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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第二章 闇魔法と魔族、そして『魔女』

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3-11 「気にしないで」と言われると気になるもので



 セバスチャンからの手紙によって、聖女マリィがエヴァンズ子爵家を再訪していたと知った。

 私は、それをアイザック様に伝えようと、執務室を訪ねたのだが――。


「ああ、ミア嬢。君の実家に、聖女がまた来たみたいだね?」


「え? はい……もうご存じでいらっしゃいましたか」


「うん。こっちの伝手でちょっとね」


 アイザック様は、飄々(ひょうひょう)とした笑みでさらりと告げた。オースティン伯爵家か魔法騎士団かはわからないけれど、諜報員を回してくれていたのだろう。


「それで、その聖女が所属してる教会なんだけど。ちょっとね、王都の中でも特殊な教会みたいだよ」


「特殊、ですか?」


「うん。どうやら、教会に逆らったり、脱走を企てたりしたことのある聖女や神殿騎士が集められている場所みたいなんだ。だから、マリィ嬢は君のお母さんの顔を知っていたんじゃないかなあ?」


「脱走した聖女……なるほど」


 それなら、あの時のマリィの反応にも納得がいく。本人の顔を見たことがないからわからないが、私はきっと、ステラ様によく似ているのだろう。


「でも、残念ながら、君のお母さんがいつ頃教会から姿を消したのか、どこに行ったのか、それはわからなかった」


「いえ、母の足取りが少しわかっただけでも、充分ですわ」


「また接触があったり動きがあったりしたら、今後はウィルに報告がいくようにしておいたから。俺は、社交シーズンが終わったら領地に戻っちゃうからね」


「ええ。社交シーズンは来月までですものね」


「そういうこと」


 社交シーズンの終わりは、来月末だ。

 王城で開かれる舞踏会を最後に、貴族たちはそれぞれ領地に帰っていく。

 それはオースティン伯爵家も例外ではないのだが、伯爵もウィル様も、次男のエリオット様も、魔法騎士団に所属している現役騎士だ。

 彼らは王都から離れることができないので、領地に帰るのはアイザック様だけである。


「今年は、ミア嬢のところはどうするの?」


「昨年と同様、父、母と執事長が交代で領地に戻る予定ですわ。兄と妹は学園がありますから、王都に残る予定です。私も、こちらに残ります」


「そっか」


 昨年はマーガレットが学園に入学したばかりだったということや、王城の官吏やベイカー男爵との仕事もあったために、お父様はオフシーズンも基本的に王都に滞在していた。

 代わりにセバスチャンが領地に戻り、マナーハウスの家令やお父様との魔法通信を利用しながら、領地での業務をこなしていたのだ。


 そして、過保護なお父様は私を目の届くところに置いておきたかったらしい……そのため、昨年は私も領地に戻っていない。

 お父様は、今年は私の身の回りがごたついているということで、ウィル様のそばに私を置いておくのが一番安全だと判断したようだ。


「うんうん、確かにその方が安全だし、連絡も取りやすいね」


「ええ」


「ミア嬢も来月の舞踏会は参加するよね? 俺もそれまでは王都にいるから、ウィルが頼りにならないようだったらいつでも声をかけて」


 アイザック様はおどけてそう告げると、椅子から立ち上がった。話が終わったという合図だろう。


「ご厚遇いただき、感謝いたします。では、失礼いたします」


「あ、そうだ。待って」


 私は一礼して部屋から下がろうとしたが、アイザック様に呼び止められた。


「ミア嬢はさ、『魔女伝説』って知ってる?」


「『魔女伝説』……ですか? いいえ、存じませんわ」


「……そっか、ウィルはまだ話してないのか」


 アイザック様は、少し哀しそうに眉を下げた。


「あの……?」


「ああ。知らないならいいよ、気にしないで。呼び止めてごめんね」


 アイザック様は、すでにいつもの飄々とした笑みを浮かべている。

 私は首をかしげながらも、執務室から退室したのだった。





 私はその後、伯爵家のライブラリーをぼんやりと眺めていた。

 アイザック様の言った『魔女伝説』が、無性に気になったのだ。

 それが一体どんな伝説なのかはわからないけれど、アイザック様の表情からして、何かとても大切なことのようだった。

 けれど――。


「ないわね……一冊も」


 私がいくら注意深く探しても、『魔女』の言葉は一言も見当たらない。

 大きなライブラリーだから、全部の本棚を(あらた)めるのは時間がかかりそうだ。


「明日もまた探してみましょう」


 本棚の合間に、直接日が当たらないように作られた小さな窓からは、オレンジ色の光が差し込んできている。

 長くなった自分の影が、ライブラリーの入り口へ向かって伸びていて、なんだか少しだけ不気味で心細かった。

 私は小さく息をついて、ライブラリーを後にしたのだった。


「ウィル様には……何となく、聞かない方がいい気がする」


 アイザック様は、『ウィルはまだ話してないのか』と言っていた。

 待っていればいつか話してくれるのかもしれないが、アイザック様も『気にしないで』と言っていたし、自分から聞くのは(はばか)られる。

 けれど――なぜだか、胸騒ぎがするというか……とにかく、気になって仕方がないのだ。

 ウィル様が話してくれる前に、自分で少し調べてみるくらいは、構わないだろう。


「お兄様なら、知っているかしら?」


 オスカーお兄様は、本を読むのが好きで、かなり博識だ。

 会う機会があれば、聞いてみるのもいいかもしれない――。


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