6話
「ところで、さ」
お茶を喉に通したリンタロウが、切り出した。
私とユキは、その声の主を見やる。
「カトリーヌ、さんは魔法が使えるんだよな?」
「ええ」
「どんな魔法?」
「私の魔法は傷を癒す程度です」
「ふん、にわかに信じられんな」
ユキがふんと鼻で笑ってみせた。
「私は嘘ついてないわよ?」
この子ちょっとムカつく。
そんな印象を受けた。
いや、私の態度が悪かったって言われたら何も言い返せないけど……。
「じゃあ、今ここで証明して見せろ」
彼女はそう言い、机の上にペンらしきものが立てて入れられているケースから何かを取り出した。
チキチキ。
そう音を立てて刃が顔を出した。
「おい、待て!」
リンタロウの静止を無視し、ユキは右手でそれを持ち、左手の薬指をそれで切りつけた。
ダラぁと切り口から血が流れ出てきた。
ポタ……ポタ……と指を伝いそれは、床を紅く染めていた。
「さぁ、治してみせろ」
ユキは痛みに耐えている表情で、傷口を私に差し出した。
私は無言でそこに右手を添えて力を入れた。
白い光がユキの指に灯る。
直後、じゅくじゅくと音がして、みるみるうちに傷口が塞がった。
「すげー!思ってたのと違うけど、すげー!」
リンタロウが叫ぶ。
「どんなものを想像していたの?」
「いや、普通に傷が消えるかと」
「何よ、それ」
「いや、だってゲームだと回復魔法使うと光がピカーってなって回復するだろ?」
げーむ?
私が小首を傾げる。
「ゲーム脳は放っておいて、どういう原理なんだ?」
ユキのびっくりしたような感心したような声で彼女に向き直る。
「私の魔法は、生き物の細胞を活性化させて傷を治すよう促すの」
「ほう、それはどんなものでも治せるのか?」
「まず、生き物というのが絶対条件。例えば、刃で切られてしまったぬいぐるみなどは治せないわ。生き物の怪我だと骨折ぐらいまでかしら」
そこでユキがニヤッと笑いリンタロウに言った。
「よし、鈴。今すぐ『あっぴろぴー!』と叫んで車に轢かれてこい」
「嫌だよ!?」
「なんだと?こんな素晴らしいことの実験台になりたくないのか!?」
「いくら治せるからと言って、自分から進んで怪我をしに行くやつなんているのか?」
「それは僕が馬鹿だと言いたいのか?」
「あー、居たわー。馬鹿いたわー」
彼は呆れたように口を開いた。
ユキはと言うと満足したのか、もう一度私の方を向いた。
「他には……そうだな。認知症とかはどうだ?」
「にんちしょう……?」
「簡単に言えば、老人がかかる記憶障害だ」
「そこまでは治せないわ。あと精神の方の傷を癒すこともできないわね」
「そうか」
くいっとメガネをあげるユキ。
1泊置いて再び質問が飛んでくる。
「あなたは先程、生き物と言ったな?それは人間以外にも効果はあるのか?」
「犬や猫、魚だって治せるわ」
私は自分の力に誇りを持っている。だから、自信たっぷりに答えた。
「だ、そうだ。鈴、ここはひとつ頼んでみないか?」
その声音は先程同じ相手をいじった時とは打って変わって優しいものだった。