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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第六章 魔女との邂逅

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4-34 魔女の秘密



 魔女が出て行った客室で、私たちはこれまでの会話からわかったことを、まとめることにした。

 私とウィル様がベッドに腰掛け、シナモン様とクロム様はソファーに。ブランは、私の膝の上に陣取っている。


「まずは、魔女の身体について――」


 魔女は、自らの身の永遠を願い、人の生の理から外れ、自らの身に魔法をかけた。

 彼女は持てる魔力を全て失い、訪れた者の魔力でその者の願いを叶えると同時に、生命を吸うことで命を長らえている。


「白銀の地竜がウロボロスを(かたど)っていたのも、おそらく魔女の身にかけられた『永遠』を願う魔法と関係がある。だから、地竜はこの館を囲い込んで動かずにいるんだ」


「漆黒の天竜は、地竜と魔女を守るために、近くの空に棲んでいるのかもしれないな」


 ウィル様とシナモン様が、二頭のドラゴンについて考察を述べた。私も、クロム様も、静かに頷く。


「途中の巨大鳥も魔女を守ろうとしている様子でした。それに、この山で会った動物たちは、みな呪いの靄に侵されていない――魔獣ではなく、きちんと知性を持ち、会話の成り立つ子たちでしたわ」


「ああ。魔女が『賢者』であること……すなわち、勇者パーティーが複数の聖獣を従えていたことと関係があるのかもしれない」


 巨大鳥やその仲間の動物たちも、ドラゴンたちも、勇者たちの従魔であり、今もまだ賢者に忠誠を誓っている可能性があると、ウィル様は考察した。


「さて、次に……ミアに話を聞きたいのだけれど」


「『解呪』の件ですわね」


「うん。呪いの靄は見えないと言っていたけれど……」


 ウィル様は、私と魔女の会話を覚えてくれていたようだ。私は頷いて、続ける。


「ええ。靄は、魔女様の身体の表層には、全く現れていませんでした。しかし……彼女の身体の中には、とても強力な呪力が根を張っています」


「……どういうこと?」


「私にもさっぱり、わからないのです。ただ、魔女様の身体の表面に、薄い聖力の膜――『加護』に似た聖魔法が張られていました。まるで呪力が外に出ないよう、蓋をしているかのように」


「――それは、俺も感じたぜ。しかもありゃあ、一人分の聖力じゃない。複数の人間の聖力……それも、弱い聖力を無理矢理かき集めたって感じだ」


 私の言葉に同意したのは、神殿騎士のクロム様だった。

 彼は、色々な聖女の『加護』を受けた経験があるから、気がついたのだろう。


「それは本当か? 教会に隔離されている聖女が、そんなにたくさんこの地を訪れたとも思えないのだが」


 眉を顰めて疑問を呈したのは、シナモン様だ。


「ああ、俺もそう思うぜ。だが――」


 クロム様も、それに同意した。しかし、何か違和感があるらしい。一度言葉を切ると、少し考えてから、話を続けた。


「――あのレベルの聖力、なぁ。教会の聖女にしては弱すぎると思うんだよ」


「しかし、聖魔法は聖女しか使えない。聖力も聖女しか持たないものだろう?」


「うーん……そうなんだよなあ。でもなあ……」


 シナモン様の指摘に、クロム様は自信なさげに同意し、口をつぐんでしまった。

 しかし、私もクロム様と同意見である。魔女の張っていた聖力の膜は、これまでに出会った聖女たちの『加護』のように、強力なものではなかったのだ。


「きゅうう」


「ん? 何だ、ブラン」


 皆が口を噤んだところで、私の膝上のブランが、何かを主張するようにひと鳴きした。


「きゅるうるる。きゅう、きゅるる?」


「……ああ、そうだな。確かに魔女は、お前なら、不老不死を望んだ理由の一端がわかるのではと言っていたな」


「きゅう」


「何か思い当たるのか? 言ってみてくれ」


 そうして、ブランがウィル様に何かを一生懸命伝える。

 頷きながらブランの言葉に耳を傾けていたウィル様の顔は、だんだん険しさを帯びていく。


「ぷうう」


 ブランが話し終えても、ウィル様は顎に手を当てたまま、沈黙している。


「ブランは何と?」


 シナモン様が促して、ようやく、ウィル様は顎から手を離し、重い口を開いた。


「……呪いに侵された獣は、一度死を迎えることで魔獣に生まれ変わる」


「ああ。しばらく前に、魔法石研究所で聞いたな。それで?」


「そして、魔女はやはり、強力な呪いをその身に宿している可能性がある」


「それもさっき、ミア嬢が言っただろう」


「ああ」


 ウィル様の的を射ない回答に、シナモン様の表情が訝しげになる。

 シナモン様が口を開こうとしたが、それより先に、ウィル様は続きを話し始めた。


「つまり。おそらくだが……彼女は、その身が死を迎えることがないよう、幾重にも魔法を張り巡らせ、たった一人で、呪いの発現を抑え続けているんだ――数百年も前から」


「……どういうことだ? もっとわかるように説明しろ」


「お前は、魔女の言葉に引っかかりを感じなかったか? 魔女がこの地に住み始めたのは、魔王がひとまず(・・・・)姿を消し、勇者たちが王都に凱旋した頃だと」


「ひとまず?」


 ウィル様の言葉に、シナモン様もクロム様も、はっとした表情を作る。


「――まさか」


「ああ。おそらく、魔王は滅びていない。その身を呪いに変え、魔女の中で、今も彼女を蝕み続けているんだ。すなわち――」


 ウィル様は、小さく低い声で、自身の推測を呟いた。


「――魔女が死ねば、魔王が蘇る」


「すばらしい。大正解なのじゃ」


 室内の空気とは対照的に、明るい声をあげて客室の入り口に姿を現したのは、湯気の立つカップが載ったトレーを持っている、魔女本人だった。


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