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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第六章 オースティン伯爵家へ

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閑話 秘密 後編 ★ウィリアム視点



 引き続き、ウィリアム視点です。


――*――


 俺は、俺の抱えている秘密に気づいているかのようなオスカー殿の言葉に、今度こそ本気で驚かされた。


「……秘密、とは」


「魔法騎士としての勤務は、まだひと月かふた月ぐらいのはず。その間、あなたはずっと王都にいた。なのになぜ、まるで見てきたかのように地方の現状を話せたのです?」


「……それは……」


「昨年の夏に、突然がらっと態度を変えた時もそうだ。その頃から、あなたの行動は、今までとまるっきり違うものになりました。ミアには甘くなったのに、周囲に対する警戒とか、鋭さとか、焦りとか、そういったものは逆に強くなった……何かあったのでしょう? そうだな……例えばですけど……噂の『魔女』にでも会いましたか?」


「――――!!」


「図星ですか。意外とわかりやすいんですよね、ウィリアム様って。普段あまり表情が変わらないからかなあ?」


 ……まさか、こんな身近に、これほどの切れ者が潜んでいようとは。

 優しくおっとりした雰囲気の、当たり障りのないタイプと思っていたが――今まで出会った中でも、彼は確実にトップレベルの頭脳を持っている。


「……オスカー殿がそれほどとは。ですが、どうかこのことは、まだ。心配させたくないので」


「ふふ、秘密は守りますよ。なんせ、僕にもずっと秘密にしてきたことがありますから。お互い、秘密です」


「……ありがとうございます」


「他の人に相談できないなら、僕でよければお手伝いしますよ。ただし、僕は父上たちと違って、人脈とか権力とかそういうのは持っていませんけど」


「いえ、人脈や権力でなんとかなるようなことではありませんから。ですが、頼りにさせてもらう日が来るかもしれません……その時は、よろしくお願いします」


「もちろんです。あ、でも」


 オスカー殿はずっと浮かべていた笑みを消し、真面目な表情で俺を睨んだ。


「――ミアを悲しませるようなことは、絶対に、絶対にしないと約束してください」


「……胸に刻んでおきます」



 そうして、オスカー殿はダイニングルームを出て行った。

 俺はミアを迎える準備をさせるため、魔法通信機を借りてオースティン伯爵家に連絡を入れたのだった。


「……ミアにプレゼント、渡しそびれたな」


 上着の内ポケットに大切にしまっている魔石のペンダントに、服の上から触れる。

 本当は、この後ミアと二人きりになった時に渡す予定だったものだ。


 浄化の聖魔法。

 ミアが魔石を浄化したことで、今までの苦労が全て嘘だったかのように、魔石はあっさりと魔力を蓄積することが可能になった。


 また、俺の持っていた『癒しの護符』に、俺の魔力が少しだけ混じっていたことも判明したのだが、その魔力は、二回目に測定した時にはすでに抜けてしまっていたようだ。

 一方で、浄化済みの魔石に俺が込めた魔力は、数日が経っても変わらず保持されたまま。


 今は実験のために魔石を割り砕き、サイズや形を合わせたのち、様々な強さや属性の魔力を込めて経過を観察しているところである。

 魔石に聖魔法が残っている間だけ魔力が保持されるのか、『癒しの護符』に特殊な加工でもしてあったのか……とにかく、原因はまだ特定できていない。


 魔力探知眼鏡の量産が終わり、魔法騎士団が態勢を整えたら、またミアに魔石の浄化を依頼する予定だ。

 アラザン室長は、今度は魔石の浄化だけしてもらい、聖魔法を蓄積させないクリーンな状態にして、実験を行うと言っていた。


「この魔石……俺の分は、どうしようかな。ペンダントだと落としそうだし、指輪は剣を振るのに支障が出る」


 俺とミア、二人分の力が混ざり合って溶け合った魔石……実は俺の分も揃いで用意してある。

 まだミアに渡す分しかアクセサリーとして加工していないが、俺の分の魔石も、肌身離さず持ち歩いている。

 触れていると、なんとなくミアが近くにいるような気がして、不思議と心が落ち着くのだ。


「そうだな……ピアスにでも加工するか」


 ピアスなら、滅多なことでは失くさないだろう。

 ミアの分の魔石をペンダントに加工してくれたホイップに、頼んでみようか。

 ……ただし、この多忙な期間が過ぎてからだ。ペンダントも、忙しい合間を縫って、けれど嫌な顔ひとつせずに作ってくれた。


「それにしても」


 オスカー殿の言っていたことが、どうにも引っかかる。


「普通の聖女と異なる、ミアの特別な力、か。……注意しておこう」


 あの切れ者が言うのだ。注意しておくに越したことはない。


 そうして俺が考え込んでいる間にミアの準備が整い、俺たちはオースティン伯爵家へ向かったのだった。


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