19話
「こちらは配置につきました。オーバー」
「了解です。なんですか?それ……」
「ゼンチャンさんが、この世界でこれ(スマホ)で通話する時はそう掛け合うと教わりました」
「はぁ……。普通の通話でそれは使いません」
「ええっ!?」
日が沈み初めて夜という闇が支配し始める時間。私はツルギさんと合流して、鈴太郎宅の玄関から少し遠い、歩道の反対側で光の弓を構えていた。
ちなみに件のスマホは、私の耳元でぷかぷか浮いている。
ツルギさんはと言うと、鈴太郎の家の前にいる。
作戦はこうだ。
1.ツルギさんが鈴太郎をおびき出す
2.姿を現した鈴太郎を私が弓で撃ち抜く
ベルの言う通りならこれで彼は元に戻るはず。
ちなみにベルは家の屋根の上で待機している。
3びきの犬たちはゼンチャンさんが見ていてくれている。
「では、行きますよ」
ツルギさんが合図する。
ゴクリ。自然と唾が喉を通る。
「吉野鈴太郎!カトリーヌ様を連行してきた!焼くなり煮るなり好きにしろ!」
え?何それ?私どうなるの?
ガチャ。玄関の戸が開いた。
「カトリーヌぅ……!お前さえいなければ……!」
「今です!」
シュン!
矢が目標に向かって一直線に風を切り突撃する。
射抜いた……!
はずだが、矢が鈴太郎に届く直前で闇色の渦のようなものが現れて、そこから黒い手袋のようなものに包まれた腕によって阻止された。
光の矢はボロボロと崩れ落ちて行った。
「あれは……!?」
ツルギさんも驚きを隠せずにいた。
「ふぃー、危ない危ない」
渦が大きくなり、そこから1人の男が現れた。
「カメノコウタ……!?」
「平行世界の同一人物か……!」
「皆さん初めまして。悪魔王の息子のトータス・スプリングです」
丁寧にお辞儀をする。
「お前の目的は?」
「鈴太郎の連行。そしてこちらの世界のボクへ協力要請」
「なんのために?」
「まず、鈴太郎とベル殿のソウルフュージョンの阻止。そしてボクとこちらの世界でのボク、亀野康太とのソウルフュージョンをするため」
ソウル……フュージョン……?
「ひとつ繋がった。こちらの世界のカトリーヌ様を殺したのはお前だな?」
「クククッ、そうだよ」
「あの、話が見えないのですが……」
ふわっと風が吹く。
ベルが私の元へと来てくれた。
「姫様、ソウルフュージョンのことは初耳ですね?」
「はい……」
「ソウルフュージョンとは平行世界の同一人物達の利害が一致した時に起こる現象で、互いの力の増幅させるものです」
「ということは……」
「こちらの世界の姫様を殺してそれを防ぐ。そして、鈴太郎殿と私の目標を共にしないつもりでしょう」
ということはあいつが私達の国を……!?
「許さない……!」
ギリっと歯ぎしりが鳴る。
自然と次の矢を構えていた。
「姫様!早まらないでください!」
「どいてください、ベル!私はあいつを許さない……!」
「先程のことを体験されたでしょう!?やつにそれは効きません!」
「ではどうするのです!?」
「今日は挨拶がてら、鈴太郎くんを迎えに来ただけだよ」
トータスが答える。
「では行こうか」
「カトリーヌ、お前は俺が……」
それだけ言い残し、渦へと消えていった。
「そんな……」
ヘタっとその場で倒れ込む。
何もかもが上手くいかなかった。
これからどうすれば……?
「落ち込んでる場合ではありませんよ」
「ゼンチャンさんと……」
顔を上げると見慣れた人物たちが立っていた。
ゼンチャンさんとユキ、そして……。
「あんたが……!」
「姫様!彼は無関係です!」
カメノコウタがいた。
こいつが、こいつがいたから……!
ベルに止められてもこいつだけは……!
コウタが混乱した眼差しを向ける。
「あの、カトリーヌさん……」
「何?」
「ごめんなさい!」
コウタが頭を下げる。
「オレ、全て知ってました!こちらの世界のカトリーヌのこと、そしてあなたの世界のことも!」
「全て知ってたってことは全て仕組んでたということでしょ!?」
「やめろ!そんな暴論でこいつを責めるな!今は仲間割れしてる場合じゃない!」
ユキの制止でハッとなる。
「ごめんなさい……」
「分かればいい。状況が完全に理解してないのは、この場の全員がそうだ」
周囲を見渡す。
みんな、今のことへの理解が追いついていないのは事実だ。
私たちが言い争っている間に、ツルギさんが駆け寄っていた。
「まずは情報収集が必要です。そのために、向こうの世界へ行きます」
「はい!私が行きます!」
シュタッと挙手する私。
「カトリーヌ様はダメです」
「なんで!?」
「あなたは命が狙われているのですよ?向こうの世界が今どういう状況であるか分からない以上、カトリーヌ様が帰還するのは危険です」
シュン( ´・ω・`)
「アテはあるのか?」
「ああ、大河へ行く」
タイガー?虎?
「今変なこと考えてますね?」
いやいや、そんなぁ。
苦笑することしかできない。
「大河ということは日本と酷似した国ということか?」
「ああ、と言っても、向こうの時代背景は明治時代に近いが」
「1人で大丈夫か?」
「いや、正直不安だ。彼を貸してくれないか?」
「はぁ……。おい!猿!」
ユキが叫ぶと近くの木がガサガサと揺れた。
「ウキ!」
なんというか、このまんま表現していいですか?
本当に猿が出ました。
「ウキキー!」
「はぁ!?お前なんて猿で十分だ!」
「キキキ!」
怒ってる?
「篠崎幸はこの猿の言葉がわかるのです」
「ウキキー!」
猿といった途端、今度はツルギさんに噛み付いた。
「なんて?」
「名前で呼べだと」
「すまない、コタロウ殿」
「ウキキー♪」
満足したようにツルギさんに腕を差し出す。
彼女は屈んで彼の腕を握り1人と1匹は握手を交わす。
「では、向こうの世界へ行くのは私とコタロウ殿でよろしいか?」
「はい、私は姫様の護衛に当たります」
「さて、行く前に」
ツルギさんはメモ用紙とペンをどこからか取り出し、紙にペンを走らせる。
「カトリーヌ様はこちらへ向かってください」
メモを渡される。
見ると、どこかの地名が記されていた。
???
頭に「?」マークが浮かぶ。
「貸してみろ」
ユキに渡す。
「???」
同じ反応だ。
「貸してください」
今度はゼンチャンさんの手に渡る。
「あら、せっかくならこの場所に詳しい助っ人を呼びましょうか」
「助っ人?」
「はい」
笑顔で受け答えてこの人もどこからか、すまほを取り出す。
プルルプルルプルルプルル。
誰かにコールするが相手は出ない。
「せっかくなので、スピーカーonにしましょうか」
プルルプルルプルルプルル。
呼出音が鳴り響くが、相手が出る様子がない。
ゼンチャンさんは笑顔だけど、どこか怒りを感じて怖い。
「でないとあなたの力また没収しますよ」
ボソッと相手が応答していないのに、つぶやく。
ガチャ。
「何よ!?こっちは今忙しいの!」
「こっちも今、大変なのです」
「知らないわよ!」
「まぁまぁ一架、話ぐらい聞こうよ」
「はぁ、何?」
「道案内をして欲しいのです」
「嫌よ」
「来なさい」
「はぁ……。ごめん明、私と落葉ちょっとお花摘んでくるわ」
「よくわかんないけど、行ってらっしゃい」
ツーツーツー。
通話が切れたと同時に私がこの世界に来た時の白い扉が現れた。
ガチャ。
「はぁ、来てやったわ」
「わあ、思ったほど人が沢山いる。初めまして、橘落葉です」
「井上一架よ。んで、どこに案内すればいいの?」
「ここです」
ゼンチャンさんがメモを寄越す。
「ここって……!」
「うわぁ、あそこかぁ……」
オチバとイチカはこめかみを抑えた。
「この時間軸は今何年?」
「2025年です」
「20年前……。あんた、狙ってない?」
「それは私たちの作者(上司)に言ってください」
「はぁ……。案内だけでいいわよね?」
「とりあえずは」
「はぁ……」
再びこめかみを抑える。
「行くしかないわね……」
「あの子たちに会えるかな?」
「私は会いたくない」
「話はまとまったな?私は行くぞ」
ツルギさんは手を眼前にかざす。
再びまたあの白い扉が現れた。
「待ってください」
ゼンチャンさんの制止。
「剣姫さん、幸さん、スマホを貸してください」
「はい」
「いいけど」
2人のすまほを受け取る神様。
ほうっと白い光に包まれた。
「ありがとうございます」
「何したんだ?」
「次元を超えても通話できるようにしました。剣姫さん、頭失礼します」
ゼンちゃんさんが剣姫さんの頭に自身の手のひらを乗せる。
ほうっと再び白い光が剣姫さんを包む。
「コタロウ君の言葉がわかるようにしました」
「助かります」
ニコニコ。
「では私は行きます」
ガチャ。
戸を開けて、光に包まれた先へとコタロウと共に向かっていった。




