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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第三章 トラウマを乗り越えて

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2-19 繋がり ★ウィリアム視点



 ウィリアム視点です。


――*――


 俺とアイザック兄上はその後、リリー嬢の住む納屋を施錠しなおし、通用門のセキュリティーを元通りに戻して、表通りに出ないルートでオースティン伯爵家へと帰ってきた。


 ガードナー侯爵家裏庭の敷地……あそこには、他にも隠された建物や地下室がありそうだったが、俺たちは一度撤退することに決めた。

 『紅い目の男』という危険人物らしき情報もあったし、兄上がひっそり裏庭の壁に小さな穴を開けてきたから、ガラス玉を通じて兄上の『霧人形』に捜査をさせることも可能だ。


 今回の捜査も『霧人形』での捜査も家宅侵入……現時点ではしっかり違法なのだが、幸い『ブティック・ル・ブラン』の刺繍という証拠が出てきたから、魔法騎士団長に提出すれば捜査権限を取得し、合法と認定される。我ながら一歩間違えると危険な、綱渡りのような作戦だ。


 兄上を巻き込んでしまって申し訳なくも思うが、本人は諜報の仕事は遊びのようなものと思っていて、心から楽しんでいるようである。

 今回は兄上の能力あってこそだった……春の社交のため兄上が王都に出てきていて、本当に助かった。


 なお、兄上がばら撒いたガラス玉は、魔法を発動すると自壊するようになっている。

 そのように意図して作ったわけではなく、ガラス玉程度の媒体では、魔法をずっと保持することはできないのだ。


 未だに、魔力を長時間、もしくは繰り返し使えるように留めておける素材は発見されていない。

 『魔石』ならばその媒体となり得ると魔法師団では考えているものの、実際に『魔石』から魔力を取り出したり、充填したりすることは実現できていない。また、『魔石』の扱い難さから、研究も思うように進んでいないようだ。


「……そろそろ着く頃か」


 手筈通りに進んでいれば、もう少ししたらエヴァンズ子爵家に潜んでいたスパイが連行されてくるだろう。

 警戒していた『紅い目の男』に遭遇することもなく、形ある証拠も手に入れ、計画は順調に見えた。


 ――しかし、その先の計画は、一本の魔法通信によって、変更を余儀なくされることとなった。


「ウィリアム様、エヴァンズ子爵から魔法通信です」


「すぐ繋いでくれ」


 俺は、盗聴防止の遮音用魔道具を起動すると、自室の魔法通信機に魔力を流し、通話を回してもらう。


「お待たせしました、エヴァンズ子爵。通話を代わりました、ウィリアムです」


『ああ、ウィリアム君。もう戻っていたか』


「ええ。それで、計画の方は――」


『その話をする前に、少しミアと代わっても良いかな? 君のことが心配で落ち着かないようだから』


「っ、ミアが俺の心配を!? もちろんです、いつでも代わっていただいて大丈夫です!」


 はは、とスピーカーの向こうでエヴァンズ子爵が苦笑するのが聞こえ、すぐに愛しいミアの声がスピーカーから流れてくる。


『代わりました、ミアです。その……ウィル様、ご無事でいらっしゃいますか? お怪我は?』


「ああ、ミア……! 心配してくれてありがとう。俺なら、大丈夫。傷ひとつないし、この通りピンピンしているよ」


 ミアの声を聞いて、表情が見えるわけでもないのに、俺は自然と口元に緩く弧を描いていた。


 魔力を持たないミアは、魔法通信機を一人で使うことができない。

 だから、俺と魔法通信でやり取りをするのも、初めてだった。

 近くにエヴァンズ子爵がいるから、甘い言葉を浴びせかけることもできなくて、もどかしい。それでも、愛しい声がスピーカーから響いてくるというのは、どうしようもなく嬉しかった。


 ――ああ、この声を記録することができたらいいのに。いずれそういう魔道具を開発してみようか。


 そんなどうしようもないことを考えてしまうぐらいに、ミアの声だけでこんなにも元気になれる自分を見つけて、少しだけ驚く。


『――ふふ、ウィル様、お元気そうですわね。安心いたしましたわ。お名残惜しいですけれど、そろそろ父に代わりますね』


「ああ。また近いうちに、会いに行くよ」


『ええ、楽しみにお待ちしております』


 ――楽しみに、か。

 本当に、我ながら、よくここまで関係を修復できたものだ。


「あ……っ、ああ。俺も楽しみにしているよ」


 愛している、と喉元まで出かかったところで、近くに子爵がいることを思い出し、誤魔化す。

 ――ああ、本当にもどかしい。ミア一人でも使えるように、魔法通信機に魔力を溜めておけたらいいのに。


『――すまないが、通話を代わらせてもらうよ。無事そうで何よりだ』


「ええ、こちらは滞りなく」


 スピーカーから聞こえてくる声がエヴァンズ子爵のものに変わり、俺も頭を仕事モードに切り替える。


「例の件で、いくつか収穫がありました。ですが、まだ馬車が到着していなくて……」


『ああ、その件だが……すまない、奴は別の者に連れ去られてしまった』


「仲間がいたのですか?」


『うむ。詳しいことは魔法通信では話せないが、オスカーが大怪我をしてな。命を落としかねない怪我だったのだが、邸に帰ったら奇跡(・・)が起きて、一命を取り留めることができた』


「――なるほど。オスカー殿がご無事で、良かったです。奇跡(・・)に感謝せねばなりませんね」


 ミアが聖魔法で治療した、ということだろう。

 シナモンがいながら、オスカー殿に大怪我を負わせるなんて……敵方にもかなり厄介な者がいるようだ。


「では、その件も含めて、直接お話ししましょう。子爵、明日のご予定は――」


 俺はエヴァンズ子爵家を訪問する許可をもらい、通話を切った。


 最初は、俺とミアにちょっかいをかけてきただけだと思っていた、デイジー・ガードナー。

 しかしそれがブティック・ル・ブランと繋がり、呪いと繋がり、『魔石』と繋がり――もしかしたら、俺が真に探していた情報にも繋がっている可能性が見えてきた。


 ――逆行前、式典の際に魔法騎士団を襲ったあの強力な呪い。

 ミアが呪いで深い眠りに落ち、俺が『魔女』に会いに行き、逆行するきっかけを作った事件。


 式典の日まで、そして約束の日まで、あと、二年半だ。

 まだ、時間は充分残されている。


 それまでに、事件の全容を解明し、魔女の求める『土産』――『賢者の石』、もしくはそれに準ずる何かを手に入れなくてはならない。


「……よし」


 俺は気合いを入れ直すと、アイザック兄上と話をすり合わせて父上に報告をするため、自室を出たのだった。



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