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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第三章 総攻撃

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5-14 乱戦



 私たちが隊から離れて先に進み始めて、二日目の夜中。

 予想よりもずっと早く、私たちは死の山の麓まで辿り着いていた。


「オルとルト、本当にすごいわ。こんなに速いなんて」


「ああ。あと一日、二日はかかると思っていたよ」


『えへへ、駆けっこは得意なんだ』


『いっぱい走れて楽しかったよ』


 休憩も最低限にして、これほど走ってきたのに、オルとルトはまだまだ余裕がありそうだ。流石は元高位魔獣といったところか。


『もうすぐ山に入るよ』


『準備はいいよね?』


「ああ、大丈夫だ」


「ええ、私も」


 返答すると、すぐに道が上り坂に変わる。どうやら、山を登り始めたようだ。


「ミア、魔道具は起動したね?」


 ウィル様が言っているのは、ガスを防ぐための魔道具のことだ。

 毒ガス地帯を通る用の防毒マスクは、あれから進化を遂げて、魔法石をはめ込んだブローチ型の小型魔道具として新開発された。

 視界を布やガラスで遮られることもなく、風の魔法によって常に綺麗な空気が自分の周りを循環するようになっている。

 魔法石を使っているから、私のように魔力のない人でも、起動スイッチを押せば魔法が発動するという便利な代物だ。


「ええ、今スイッチを押しました」


「悪いんだけど、ブランの魔道具も起動してやってくれるかい?」


「わかりましたわ」


 私は、紐を通してブランの首にさげられている、私たちと同じ魔道具を起動する。

 オルとルトは、毒に耐性があるので、魔道具を使わなくても問題ないそうだ。


『あと二分ぐらい進んだ先から、戦闘の気配がするよ』


『あの坂を登り切ったら、もう見えると思う』


「わかった。ここからは、自分たちの足で近づこう」


 私たちが双頭犬の背から降りると、オルとルトは二匹の子犬の姿に戻った。


 警戒しながら、坂道を登りきり、ウィル様は足を止めた。

 私も、ウィル様に倣って、その場で立ち止まる。


「……っ、これは」


 小高い場所から見下ろすと、そこは、ガス地帯を越えた先、石灰棚の開けた場所だった。

 赤みを帯びた明るい満月が照らすその地は、以前見た様相と大きく変わってしまっている。


 白く美しかった岩棚は崩れ、ところどころに穴が空き、土砂や岩で埋まっている。

 仄青く神秘的な水は、夜だということもあってか、墨を溶かしたように黒く濁っていた。


 燃えそうな物など自然には存在しない地であるのにも関わらず、あちらこちらから煙が上がっている。

 煙の根元では火の粉が舞い、ちろちろと赤い焔が見え隠れしていた。


 そして何より――。


「魔獣が、たくさん……」


 空を、陸地を、水場を。

 縦横無尽に、黒い靄を纏った巨大な魔獣たちと、靄に覆われていない聖獣たちが駆け回り、あるいは飛び回り、激しい戦いが繰り広げられていた。


 激しい戦闘のせいか、なんだか地面が揺れているような気さえする。


「騎士たちの姿が見えないな」


「ええ」


『人間の気配は、一箇所に固まってるようだよ』


『人数は六、七人かな』


 オルとルトは、耳をピンと立てて気配を探りながら、そう告げた。二匹とも、同じ方向をじっと見ている。


「ここから遠いの?」


『あっちの、大きな蛇がいるところに集まってる』


『一部分だけ黒い雲がかかってるところの真下だよ』


「大きな蛇……白銀の地竜のことだな」


「あそこにだけ雨雲がかかっているということは、漆黒の天竜も一緒にいるみたいですわね」


 赤い満月の見える方向とは逆側――魔女の館がある辺りに、稲光を伴う雨雲が広がっているのが見える。

 ここからだと、歩いて向かうにはまだ少し遠い。


「距離があるな。騎士たちがいないのなら、双頭犬に乗って近づいても問題ないか」


「ええ、そうですわね。オル、ルト」


『うん、まかせて』


 そうして私たちは、双頭犬の姿に戻ったオルとルトに再び乗せてもらう。


「なるべく魔獣に当たらないように進んでくれ。進路を邪魔する魔獣は、手早く排除。ただし、無理に倒さなくても良い。何よりも移動が最優先だ」


『わかった』


『じゃ、行くよ』


 そうして、私たちを乗せた双頭犬は、一気に坂道を駆け降りる。

 オルが右方、ルトが左方――双頭犬は広い視野で魔獣の動きを確認しながら、ジグザグと戦場を駆け始めた。


「きゅうう!」


「――『氷壁(アイスウォール)』!」


 ブランが鋭く鳴き、ウィル様が素早くそれに応えて、上方へ氷の防護壁を展開する。

 私が上方へ目を向けると、不気味な緑色の炎弾が雨あられのように降り注ぐ。

 炎弾は氷壁にぶつかると、ジュウジュウと音を立てて消失した。


 すぐさま、オルとルトが青白い炎のブレスを上空に向かって交互に放つと、ブレスがクロスした部分がごう、と燃え上がり、黒い靄は霧散して地面に落ちた。


「豚の顔をした蝙蝠……? 見たこともない魔獣だな」


 緑色の炎を放ったのは、ウィル様も見たことのない種類の魔獣だったらしい。


『あれは普段、洞窟とか暗い場所に住んでる中位魔獣だよ』


『光が苦手だから、屋外では夜しか活動しないんだ』


『気配を消すのも上手くて、今みたいに気付いたら近くにいることがあるの』


「闇色の敵は見えにくくて厄介だな。ブラン、助かったよ」


「きゅう!」


 ウィル様の防御が間に合ったのも、ブランのお手柄だったようだ。

 臆病なブランは、オルやルト、ウィル様よりも気配察知が得意なのである。


「ウィル様、私が結界を張りましょうか?」


「いいや、ミアの力は温存したい。本当にやばくなったら加勢してくれ」


「――わかりました」


 私も結界を張れるから役に立てるかと思ったが、まだ出番ではないようだ。

 聖力には限りがあるから、ウィル様の言う通り、温存しておくべきなのだろう。


 その後も度々魔獣に襲われたものの、ウィル様とブラン、オル、ルトの力で、難なく退けていく。

 双頭犬は足を止めることなく、雨雲が広がる『灰の森』――白銀の地竜と漆黒の天竜の縄張り付近まで、私たちは無事に辿り着くことができたのだった。


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