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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第三章 聖女の証明

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1-12 天才少年の魔法指南



 それからしばらくの間、ウィリアム様は子爵家に全く顔を出さなくなった。

 最近は短い時間でも週に一度は屋敷を訪れていたのに、もう二週間以上も彼の姿を見ていない。

 突然手のひらを返すように優しくなる前は月に一度しか顔を見せなかったことを考えると、なんら不思議なことではないのだが。


 思い返すと、関係が冷え切っていたあの頃は、ウィリアム様が訪れる日は憂鬱で仕方なかった。

 彼の態度がコロッと変わり、来訪の頻度が上がってからは、憂鬱ではなくなったものの、「またか」という煩わしさを感じていた。


 ――なのに、今はなんだか寂しく思ってしまっているのだから、人の心というのは不思議なものだ。


 季節はすっかり進んで、もう十二月に差し掛かろうとしていた。




 月が変わってから一週間。

 ウィリアム様はようやくエヴァンズ子爵家に顔を出した。


 待っている間、私からオースティン伯爵家を訪ねることも考えたのだが、ウィリアム様に手紙を送っても返事が来なかったので諦めた。

 そういえば以前からウィリアム様は筆不精だった気がする。

 婚約当初は、会いにも来ず手紙もくれなくて、寂しい思いをしていたのだ。まあ、それもすぐに諦めに変わったのだが。

 先月までは頻繁に屋敷を訪ねてきていたから手紙のやり取りもしなくなっていて、すっかり忘れていた。


 ちなみに、お父様がよく使っている魔法通信は、私には使えない。

 あれは魔道具を利用した生活魔法の一種で、魔力のない私は、一人で扱うことができないのだ。

 誰かの手を借り、通信機を使ってまで連絡を取ろうという気にもなれなかった。



 心なしか疲れたような様子のウィリアム様は、魔法学の教本とノートを、鞄から取り出した。

 聖魔法を学びたいと言った私のために、持ってきてくれたようだ。


 教本は、ウィリアム様が王立魔法学園に通っていた時に使っていたものらしい。

 だが、一年しか通っていなかったからか、それとも別の本で勉強していたからか、新品さながらである。


 ノートは二冊。

 一冊は使い込まれて古くなったもの。

 もう一冊は、今回のために新しく用意してくれたもののようだ。

 どちらのノートにも、文字や図がわかりやすく書き込まれている。


「あの、ウィリアム様、これは?」


「こちらの新しいノートは、聖魔法について可能な限り調べ、記したものだ。聖魔法は普通の魔法とある程度は共通しているだろうが、全く異なる体系だから、練習中に気付いたことがあればどんどんメモを書き込んでくれ」


 ノートは几帳面な字で丁寧に書かれているが、余白が多めにとってあった。


「古い方は、私が魔法の練習を本格的に始めた頃に使っていたノートだ。私が試した様々なことをメモして、自分なりにまとめてある。正直、魔法学園の教本よりも役に立つと思う」


 こちらは、新しい方のノートと違って、文字でびっしりと埋め尽くされている。

 後から追加した文字は色を変えてあったり、大切な部分を目立たせるように枠で囲まれていたりと、要点がわかりやすい親切なノートだ。

 一見ごちゃごちゃしているのに、まとめる必要を感じない――芸術性すら感じる。頭がいい人のノートである。


「ありがとうございます。……このノート、私のために」


 新しい方のノートを手に取ってお礼を言う私に、ウィリアム様は何も言わず、目を細めて微笑んだ。


 これを用意するのは、本当に大変だっただろう。

 情報がほとんどない聖魔法について、こんなにたくさん調べて書き込んで……忙しいはずなのに、私のためにここまでしてくれるなんて。


 手紙の返事を書く時間が取れなかったのも、頷ける。

 私は、寂しいとか薄情だとか、少しでも思ってしまった自分を恥じた。


「大切に、使います」


 私がノートをぎゅっと抱きしめてお礼を言うと、ウィリアム様は嬉しそうに頷いた。


「さあ、じゃあ早速基礎の部分から勉強していこうか」


「はい」


 ウィリアム様は教本とノートを開き、魔法学の基礎について、かいつまんで説明をし始めた。

 彼の説明は的確で、すごくわかりやすい。

 初心者の私にもわかるように、魔力の扱い方や魔法の組み立て方を、噛み砕いて説明してくれた。


「ひとまず、座学はこんなところか……次は、実際に魔力の扱い方を実践してみよう。まずは私がやってみせるから、よく見ていて」


 ウィリアム様は、鞄から眼鏡に似た魔道具を取り出し、手渡してくる。

 私がその眼鏡をかけると、ウィリアム様が、身体全体にうっすらと青緑色の魔力を纏っているのがわかった。


「この眼鏡は……?」


「ああ、私が設計して作った魔道具だ。魔力の色が見えるようになっているはずだよ」


「つ、作った?」


「あった方がわかりやすいと思ってね。これを作るのに時間がかかってしまって、なかなか会いに来れなかったんだ。すまない」


「い、いえ……」


 新しい魔道具をひと月足らずで作って持ってくるなんて、どう考えてもスペックがおかしすぎる。

 目の前で楽しそうにしている彼が、魔法学園を一年で卒業したのも、魔法師団からスカウトを受け続けているというのも、なんだか一気に腑に落ちた。


「さて、今、私の魔力は身体全体に満遍なく行き渡っているだろう? 今から簡単な魔法を発動するから、よく見ていてくれ」


 ウィリアム様が手のひらを上にして、右手を軽く前に出す。

 すると、身体全体を覆っていた魔力が少しだけ膨れ上がり、ウィリアム様の右腕を伝って、手の平に集まっていく。


「ここまでが『動作』だ。次に、呪文を唱える――大気中に漂いし水よ、我が手に集まれ」


 魔力が、どんどんウィリアム様の手の中で収束していく。

 最終的に、それは小さな球の形を取った。


「『水球(アクアボール)』」


 ウィリアム様が魔法の言葉を完成させると同時に、手の上に浮かんでいる魔力に向かって空気中に含まれる水がどんどん集まっていき、小さな水の球が現れた。

 色のついた魔力は水球にくっついてふよふよと浮かび、独立して存在しているようだ。ウィリアム様が手を下ろしても、そのままそこに留まっている。

 ウィリアム様が部屋の窓を開けると、水球は窓の外にふわふわと飛んでいった。それを見送ると、彼は再び窓を閉め、カーテンを引く。


「どうだ? 魔力の流れはわかったかい?」


「はい。見せていただいたおかげで、先程座学で教えていただいた理論が、よくわかりました」


「そうか。それで、君の場合なんだが……」


 ウィリアム様は、甘く微笑みながら、私の顔に優しく両手を伸ばす。

 突然のことに私はどきりとして、身を固くした。

 思わず目を閉じると、ウィリアム様が私の顔から眼鏡を取ったのがわかった。


「……?」


 想像していたようなことは起きず、私は恐る恐る目を開ける。

 目の前には、私から取った眼鏡を装着して一歩下がり、真面目な表情で私の全身を観察しているウィリアム様の顔があった。


「ああ、やはりな。この眼鏡では、君の魔力を見ることはできない。魔力と聖力は、根本的には異なる力なんだろうな」


 ――勘違いだった。

 しかも、私は、無意識に受け入れようとしていなかっただろうか。

 そんなことを思って勝手に恥ずかしくなっている間に、ウィリアム様は眼鏡を外して、鞄に仕舞った。


「後でミアの聖力を解析して、魔道具の回路を最適化させてから改造してみるか……いや、今は魔道具よりもミアの実践練習だな。……あれ、顔が赤いけれど、どうしたんだい? もしかして、具合が悪い?」


「い、いえ、なんでも! なんでもありませんわ!」


「そうか……? 具合が悪くなったら、遠慮せずすぐに言うんだよ」


 顔の熱が引かないまま、私はコクコクと頷いた。


「まずはとにかくやってみよう。根本が違っても、理論にはそう大差ないはずだ」


「……よ、よろしくお願い致します」


 そうして、ウィリアム様の指導のもと、聖魔法の実践練習が始まった。


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