9話
その日の昼休み、俺は購買部で購入した焼きそばパン×2を抱え、屋上の戸の前にいた。
今朝の俺と康太のやり取り、それは「話がある。昼休み屋上へ」というものだ。
そんな事しないで、口頭で約束しろ?
秘密の話をしたい時にバレないためだ。
特に幸とか幸とか幸に。
「すぅー、はぁー……」
深呼吸をしていざ扉の向こうへ!
ギィとサビついたドアが開く。
陽の光が、瞼をさす。
特に眩しくもなく、痛くもない。
だって、窓から光が入るんだもん。
暗闇にいたわけじゃない。
「よぉ」
外に出てすぐ、10m程の屋上の奥で俺を呼び出した相手は柵を背にしていた。
「よっ」
康太は、俺の挨拶に同じように返す。
「ほら、カフェオレで良かったよな?」
「ああ、ありがとう」
彼はそう言い、俺に自販機で売ってる缶コーヒーを手渡す。
俺はそれをありがたく貰う。
冷たい缶が、手のひらを冷やす。
俺たちの暗黙の了解だ。
呼び出した方が、飲み物を奢る。
どちらが先に決めたことじゃないが、自分の飲み物ついでに買っていたらそうなっていた。
「でさ、早速本題。あの子は何者だ?」
俺が隣に座ったことを確認するや、早速疑問を投げられた。
「うーん……」
俺は両目を細め、微かに疼くこめかみを抑えた。
異世界から来た、もう1人のカトリーヌ。
そう答えるのは簡単だ。
けど、そう簡単に信じてもらえる話では無い。
特にこいつはカトリーヌに……。
「答えてくれないのか?」
俺の態度に親友は眉を寄せる。
「いや、答えてもいいけど……」
「はっきり言ってやれ、彼女は平行世界の同一人物だ」
!?
いつの間にか幸がいた。
いや、いやいや、え!?
「お前いつから!?」
「ずっとお前の背後にいたぞ」
当然というように答える彼女。
「うん、ずっといた。てっきり鈴太郎が連れてきたかと思ってた」
「へやっ!?」
気づいてなかった。
いや、気づく気づかないの問題じゃなく、対象者に気づかれないようにあとをつけるってもう忍者……。
ああ、もうこの手は使えない……。
頭を抱える俺をよそに康太は問う。
「平行世界ってことはパラレルワールドってことだよね?」
「そうだ」
「その話、詳しく」
「いやいや待て!」
勝手に話を進めていく2人を俺は慌てて制止する。
「何だ?」
「これはあんまり話していいことじゃないだろ!?」
「いや、話すべきだ。特に亀野君には」
「オレは知りたい」
康太の真っ直ぐな眼差し。
まぁ、確かに、こいつはこの世界のカトリーヌに好意を抱いていた。
そんなやつは知る権利あるか……。
「わかったよ」
俺は右手を天に伸ばしヒラヒラと揺らす。
「実はな」
それを確認した幸が康太に話した。