8話
どうも皆さん、おはようございます。
吉野鈴太郎です。
え?語り部が違う。
今回は勘弁してください。
現在俺がいる場所は、俺自身が通ってる高校の教室の中。
思わず出るあくびを隠さず、大きな口をあけて「ふぁあ〜」と情けない声を出しても誰も気にもとめない。
いや、ボッチってわけじゃないですよ。
教室のガヤガヤした雰囲気が、目立たせなくしてるのだ。
え?それをボッチって言うんじゃないかって?
それよりも俺としては今のこの状況を知ってもらいたい。
朝礼のチャイムがなり、クラスメイト全員が、席に付き担任の教師が来るのを待っている。
随分優等生な奴らが集まったなって?違う。今日だけだ。
「なぁ、今日来る転校生ってどんな子なんだ?」
「なんでも金髪ですっごい美人らしいぞ」
どこからかそんなヒソヒソ声が聞こえる。
そう、転校生だ。
今朝、幸が「諸君、このクラスに転校生が来るぞ」と宣言したのだ。
それから幸本人にどんな奴か聞く者。職員室に行き、情報収集する者。
完全にみんな浮かれている。
俺?俺はどうしてそんなに冷静だって?
幸が発信源だぞ、だいたい想像つくだろ。
そもそも、俺はそいつを案内がてら一緒に登校してきたんだ。
ガラッ。
扉が開き、担任のビール腹が教壇に着く。
ヒソヒソとした会話は途切れ、クラスがシーンとなる。
「知ってると思うが、このクラスに転校生がやってきた」
コホンと咳払いをしてから、放たれた言葉に生徒たちからワっと歓声が上がった。
「入ってきてください」
担任の声のあと、1拍置いてから再び扉が開いた。
入ってきたのは、先程耳に入った、金髪長髪の美女。
「み、皆様、は、初めまして!吉野カ、カト、カトリーヌです!」
緊張からか、顔は耳まで真っ赤。何度も噛んでいる。
吉野カトリーヌ。
そう、あの異世界からやって来たというカトリーヌだ。
なぜ、吉野という姓を使っているかと言うと彼女が俺の従妹(設定)だからだ。
なぜ、こんなことになったかと言うと、あの後、俺の愛犬バニラの足を治してくれた時まで遡る。
『カトリーヌさん。この世界で生きていくあてはあるのか?』
『いいえ……』
現実に戻されたかのように暗い表情で、うなだれるカトリーヌ。
『なら、この家に住ませてもらえ』
『えっ!?』
『はぁ!?』
急な提案で、俺たちは驚きの声を同時にあげた。
『安心しろ。元々この世界のカトリーヌはこいつの従妹だ』
『いやいや、どこに安心しろと!?それにこの世界のカトリーヌは……!』
『生きてる』
『はぁ!?』
『ということにしてくれ。安心しろ。根回しはしておいてやる』
『どうやって?』
一応わかっていた。わかっていたが俺は問うた。
『父さんにお願いする』
『信じると思うか?』
『僕の父さんだぞ?異世界から、死んだはずの同姓同名の女が来たって言えば、世間に上手くいってくれるし』
チラッとカトリーヌを見やる幸。
『異世界についても調べてくれるはずだ。ということでカトリーヌさん。しばらくこの家で好きに過ごしてくれ。元の世界への帰り方は僕が、僕たちが探る』
『どうして私にそこまで良くしてくれるの……?』
ふっと笑う。
『ただの気まぐれだよ』
と、照れ隠しで誤魔化したのであった。
以上回想終わり。
ほぼ押し付けられる形で、異世界から来た女の子は俺の家で暮らしている。
犬たちは、どうやったか知らないけど、歩けない程の怪我を治してくれた恩人と認識しているのか、一瞬で懐いた。
「ということでカトリーヌさんは故郷のフランスを離れ、遠縁ではあるが吉野の家でお世話になっている」
ちょうど担任があいつに関しての事情を話し終えたようだ。
吉野という姓はこのクラスでは、彼女を除くと俺一人だ。
なので、クラスメイト中の視線が俺に集中する。
ほえーと関心する生徒。羨ましいぞ、と嫉妬の視線を向ける生徒。
あー、やだぁ。絶対後で言い寄られる。
その中で一つだけ異質な視線を感じた。
どういうことだ!?
困惑した視線を向ける奴。
亀野康太。俺の親友で、このクラス1の常識人。
オマケに顔は目元、鼻元が整っていてシュッとしたイケメンだ。
あいつはこの世界のカトリーヌのことを知っている。
あいつがどんな結末を辿ったのかも。
彼は困惑した表情のまま顎をあげ、視線を天井に向けた。
コクっと俺はそれに頷いた。