ、優雅に礼をする姿に思わず見入ってしまったがハッと我に返る。


(ル、ド、ベキア!? 皇弟殿下ですって!?)



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