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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第五章 反撃の狼煙

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3-31 教会に巣食う『魔』



「私は最近まで気づかなかったんですけどぉ、教会の方針が、大きく変わった時がありましたよね? 実は、その数十年前にも、大きく方針が変化したことがあったらしいんですぅ。調べてみると、その頃から、教会がなんだか変なんですぅ」


「変、とは?」


「時期的には、最後の魔族が姿を消し、世の中が平和になり始めた頃。その頃から、教会は聖女たちの行動を極端に制限するようになりましたぁ」


 聖女マリィの話によると。

 外出を制限し、恋愛や結婚、出産までもコントロールし、神殿騎士と聖女の距離が近くなりすぎないよう、教会は制約を設けた。

 治療を施した回数によって、聖女の暮らしの良し悪しが決まってしまうという制度もここから始まった。


「最悪なのはぁ、一部の聖女が、治療を最後まで行わずに患者さんを帰して、また教会に来るように仕向け始めたんですぅ。味を占めた聖女たちの間で、その手法はどんどん広まっていきましたぁ」


「……なんてことを」


「酷いことですけど、事実ですぅ」


 神殿騎士の男性以外は皆、マリィ嬢の言葉に驚き、或いは怒りを滲ませた。マリィ嬢は、悲しそうに目を伏せる。


「南の丘教会の皆さんの多くはぁ、そうやって脈々と受け継がれてきた『暗黙の了解』に反発した人たちですぅ。中には、教会が認めない相手と恋愛関係になって、逃げ出そうとした人とかもいますけどぉ」


 私の母、ステラ様の場合は、後者である。そもそも彼女は、教会の中でも浮いていたようなので、その『暗黙の了解』を知らなかった可能性もあるが。


 マリィ嬢は、話を元に戻した。


「教会の制限が強まるにつれて、それから聖女たちが自己中なふるまいをするにつれて、聖魔法の力は弱くなっていきましたぁ。それに伴って、神殿騎士の剣も鈍っていったんですぅ」


 マリィ嬢の話には、私も、納得がいく。

 聖魔法を扱うにあたって、力の源が、周りを思いやり、愛する心にあることを、私も知っているから。


「それでも、教会は方針を元に戻そうとしませんでしたぁ。聖魔法が弱まっていることに気づいていた人もいるはずなのに、むしろ、締め付けを強くして、南の丘教会みたいな隔離教会を新設したぐらいですぅ」


 聖魔法の力の源について、マリィ嬢も気がついている。おそらく、南の丘教会の聖女たちも、そのことに気がついた人たちなのだろう。


「それって、教会自身が、わざと聖魔法や聖剣技の力を弱めようとしているんじゃないかって思いませんかぁ? まるで、聖なる力が天敵みたいですよねぇ?」


 聖なる力が天敵。

 教会が変革し始めたのは、魔族が姿を消した頃から。

 それはつまり――、


「……まさか、教会に魔が巣食っているとは、比喩でなく、文字通りの意味で言っているのか?」


「そうですよぉ」


 私と同じことを想像したらしい王太子殿下が、わずかに声を震わせながら、尋ねた。

 マリィ嬢は、こともなげに頷く。

 皆が驚く中、ウィル様とオースティン伯爵は、思うところがあったらしく、互いに顔を見合わせた。


 王太子殿下は、続けてマリィ嬢に質問をする。


「なぜ……聖女たちは、上で手を引く魔の者の存在に気づかなかったのだ?」


「大神官以上の人に会えるのはぁ、神官長だけ。聖女でも神殿騎士でも、上には会えないんですぅ。まあ、その仕組みができたのもその頃なんですけどぉ……上位の神官様たちがガラッと変わってても私たちにはわかりませんしぃ、顔も名前も知りません」


「数年前に、大神官長が変わったのではと噂になっていたが」


「外に向けての方針が、ガラッと変わりましたもんねぇ。自分たちに利益をもたらす、新しい何かを見つけたのかもしれません。北の方に興味があるみたいではありますけどぉ」


「やはり、北か……」


 王太子殿下は、ううむと唸った。


「南の丘教会に入れられた聖女さんたちが、北の方へ飛ばされることも増えましたねぇ……あっ、そうそう。だからぁ、ステラ様も、北の方のどこかにいるんじゃないかなぁって思ってますぅ」


「えっ? ステラ様が……?」


 マリィ嬢は突然私の方を向いたかと思うと、にこりと笑って告げた。


「娘さんなんでしょお? そっくりですもんねぇ。ステラ様は何年か前まで、南の丘教会にいらしたんですよぉ」


「……そう、でしたか……」


 やはり、ステラ様は生きていたのだ。今もまだ、王国のどこかにある教会で、聖女としてつとめを果たしているのかもしれない。


 私がしばし感傷に浸っていると、マリィ嬢は困ったように、まだ何やら考え込んでいる王太子殿下へと話しかけた。


「えっとぉ、これでお話しできることは全部ですぅ。それでぇ、結局私たちはどうしたらいいですかぁ?」


「ううむ……魔族が関わっているかもしれないとなると……。だが、確証はないのだろう?」


「……恐れながら、殿下。王国内で魔族が暗躍しているかもしれない、という可能性は、私たちも考えていました。こちらも確証がなく、正式に報告できずにいたのですが」


 声を上げたのは、オースティン伯爵だ。


「どういうことだ?」


「魔法師団魔道具研究室の室長から、報告を受けたのですが――」


 そうして、オースティン伯爵は、ヒースのこと、『紅い目の男』のこと、そして彼の使った魔法と、呪力や魔石との関係を話した。


「――我々が大っぴらに動くと、混乱を引き起こすおそれがある。ですので、国王陛下にのみご報告させていただいた後、最小限の人数で、極秘裏に調査を始めていたところです」


「……なるほど……だから父上は、南の丘教会を素直に城へ受け入れたのか。ならば、やはり彼女たちを保護し、こちらの戦力を底上げする必要があるということだな。ただし、混乱を避けるためにも、彼女たちの安全のためにも、魔法騎士団と魔法師団は、動けない」


 王太子殿下は、納得したように頷く。


「ちなみに聖女マリィよ。南の丘教会の中が空っぽになっていることは、神官長に気づかれているか?」


「うーん、どうでしょう? 神官長が下まで降りて来ることは少ないしぃ、何人かは南の丘教会に残ってくれましたから、業務に支障は出てないはずですぅ。連絡も来てないし、まだ気づかれてないかもぉ?」


「ふむ。なら丁度良い」


 王太子殿下は口角を上げると、新たな提案をした。


「――決めたぞ。私、王太子の名のもと、新たな組織を設けることとしよう」


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~

 オースティン伯爵が魔族について調べ始めた経緯は、3-6をご参照ください。



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