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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第一章 魔法石研究所と新たな力

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4-4 何やってるんだ ★ウィリアム視点



 ウィリアム視点です。


――*――


 シュウさんたちに魔女との取引と時間遡行を打ち明けた俺は、王城での舞踏会、そしてテロ事件をどうにか乗り切り、新設された魔法石研究所の立ち上げに奔走していた。

 そんな中、ようやく設けることができたミアとの時間――そこで俺はようやく、ずっと言えずにいた魔女の件を、ミアに伝えることができた。

 対価の話など、一部誤魔化してしまった部分はあるが……実際、『賢者の石』に限りなく近い魔法石を作ることができれば、どうにかなるかもしれないのだ。


 逆行前の式典で起こったことをミアに話すと、真面目で責任感の強い彼女は、自分が俺を逆行に駆り立ててしまったと思っているようだった。

 しかし、魔女との取引は、紛れもなく自分の意思に基づくものだ。


 俺がミアを大切にしなかったこと。

 それこそが、全ての発端なのだから。



 そうして、ミアの魔法石研究所での勤務初日。

 彼女は、南の丘教会の聖女から、聖魔法を教わっていた。


 俺と神殿騎士たちが訓練を終えても、真剣に魔法に取り組んでいる彼女は気づかない様子だったので、声をかけずに訓練所を後にする。

 外には見張りもついているし、結界も張り巡らせている。この施設内にいる限り、安全は確保されているのだ。


 時間まで、俺はシュウさんやカスターと一緒に資料の確認をして過ごした。

 神殿騎士は交代で結界の保持をしたり、聖女と協力して屋敷の管理をしながら過ごす。



 終業時間となり、俺は訓練場へミアを迎えに行った。

 ミアは『加護』の魔法を練習していたようだ。俺が扉をくぐると、丁度いい実験台として、聖女に『加護』をかけられてしまった。


 本当は、ミアの『加護』を真っ先に受けたかったのだが……ミアの勉強のためだ、仕方がない。



 聖女の『加護』は、想像していたほどのものではなかった。

 一部の魔法騎士が修得している身体強化の魔法に、聖属性を付与しただけ、といったような感じだ。


 以前、神殿騎士に聖剣技のことを聞いたところ、「意識を集中して、剣に加護の力を流す」と言っていたのを思い出し、俺は試しに剣を抜いて振ってみた。

 剣に自らの魔力を流して属性を纏わせる、魔法剣に近いものだろうと思っていたが、聖力が自分のものではないからだろうか……自分の意思通りに動いてくれず、魔法剣を使うときのように、上手くいかない。


 魔力操作を色々試してみているところで、聖女は『加護』を解除する。

 俺はついつい、身に纏った『加護』を魔力で操作する方法を熟考してしまい、ミアに声をかけられるまで聖女がいなくなったことにも気づかなかったのだった。



 その帰りの馬車。

 俺は、ミアに『加護』をかけてもらい、もう一度魔力操作を試そうと考えた。

 ……先程は見知らぬ聖女の聖力を纏ってしまったから、ミアの心地良い聖力で上書きしてほしいという気持ちも、少なからずあったのだが。


 都合の良いことに、ミアは、まだ実践をしたことがないのだという。


「――なら、今すぐ俺にかけてみてよ」


 ミアの最初の『加護』は、他の誰にも譲らない――そんな邪な気持ちが、災いしてしまったのだろうか。


「――『加護(ホーリーグレイス)』」


 ミアの優しくあたたかな聖力が、俺の身体を包み込む。

 その力は、先程の聖女の『加護』を圧倒的に凌駕し、俺の身体中にその力が行き渡ってもまだ、とどまることなく流れ込んできた。


「こ、これは……?」


 俺は自分の身体を確認する。

 身体中に、あたたかな力がみなぎってくる。

 ――魔法騎士の、身体強化魔法の比ではない。

 俺の頭の中を、様々な考察が巡る。


 初めて使う魔法だったのだから、ミアの表情を、様子を、注意して見ていなくてはならなかったのに――、俺は、思考を巡らせるのに夢中になってしまっていた。


 やがて、ミアから流れ込んでくる力が、ひときわ強くなり、そして。

 ふっと、消えた。


「……どう、して……?」


 ミアは絶望したような表情で、瞼を下ろしてゆく。


「……っ、しまった、ミア!」


 力を失って弛緩するミアの身体を、俺は、慌てて受け止める。


「しっかりして、ミア! ミア!」


 俺の呼びかけにも、ミアは反応しない。聖力が尽きてしまったのだろう。


「くそっ、俺、何やってるんだ!」


 俺は、聖力が尽きるまでミアの様子に気づかなかった俺自身に、強い怒りを覚えた。


「休ませてあげたら、シュウさんにも連絡しないと……。いや、もう夜だし、明日にするか……」


 ミアの『加護』は俺の身体に残っているが、聖力の流入は止まっている。これ以上、ミアの身体に負担がかかることはないだろう。

 しかし、念のため、近くで様子を確認していた方がいいかもしれない。


 オースティン伯爵家に戻った俺は、ミアを大切に横抱きにして、丁重に運ぶ。

 ミアをベッドで休ませると、しっかり眠っていることを確認する。

 俺はそのまま、『加護』が身体から消えてしまう前に、魔法の解析を始めたのだった。


 ――もちろん、ミアの様子を時折確認することは、忘れない。


 なるべく正確にメモを取るよう心がけながら、聖力に干渉したり、魔力を流してみたり、室内でも邪魔にならない短剣に聖力を移そうと試行錯誤したり。

 そうしているうちに、いつの間にか、空が白み始めてきた。


 流石に眠くなってきたので、ソファーに寝転んで、仮眠をとる。

 身体にミアの力が満ちているからか、俺はあっという間に、優しくてあたたかい、幸せな夢に誘われていったのだった。


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