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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第一章 タイムリープと幼き誓い
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1-2 タイムリープ ★ウィリアム視点



 ウィリアム(現在は十六歳)視点です。

 導入部では逆行前、三年後の未来を回想しています。


――*――


 事件が起こったのは、俺が十九歳、ミアが十七歳の時だった。

 王城前広場で催された大きな式典で、ある一団が暴動を起こしたのである。

 狙いは、俺の所属する魔法騎士団。


 奴らは、滅びたはずの魔族が扱う『呪い』が込められた矢を、複数所持していた。

 不覚にも俺は気が付かなかったのだ。そのうちの一矢(いっし)が俺を狙っていることに。


 俺を狙った矢は、真っ直ぐに俺に向かってきて、そして――俺の隣にいたミアの身体に、深々と突き立ったのである。

 ミアは、あろうことか身を呈して俺を(かば)ったのだ。


「なぜ、俺を庇った……?」


 とっさに自分の口から出た言葉は、ミアの身を案じるものではなかった。


 この頃俺とミアは冷め切った関係で、ミアが俺との婚約から逃げたいとさえ思っていたのを、薄々感じ取っていた。

 そんな関係のミアが、身を呈してまで俺を守ったことが、ただただ不可解だった。


「これで……私も、あなた、も……自由に、なれ……る」


 ミアはどこか晴れやかな、しかし今にも泣きそうな表情でそう告げ、気を失った。


「ミア……? ミア……、ミアぁぁぁあ!」


 叫んでも、嘆いても、ミアはもう、目を覚まさなかった。

 身体の傷が癒えても、彼女の心は、呪いに囚われ帰ってこなかった。

 その言葉を最後に、ミアは覚めることない深い眠りに落ちてしまったのだ。



 誰も信じてくれないかもしれないが、俺はミアを(ないがし)ろにしていたわけではない。むしろ、誰よりも特別に想っている。

 ミア自身もエヴァンズ子爵も知らないだろうが、父上に無理を言ってミアに婚約を申し込んだのも、俺だ。


 他の令嬢が気にかけるのは、俺の身分や職業、容姿ばかり。

 そんな中、ミアだけは、俺に対して別の感情を向けていた。

 俺も、彼女は――彼女だけが特別だったのだ。


 だが、ここ数ヶ月は特に魔法騎士団の職務が忙しくて、彼女と過ごす時間を取ることが出来なくなっていた。手紙のやり取りも、また(しか)り。

 いつしか、彼女の笑顔は感情が乗らない空っぽなものに変わっていて、会うたびに俺の心は沈んでいった。


 全く関わったことのない、顔も知らない令嬢との不本意な噂が流れていると知ったのは、屋敷を訪ねてもミアが俺に会ってくれなくなった後だった。

 そして、俺も忙しさのあまり、その令嬢との噂などすっかり忘れ去り、撤回することもせずに放置してしまったのである。


 こうなってしまってからでは、もう、何もかも遅すぎた。

 それでも、ミアも参加するこの式典で、今日こそはきちんと全てを説明しようと思っていた――その矢先の、この事件だった。


 俺は、深く激しい後悔に襲われた。


 もっとミアに心を砕いていれば。

 恥ずかしがったり、もったいぶったりせず、惜しみなく想いを伝えていれば。


 俺があの時、呪いの矢に反応できていれば。

 式典の前に、不穏な動きを察知できていれば。


 ――偶然にも『魔女の秘薬』を手に入れたのは、幸運だった。


 俺は願った。


 ミアを呪いから守る力を。

 大切な女性(ひと)に惜しみない愛と幸福を。

 もう二度と、失うことがないようにと。



 俺は、魔女に『代償』を払った。


 そして。


 光に包まれ、戻ってきた。


 ――三年と三ヶ月前。

 十四歳のミアが新しいドレスを身に(まと)って、俺の十六歳の誕生日を祝ってくれた、夏の日だった。


 それよりさらに以前、婚約を結んだ日もそうだったが――逆行前の俺は、ミアと何を話せば良いのかわからず、かえって冷たい態度になってしまったのを覚えている。

 婚約を結んだあの日――妻にと望んだミアと視線をかわしたとき、俺は衝撃を受けた。


 光を束ねたように煌めく、白銀色の長髪。海の浅瀬のような、澄み切った青色の、大きな瞳。

 白く柔らかな肌は、日に焼けた形跡もなく整っている。

 ミアは、少しの幼さと愛くるしさを残した、可憐な美少女になっていた。


 まるで電流を浴びたかのような、そんな感覚だった。

 以前の(・・・)俺は、初めての感覚に戸惑い、思考が動きを止めてしまって、結局一言も話せなかったんだ。


 それからミアに会うたびに、俺は内心の動揺を悟られぬよう、寡黙(かもく)を貫いた。


 あの時、言葉を飲み込んだりせず、一言でも褒めることが出来ていたら――何かが変わったのだろうか。


 今度はもう、遠慮などしない。

 ミアの心が凍ってしまったのは、間違いなく俺のせいなのだから。


 そして応接間の扉が開く。

 美しい天使の、憂いを帯びた海色の瞳と、視線が交わる。

 愛しい人との再会に、俺の心は、歓喜に震えた――。


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