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氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む  作者: 矢口愛留
第四章 『二度目』の舞踏会

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3-25 一網打尽



「――『浄化(ピュリファイ)』」


 聖なる光が、再び室内に満ちる。


 光が消えると、苦しそうだった陛下の顔には赤みがさし、普段通りの穏やかさを取り戻していた。


 私は陛下の元から一歩下がり、深くカーテシーをする。


「……よい。楽にしてくれ」


 私が姿勢を戻すと、ソファから身を起こした陛下の、厳しくも優しい目が、まっすぐに私へと注がれていた。


「ミア嬢といったか。君の力は不思議だな……強く純粋で、あたたかな光を感じた。とても強い力だ」


 陛下は、侍医に向けて大きく頷く。

 侍医は陛下に一礼し、衝立の中、王妃陛下と王女殿下の元へと向かった。


「今の魔法は、間違いなく余のよく知る聖魔法だ。皆の懸念する危険はないであろう。王妃と王女も、よろしく頼む」


「かしこまりました」


 私はそう返答し、もう一度短くカーテシーをする。

 横を見ると、侍医が衝立を少しずらして、私を招いていた。


 私は、衝立の中に入り、続けて王妃陛下、王女殿下の治療を行ってゆく。

 外が少し騒がしい気がしたが、治療に専念していたので、何が起きているのかはわからなかった。

 そのまま治療は問題なく終わり、王妃陛下、王女殿下から感謝の言葉を賜る。



 ――そして。

 私はひとり、治療を終えて衝立の外に出る。



 私が部屋の異様な気配に気づく前に、大きな声が聞こえてきた。


「――出てきたぞ! 捕らえよ!」


 先程の大臣が私を指差し、白い騎士服を着た騎士たちに命令を出す。


「なっ……何なのです!?」


 私は白い騎士たちの方を見ながら後ろに下がるが、ここは部屋の奥。すぐに追い詰められ、壁に背中がついてしまう。


 助けを求めるようにウィル様の方を見ると、彼は何故か王太子殿下と一緒に魔封じの縄をかけられ、捕らえられていた。

 黒い騎士服の魔法騎士たちは、どうすれば良いのかわからない様子で、ただオロオロしている。


 また、国王陛下は大臣の方を向いていて、こちらからは表情をうかがえなかった。


 そして――大臣の隣には、人の形をした黒い靄がわだかまっている。

 顔の判別もつかず、声も発しないが、あれほどまでに強い呪いを受けて動ける人……、おそらく、ガードナー侯爵だろう。


「――お前たちを、国家および教会への反逆を企てた容疑で、拘束する。手を出せ」


 目の前で冷たい声がして、私は思わずぎゅっと目をつぶった。

 白い騎士服――神殿騎士団の団員がひとり、すぐ近くまで迫っていたのだ。

 恐怖で固まっていた私は、すぐに神殿騎士の男に、手首を掴まれてしまった。


「……大丈夫。大人しくしていれば、奴らも君たちに危害は加えないよ――ステラ様とジュードの、大切なお嬢さん」


 思いがけず優しい囁き声がすぐ近くから聞こえ、私ははっと目を開けた。

 私に声をかけたのは、目の前の神殿騎士――縄をかけるのに紛れて、耳元で囁いたようだ。


 緑色の髪と、薄い褐色の瞳――歳の頃は、三十代後半だろうか。

 囁き声だけではなく、目の奥も優しく笑っている。その口元も、私を安心させるように、柔らかな弧を描いていた。


「まさか、あなたは」


「……しっ。後でまた、な」


 話している間に、神殿騎士の男性は私に魔封じの縄をかけ終えたようだ。痛くないように、緩めに縄を巻いてくれている。

 彼はすっと無表情に戻ると、縄を引き、ウィル様たちの後に続いて、私を部屋の外へと連行したのだった。


 階段をいくつか下り、向かう先は、王城の地下牢だ。


 コツコツと、冷たい石床を歩く複数の足音だけが響く。

 石壁に控えめな蝋燭が飾られている以外には、何も目を引くものがないためか、とても長い道のりに感じる。

 どこからか冷たい風が吹きつけてきて、私はぶるりと身震いをした。



 ようやく辿り着いたその場所は、一般の囚人用の牢ではなく、椅子やテーブルも用意されている貴族用の牢屋だった。

 私とウィル様、王太子殿下は、ひとまず同じ牢に入れられるらしい。


 神殿騎士が鉄の扉を開くと、そこには先客がいた。

 ウィル様にとっても予想外だったのだろう、彼は小さく声をあげる。


「シュウさん、アシュリー殿……!?」


「ああ、どうも」


「……ウィリアム殿とミア嬢はわかりますが、殿下もですか」


 投げやりな様子の魔法師団長シュウ様と、ため息をついて額に手を当てている宰相補佐官アシュリー様が、木の椅子に座っていたのだった。


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