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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第三章 繋がりゆく縁

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3-17 応接室で待つは



 王城に到着した私たちは、約束通りの時間に、納品予定の魔道具を持って、指定された応接室へと向かった。

 中も外も騎士に警備された応接室には、三人の男性。

 一人は赤い布張りのソファに座っており、あとの二人は、隣に控えるように立っている。


 左に立っているのは、黒髪黒目、紫紺のローブを纏った人物――魔法師団長のシュウ様だ。


 右側に立つ人物は、貴族服を着用し、眼鏡をかけた、知的な雰囲気の男性である。

 柔らかなライラックの髪色だが、眼鏡の奥、バイオレットの眼光は鋭い。

 彼の着ているスーツは、華美すぎず、けれど繊細な刺繍が施された肌触りの良さそうな生地で、高位貴族なのであろうことが察せられる。



 そして、もう一人。中央のソファに座っている人物は――。


 私たちは、その姿を認めると、すぐさま最敬礼をして顔を伏せた。


「よい。楽にしてくれ」


 凜とした声が響き、私たちは礼を解いた。


「驚かせてしまったか? だが、舞踏会を待つより、この方が手っ取り早いであろう?」


 そうして不敵に笑うのは、ひときわ豪奢なお召し物を纏った、金髪碧眼の美丈夫。


「――王国の太陽、エドワード王太子殿下にご挨拶申し上げます」


 私たちの中で最高位の貴族として、ウィル様が代表して挨拶をする。


「うむ」


 挨拶に鷹揚に頷いたのは、この国の王太子殿下だった。


「シュウ師団長から、お話は伺っております。私は宰相補佐官のアシュリー・ダン・クラークと申します。私の判断で、王太子殿下にお時間を作っていただきました」


 眼鏡をかけた男性が、立ち上がって、早口で告げる。

 どうやらアシュリー様が、この国の宰相、クラーク公爵のご子息のようだ。

 知己であるシュウ様から話を聞いて、この場をセッティングしてくれたのだろう。


「うむ。ちょうど今し方、事情を聞いていたところだ。魔石の件、教会の件……いまだ信じがたいことだが、付き合いの長いこの二人が、嘘をつくとも思えぬからな」


 王太子殿下は、シュウ様やアシュリー様と同世代だ。

 シュウ様も名乗ってはいないが、振る舞いからして高位貴族家出身だろうと思われるし、アシュリー様は公爵令息。

 身分も近く、年齢も近い――幼い頃から交流があったのだろう。


「あまり時間がありませんので、手短に。詳しい事情は後で結構です。――あ、注文した魔道具はそちらに置いていただけますか」


 アシュリー様がそう言って別のテーブルを指し示すと、ホイップ様が、持ってきた魔道具をそちらに置く。


「それで、魔法師団に協力している聖女というのは――君だな。確か、パーティーで何度か顔を見かけたように思うが……」


「ミア・ステラ・エヴァンズと申します」


 私は、全員の視線を一身に受け、ドキドキしながら深くカーテシーをした。


「エヴァンズ子爵のご令嬢か。社交の場に出てくることが少なかった体の弱い長女が、なぜか魔法騎士団長の子息と婚約をしたと噂になっていたな――ああ、そうか、君か?」


 王太子殿下は、私の隣に立つウィル様に視線を動かした。

 ウィル様は貴族の礼をして、返答する。


「ウィリアム・ルーク・オースティンと申します。仰せの通り、ミアは私の婚約者です。現在は魔法騎士団に入団し、彼女の護衛を務めております」


「そうか。して、彼女が聖女というのは真実か?」


「ええ。よろしければ、証明させていただいても?」


「うむ」


 王太子殿下は、片手をバッと挙げる。

 その合図で、室内を警備していた騎士が、応接室から出ていった。

 防音の魔道具は、私たちが来る前から起動されていて、騎士に話は届いていないようだったが――退室を命じたのは、これから起こることは、視覚的にも見られてはまずい内容だからだ。


 扉が閉まったのを確認すると、ウィル様は、薬草を一本取り出す。

 布の上でそれを折って、私に目で合図をした。

 私は頷いて、『治癒(ヒール)』の聖魔法を唱えはじめる。


「――『治癒(ヒール)』」


 私の手元が白く輝き、全員が興味深そうにのぞき込む中で、薬草はみるみるうちに元の姿を取り戻したのだった。


「これはすごいな」


「……ええ。本当に聖女だったとは。ですが……」


「うむ。色々と問題があるな」


 アシュリー様と王太子殿下の反応に、ピリッとした緊張感が流れる。


「本来なら、エヴァンズ子爵に話を聞かねばならぬところだろうが……」


 王太子殿下は、顎に手を当てて、難しい顔をしている。

 私たちは、固唾をのんで、王太子殿下の言葉を待つ。


「だが……私は、このチャンスを逃したくないとも思っている。魔石の研究が進めば、我が国の様々な事情が改善するだろうし……何より、王家でもテコ入れが難しい教会に、横っ腹から一発食らわせることができるやもしれん。――よし、決めた」


 王太子殿下は、口元を緩めて大きく頷いた。


「ミア嬢が正式に魔法師団に所属することを許可しよう。良い結果が出ることを期待している」


 王太子殿下は、期待を込めた眼差しで私とシュウ様を見た。


「ありがとうございます。必ずやご満足いただける結果をお持ち致します」


 シュウ様が感謝の意を述べると、王太子殿下は満足そうに頷いた。


「ただし、私以外の王族には、君が聖女であることは伏せておくように。他者にそれを明かす時期に関しては、こちらで決める。教会への対応についても、勝手に動いてはならんぞ」


 ひと通り話すと、王太子殿下はソファから立ち上がる。


「では、私は失礼する。アンリエッタと約束があるのでな。詳細は、この二人と相談して決めてくれ」


 王太子殿下は、これから婚約者のアンリエッタ様と会う予定があるようだ。

 ウキウキと楽しそうな雰囲気を隠しもせず、そのまま応接室を出ていったのだった。


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