7話
外は夕暮れが空をオレンジ色に染め上げていた。
カァカァとカラスが鳴きながら飛んでいる。
私たち3人はユキの住む家屋を出て数分、歩いていた。
「着いたぞ」
リンタロウの言葉で私たちは足を止めた。
先程のユキが住んでいた家とは違う、白い壁に黒い屋根。
扉はひとつしか見当たらない。
先程と違って住んでる人はリンタロウの家族だけだろうか?
私の疑問をよそに2人は、柵を開き玄関の前まで進んでいく。私もそれについて行く。
「開けるぞ」
リンタロウはそう言い、家の鍵を開けた。
「おーい、帰ったぞー!」
誰に声をかけたかは、すぐにわかった。
ドタドタと足音が響くと共に2匹の犬が駆け寄ってきた。
「かわいい……!」
つい、そう発していた。
「だろ?」
リンタロウはニカッと笑った。
1匹は茶色の大型犬、もう1匹は黒い小型犬だった。
「よーしよしよし。ムギ、チョコいい子にしてたか?」
リンタロウは2匹の犬を撫でると彼らは嬉しそうにしっぽを揺らし「ワン!」と泣いていた。
「さて、問題はもう1匹だ」
ユキがメガネをクイッとあげる。
「もう1匹!?まだいるの!?」
嬉しさで思わず声を上げた。
犬たちは、そんな私を歓迎するかのように前足で私に擦り寄る。
「とりあえず入ろう」
リンタロウが促す。私たちはそれに習う。
廊下を進むと、部屋へのドアがありそれを開ける。
「バニラいるか?」
広い部屋だった。
数人座れそうなふかふかした椅子があり、その前には机が置かれており、黒い鏡のような画面のようなものがあった。
その部屋の隅にその子はいた。
真っ白い毛はぬいぐるみのようにふわふわしていた。
ほかの2匹と比べて、元気よく歩き回らない。
ただ後ろ足がだらんと伸びていた。
「その子、足怪我してるの?」
「ああ」
そっと近づく。バニラと呼ばれたその子は、私が近寄っても怯える様子は無い。
「いま治してあげる」
私はその子に優しく笑みを浮かべ、手を後ろ足へ伸ばす。
白い光がその子の足を包む。
バキ!ボキ!骨が修復される音が聞こえる。
「終わったわ」
治療は終わり。
バニラは足が動くのを察し、恐る恐る立ち上がった。
「やったあああああああ!」
その瞬間リンタロウが叫ぶ。
嬉しさのあまり白い犬に抱きついていた。
抱かれた本人は、いや本犬?は嫌がる様子は見せずに、主人の頬をぺろぺろと舐めていた。
「ありがとう、そこではしゃいでいるやつに変わって礼を言わせてくれ」
ユキがお礼を言う。
「いえ、どういたしまして」
私はその感謝の言葉を素直に受け取る。
「あの子な、散歩中に事故にあったんだ。後ろ足が動かなくなった。車椅子をあの子のために用意したが、バニラはそれを拒んでいた。まるで歩くのに恐れを感じるように」
窓際で話していた私たちにリンタロウが近づいてきた。
しかし、あの子は歩いてこない。
「カトリーヌさん、本当にありがとう!」
リンタロウが感謝を込めた言葉を発する。
「待て、鈴」
「なんだよ?」
すっとユキは先程怪我を治した子を指さした。
しかし、その子はその場に座ったまま歩いてこようとしない。
「カトリーヌさん、先程心の傷は治せないと言ったな?」
「ええ」
「あの子は精神的に歩くことを恐れているんじゃないか?」
「そんな……!」
リンタロウは信じられないと、犬に声をかけるが寄ってくる気配がない。
「どうすればいい?」
「原因を探るしかないだろう」
「私も同意見」
「そっか……」
しゅんと項垂れる彼を助けてやりたい。
でも私は一刻も早く元の世界に帰らないと……!
「なぁ、こういうのはどうだ?」
ユキがひとつの提案をした。