12話
「ベル……!ああ……!ベル……!」
私は彼に再会出来た喜びで、窓から身を乗り出し臣下の名を呼ぶ。
ベルはそれに対し、私ではなく横の女の子に答える。
「ツルギ殿!姫様を頼みます!私は目の前の敵を退けますので!」
「了解した」
右手を上げ答える彼女。
「カトリーヌ様、まずは廊下へ」
「いえ、ここから飛び降ります」
「痛いでは済みませんよ?ベル殿に会えた喜びは分かりますが……」
「骨折くらい自分で治せます!」
私は自分の意思を強く主張した。
ツルギさんはこれに冷たく答える。
「飛び降りたら、殺られますよ?」
「誰にですかっ!?」
「俺にだよ」
不意に背後から、男の低い声が鼓膜を叩いた。
振り返ると開かれた左側の扉の前に見知らぬ人物が立っていた。
頭以外、銀の鎧で身を覆い、漆黒色の髪はオールバックにした男だ。
右手にした槍で肩をカツカツと叩いていた。
「よぉ、姫様」
「あなたは……!?」
「俺は、お前を攫いに来た。外であの強そうな男が戦ってるのは、まぁ、俺の部下と言ったところだ」
敵……?私を攫いに……?
何がどうなってるか分からない。
頭がぐるぐると絡まった紐を必死に解こうとしていると。
「カトリーヌ様、私の肩に掴まって下さい」
この人を信じていいの……?
でも、ベルと知り合いのようだし……。
「迷ってないで早く!」
ぐるぐると渦巻く思考を中断させたのは、彼女の叱責だった。
今はこの人を信じよう。
ベルが信じたこの人なら、私を守ってくれる。根拠は無いけど、なんとなく直感がそう告げた。
意を決し、私はツルギさんの右肩に右手を添える。
「我、覇道を進むものなり」
そうポニーテールの少女が合言葉のようなことを口にした。
瞬間、彼女の左腰に光の粒子が集まる。
ピカっと軽く光を発すると、鞘に収められた剣が顕現した。
チャキ。
鞘から剣を抜く。
次の瞬間、本当に一瞬だった。私たちは右側の扉の外、つまり廊下へ出ていた。
カツン。
「戦う準備は出来たか?」
男と対峙する。
「その前に名乗れ。礼儀だろう」
「個人の礼儀を人に押し付けるのはどうかと思うが、いいだろう。俺はロイ・ストロングス」
「夜刀神剣姫だ」
チャキ
ツルギさんは再び剣を鞘に収めた。
「いざ尋常に……」
武器を再び抜く。
「勝負!」
一瞬ふっと彼女の姿が消えた。
と思ったら敵の背後に背を向ける形で姿を現した。
右回りで振り向き、右手にした剣で切りかかる。
相手は瞬時に槍を縦にしてその一撃を防いだ。
「尋常にと言っておきながら不意打ちとは卑怯だな!」
右斜め上から斜め下、左横、右斜め下から斜め上と無言で斬り掛かる。
相手はそれに合わせ槍を動かし、器用に捌いている。
キンッ!キンッ!刃と鉄がぶつかる音が響く。
槍と剣の相性は紙一重と聞いたことがある。
槍はリーチが長い分、剣士に突き刺すことが出来る。
その一方で剣士が槍兵に詰め寄ると、槍の使い手はこのように防戦を強いられる。
あとは技量の戦いだ。槍が剣を突き放し、間合いを確保できるか、剣がそのまま押し切るか。
でも私の見立てではツルギさんは勝てる。
なぜなら、ロイと名乗った男の表情にそれをするだけの余裕が無いことが伺えた。
ツルギさんは縦から刀を一閃する。ロイは槍を横にし、防ぐ。
「あんた、強いな」
ニヤッ。
彼が不敵な笑みを浮かべる。
その刹那、ゾワッと背中に悪寒が走った。
どす黒い殺意を感じた。
もしかして、今まで本気を出していなかった……?
相対した彼女もそれを感じたのか、ばっと彼から距離をとる。
「今日はこのくらいにするかぁ」
ツルギさんが離れた瞬間、はぁとため息をついて私たちに背を向ける。
「お前の目的はカトリーヌ様を攫うことでは無いのか?」
冷や汗を拭うように、額を手でさする彼女。
「その通りだが、あんたじゃあ、物足りねぇ」
「物足りない?」
「ああ、強奪ってのは強いもんを倒して奪うから楽しいんだよ。俺が本気を出す前に身を引いたあんたじゃあ、倒しても意味が無い。退く俺が言うのもなんだが、出直してきな」
肩に槍を預け、左手をヒラヒラさせて数歩歩く。
黒い渦のようなものが彼を覆い、消えていった。
「ツルギさ……」
「ああ!カトちゃん居た!」
私は彼女に近づこうとした。
同じタイミングで声が響いた。廊下と教室を隔てた扉からカオリとサオリが姿を現した。
ということは異次層はとかれたことになる。
「お前、どこいってたんだ!?」
続いてリンタロウとユキと、ええっとまだ名前と顔が一致していない男子生徒が、近づいてきた。
「カトリーヌ様、吉野鈴太郎、放課後生徒会室へ」
それだけ告げ、ツルギさんはカツカツと去っていった。
「お前、生徒会長と何してたんだ?」
怪訝そうな顔をする鈴太郎。
「言われた通りにすれば話してくれると思う。多分」
そう私が喋るとキーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った。
「まぁ、いいや」
何事も無かったかのような反応が逆に助かった。




