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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第五章 反撃の狼煙

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3-28 ウィルの隠し事



 私の不安をよそに、ウィル様とアシュリー様、殿下の話は進んでいく。話題は、テロ事件の犯人、ヒースのことだ。


「――『前回』ウィリアム殿が得た情報によると、その犯人は、隣国王家の血を引いていたのでしょう? 彼を操って国王陛下を暗殺、その犯人を処刑する。その後で犯人の出自を明かし、隣国との戦争の引き金になるよう罠を張っていたとか」


「ええ。『前回』は確かにそうでした。ですが、結局あの時もテロは失敗し、取り調べ中に犯人がそのことを自供したため、処刑はなくなり、すぐさま戦争に発展することもありませんでした。ただ……その後から国内外の空気が一変したのは、以前お話しした通りです」


「戦争、ですか……。やはり隣国と教会が手を結んでいるということでしょうか。教会にとって、戦争が起こることによるメリットは何でしょうね」


 アシュリー様は、ため息をついて額に手を当てる。


「……戦争で人が傷つくと、聖女の仕事が増える。寄付金も増える……そんなところじゃないのか? 呪いを市井に広めようとしているのだって、それが理由なのだろう?」


「その可能性は、充分考えられます。私たち魔法騎士団の調査によると、平民街には呪いは蔓延しておらず、貴族がターゲットになっているようですし。それに……ずっと教会に通い続けている人々の話を聞いたところ、最近、神官たちの羽振りが良さそうだという証言も多数取れています」


 アシュリー様の疑問に王太子殿下が答え、さらにウィル様が補足する。


「……それで経済が停滞したら、元も子もないと思うのだがな」


「ええ。一時的には儲かるかもしれませんが、長期化して生活基盤、経済基盤が崩れれば、教会にとっても害でしかないはずですけどね」


「ふむ……やはりトップが阿呆なのか? 他の神官どもは何をやっている?」


 殿下たちは、重いため息をついた。

 ――三人の話はあまりにも恐ろしくて、私には現実味を感じられない。

 殿下とアシュリー様は、会話を続ける。


「教会のトップ……大神官長は、表舞台に現れない。その姿も、年齢も、一切が不明だ。だが、ここ数年で、大神官長が代替わりしたのではないかという噂が流れていたな」


 教会を管理する神官たちには、ランクがある。

 一つの教会には、一人から二人の神官がおり、その責任者が神官長。その街の全ての神官長を束ねるのが、大神官。

 さらに、全ての大神官を束ね、国内の全教会のトップに君臨するのが、大神官長だ。


「ええ。ここ数年で、教会の運営方針が、がらりと変わったようですね。神官の数は激減し、神殿騎士団の動向もその頃から変化したとか」


「その神殿騎士団に関しても、不透明で今ひとつわからん機関だ。何やら派閥争いがあるという噂も出ていたが、教会の方針が変わった以降、その噂は聞かなくなったな」


「ローズによると、その頃から、聖女と神殿騎士たちに、大きな異動命令が続いているようですよ。王都外、北の方面にある教会の人材を厚くしているとか」


「そうなってくると、やはり北の隣国との戦いに備えているように思えるな」


「ええ」


「……父上が早く気づいて、阻止してくれることを祈るが……ううむ」


 そこで重い沈黙が落ちる。

 私は、他の人の邪魔にならないように、小さな声で隣に座るウィル様に質問をした。


「あの、ウィル様……伺っても、いいですか」


「どうしたんだい、ミア」


 ウィル様は、ようやく私と目を合わせてくれた。その新緑色の瞳には、疲れと不安が滲んでいる。


「皆様が先程おっしゃっていた、『前回』『今回』とは何のことですか? ヒースは、前にも罪を犯していたのですか?」


「あ、いや……そうであって、そうじゃないんだけど」


「どういうことですの?」


「……別の時に、同じことがあったという話だよ」


「……? よく、わかりませんわ」


「後で話すよ」


 ウィル様は、ただ静かに微笑んでいる。

 重いなにかを、その笑顔の裏に隠して。


「……絶対に話して下さいね。約束ですよ?」


「ああ、約束するよ。いずれミアにも話さなきゃいけないことだったしね」


 ウィル様は、そうは言ったものの、まるで何かに怯えているかのように、目を伏せる。

 ――他の三人が会話をやめて、心配そうな視線をこちらに送っていることには、気がついていないようだった。



 三人は、隣国と教会の話を終える。話題は魔法師団のことに変わり、話し手が、シュウ様に移る。

 途中でアシュリー様が紅茶のおかわりを用意して、話を続けていたところで、突然、ガチャリと牢屋の扉が開かれた。

 現れたのは、白い神殿騎士の制服を着た、青い長髪の男性――彼は、室内に入ると、扉を閉めて帽子を脱いだ。


「ん? 早いな、もう済んだのか?」


「いえ、殿下。恐れながら、状況報告に参りました。神殿騎士、カッコ仮、アイザックと申します」


「カッコ仮……って、兄上!?」


 帽子を胸元に当てて頭を下げているのは、オースティン伯爵家の嫡男、アイザック様であった。


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