18話
どれくらい走っただろう?
疲れ果てた私は鉄の塔の間の狭い路地でうずくまっていた。
抱いてきたバニラは私を慰めるかのように、ぺろぺろと頬を舐める。
ムギとチョコは置いてきてしまった。
今はあの2人が保護してるといいけど……。
ワンワン!
ガッチャガッチャ。
やがて犬の鳴き声と鎧が噛み合う音が聞こえた。
「ベルですか?」
「はい」
うずくまったまま相手を確認する。
答えは肯定。
嬉しさと頼もしさで少し心が和らぐ。
犬の鳴き声がするということは2匹を連れてきたのだろう。
「姫様、そのままでいいのでお聞きください」
「…………」
「私は、姫様を犠牲にして天魔王の復活は望んでいません」
「でもあの2人はそれを望んでいる。そうでしょう?」
「いいえ、あくまで剣姫殿は私と同じ気持ちです」
え?
「天魔王を生き返らせるのはあくまで最終手段です。それをしなくていいように姫様自身が力をつける必要があります」
「それはどうやって?」
頭をあげる。視界にはベルが微笑んで雪の結晶のようなイヤリングを差し出す。
「これは?」
「これは想いの力を具現化するものです。姫様の気持ちが高揚する言葉を発すると、それは応えてくれます」
「剣姫さんが唱えていた『我覇道を進むものなり』と唱えていたのと同じですか?」
「はい」
「例えば『あたしの伝説はこれから始まる!』でも?」
「姫様が伝説を残したいのであれば」
「例えば『あたしは戦う!あんな人生受け入れられないから!』でも?」
「姫様ご自身の人生に不満があるのであれば」
「例えば『自惚れ、おおいに結構!』でも?」
「姫様自惚れてる自覚あるのですか?」
「え?私自惚れてます?」
「いいえ、私はそうは感じません」
「そうですか」
想いを言葉に……。うーん……。
「私は、私自身の力で祖国を救う!」
手のひらに置いていた雪の結晶がほうっと輝く。
そしてそれは半円状のものに姿を変えた。
「これは弓?」
弓ではあると思うけど、弦と矢がない。
どうやって引けと?
「これどう使うんですか?」
「フリだけでいいので構えてください」
言われた通り、左手で弓を持ち背筋を伸ばす。そして矢があるかのように、弓弦を引くように右手を構える。
すると弓弦、そして矢が白い光を帯びてその姿を現した。
「これ射っていいのですか?」
「少しお待ちを」
ベルはそう言い、10mほど距離をとる。
「どうぞ」
「え?でも……」
「私は平気ですので」
まぁ、ベルがそういうのであれば遠慮しなくていいだろうという信頼がある。
右手を離す。
矢がベル目掛けて飛んでいく。
ベルはそれを剣で弾くことも避けることもしなかった。
矢がベルに命中する。
「ベル!?どうして!?」
「心配ご無用です」
刺さったそれはキラキラと粒子になって消えていく。
ベルの鎧に傷1つ付いていない。
それどころか、ベル自体を今度は光が包む。
「どういうことですか?」
「この世界で言うのであればバフです」
「バブゥ?」
「赤子のことではありません。強化されるという意味です」
「はぁ」
「姫様のちからは敵を屠るものではありません。癒したり、味方を強くするのです」
「私の力……」
右手のひらを開く。
これが私の力……。
「さて行きましょう」
「どこへ?」
「無論鈴太郎殿を助けに」




