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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第五章 灰の森へ

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4-25 心強い仲間



 御者台から声をかけられてすぐに、馬車は宿場町に到着した。今日はこの街に泊まることになるだろう。

 王都からまだそんなに離れていないためか、そこそこ大きな街だ。宿屋やレストラン、商店も何軒もあるし、教会もある。


 もうじき日が暮れる時間だ。商店街は、家路を急ぐ人たちや、これから食事に向かおうとお店を探している集団で賑わっていた。

 私たちを乗せた馬車は、商店街の入り口をのんびり通り過ぎると、教会通りへと抜ける。

 教会通りの端、閑静な住宅街との境目に差し掛かったところで、馬車はゆっくりと停車した。


「宿の前についたぞ。さあ、お嬢さん、お手を――」


 馬車の扉を開けて、私に手を差し出してくれたのは、先程まで御者をしてくれていたシナモン様だ。

 しかし、私がシナモン様の手を取る前に、ウィル様はすかさず彼女の手に、ブランの入ったケージを載せる。


「おい、シナモン。ミアのエスコートは俺の役目だ。絶対に譲らんぞ」


「ふ。心の狭い奴だ」


 シナモン様は目を細めて口端を上げると、ブランのケージを抱えなおして、先に行ってしまった。

 続いてウィル様が先に馬車を降り、私に手を差し出す。私がその手を取ると、ウィル様は満足そうに微笑んだ。


「本当は宿の部屋も同室にできたら良かったんだけどな」


「そ、それは流石に、ちょっと難しいですわ」


「残念」


 ウィル様は、そう言って私の手の甲に口づけを落とした。


「ミア……別室になってしまうけれど、何かあったらすぐに駆けつけるからね」


「ウィル様は心配性ですわね。旅の最中は身分も隠しておりますし、狙われるような身でもありません。それに、シナモン様も同室ですし」


「ほら、そのシナモンにたぶらかされたりとか……」


「もう、ウィル様ったら、何をおっしゃっているのです。そんなわけないでしょう」


「あいつは同性にモテるんだよ。ミアが心変わりしたりしたら、俺、生きていけない……」


 ウィル様は私の手をぎゅっと握り、捨てられた子犬のような目をしてそんなことを言う。


「……おい、早くしてくれないか。いつまでも正面に馬車を停めておいたら迷惑になるだろう」


 しびれを切らしたシナモン様が、馬車に戻ってきて、低い声で注意した。私たちがもたもたしていたせいで、次の馬車の邪魔になっていたようだ。

 私は急いで馬車から降りて、シナモン様に謝った。


「ご、ごめんなさい」


「ミア嬢は悪くないよ。そこのボンクラに言ったんだ」


「おい、誰のことだそれは」


 文句を言いながらもウィル様はテキパキと荷物を下ろし、馬車を宿の厩番に預けに行ったのだった。


「さあ、ミア嬢は中へ。荷物は私が運んでおくから」


「ありがとうございます」


 シナモン様のお言葉に甘えて、先に宿の中へ入らせてもらう。

 ロビーで出迎えてくれたのは、シュウ様が手配してくれたもう一人の助っ人――緑色の髪と薄褐色の瞳、引き締まった体躯をもつ、年上の男性だった。


「おう、ミア嬢ちゃん、久しぶり。元気だったか?」


「ええ、おかげさまで。お久しぶりです。クロム様もお元気そうですね」


 神殿騎士のクロム様は、白い騎士服ではなく、旅用の軽装に身を包んでいる。

 ウィル様とシナモン様も、そして私も旅用の衣服を着用していたが、クロム様が一番、さまになっていた。


「手はず通り、部屋は二部屋取ってある。俺とウィリアム君で一部屋。ミア嬢ちゃんとシナモン嬢ちゃんとウサギで一部屋使ってくれ」


「ウサギ……ブランも私と同室でいいのですか?」


「ああ。何だか知らんが、その方が安心だとウィリアム君が言っていたぞ」


 ブランとウィル様は、従魔と主人の関係。離れすぎなければ、念話のようなもので、いつでも連絡を取り合えるらしい。

 だから、ウィル様は、ブランを私の部屋に置きたがるのだろう。……少し心配性すぎる気がするが。


 私がクロム様と話していると、荷物をカートに載せ終わったシナモン様が、ロビーに入ってきた。

 彼女はクロム様の姿を見つけると、すかさず話しかける。


「クロム殿。例の件、情報は何か得られたのか?」


「いや。この辺には、何の手がかりもなかったな。まあ、王都から出られただけでも御の字だ。どっちみち、もう数年経っちまってるし、焦らず探していけばいいさ」


「……見つかるといいな。ミア嬢のご両親」


「――ええ」


 そう。

 クロム様は、灰の森へ向かう道中、死の山についての情報を集める傍ら、ステラ様とジュード様の居場所を探ってくれている。

 聖女マリィの話と当時の状況を総合的に考えると、ステラ様は王都よりも北方にいる可能性が高い。

 ジュード様については、何の手がかりもないが、クロム様は彼が生きていると信じているようだった。


「灰の森についての情報も、もう少し近づいてからでないと、得られないだろうしな。馬車で二週間……まだまだ時間はゆっくりある。まあ、のんびり行こうぜ」


 クロム様は、そう言ってニカッと笑う。

 そうして話をしている間に、ウィル様も馬を預け終わり、ロビーに入ってきた。私たちは一旦解散し、各々の部屋に戻って身体を休めたのだった。


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