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村人たち

「おーサンドラ、帰ってきたのか!」

「昨日が帰ってこなかったから心配してたのよ!」

「コイツはいいクマだな。熊胆も膨らんでそうだ」

「ああ、確かにいいクマだ。まだ子を産んでないメスだな」

「へへへ、美味そうだなぁ。まだ肉も柔らかいぜきっと」


私が村に一歩入るなり、顔見知りの村人たちがワッと殺到してきた。

そしてアイナルが引きずっているクマの周りに集まり、撃ち取られたクマをアレコレと品評し始めた。

葉物野菜は果実が不足するこの村の冬にとって、山の獣たちの肉は貴重な食料源であり、収入源なのだ。


「それでサンドラちゃん、この人は……?」


やっとそこで、豪傑おばさんとして有名なヘザーおばさんがアイナルを見た。

太り肉のおばさんはジロジロとアイナルの顔を見つめる。

う、とアイナルが顔をひきつらせて一歩退がると、ヘザーおばさんが、ほう、とため息をついた。


「あらやだ、やたらめったらにいい男じゃないの! サンドラちゃん、この人はアンタの許嫁かなんかかい?」


おばさんがよく通る声で言うと、何ィ!? と村人たちが色めき立った。


「なんだなんだ! 聞いてねぇぞサンドラ! お前、許嫁なんかいたのか!?」

「どうみてもこの辺の村のもんじゃないねぇ。もしかして王都の貴族とかか?」

「貴族だァ!? テメェこの優男、誰の許可もらってサンドラに手を出しやがった!」

「アンタの許可なんかいらないだろ。サンドラだって年頃じゃないか」

「うるせー! 俺ァ貴族が嫌いなんだよ! 都会でぬくぬく暮らしやがって! 羨ましいじゃねぇか!」

「まだ貴族って決まったわけじゃないよ! 相変わらず騒々しいね全く!」

「あー、みんな落ち着いて」


私が言うと、村人のざわめきが止まった。

私は右手の親指を立てて、所在なさげに立っているアイナルを示した。


「この人は確かに王都の人間だけど、貴族でもなんでもないわ。昨日山の中で拾ったの。名前は――そう、アダム。アダム・ヘッポコマンっていうの」

「へっ、ヘッポコ――!? アレクサンドラ、一体何を……!?」


瞬間、私は靴の踵で思いっきりアイナルの足を踏み潰した。

ギャア! と悲鳴を上げたアイナルの裾をグッと握り、私はつらつらと並べた。


「とにかく、この人は顔はこの通りだけど、ちょっと頭の中が可哀想な人なのよ。そのせいで町娘どころか貴族令嬢にまで手を出しちゃったんだって。だから王都にはしばらく戻れないらしいの。みんな、なんとか面倒見てやって」


私が言うと、そういうことかい、とヘザーおばさんが胸より遥かに出っ張った腹を揺すって笑った。


「こんな若くていい男、頭の中に多少花が咲いてても歓迎さね! ウチには男手がないからねぇ! ねぇアンタ、ウチの薪割ってくれるかい!?」

「えっ、えぇ……!?」

「あ、そういうことならわしんとこも助かるのぉ。おい若いの、雪かき手伝ってくれんかえ?」

「なかなか活きがいいらしいな。おいアンタ、炭焼きに使ってやるぞ。後でウチ来い、な?」

「ちょ、ちょ……!」

「ねぇアンタ、ウチのハンナの婿に来ないかい? 気立てのいい子だよ! それに五~六人産んだってビクともしないぐらい健康さ。後で会ってみてくれないかい?」

「む、婿ってそんな……!」


アイナルはあっという間にワイワイと盛り上がる村人たちに囲まれ、私に助けを求めるような視線をよこしてくる。

よかった。アイナルはしばらく都会くささが抜けないだろうし、山村というのはどこでも閉鎖的なものである。

爪弾きにされる可能性もあったのだけれど、その顔のよさと、この村に貴重な若い男手ということで、流れ者でしかないアイナルは意外なぐらいに歓迎されたらしい。


「とりあえず、みんな。私はこのアイナ――じゃなかった。アダムと一緒におやっさんのところに挨拶しに行ってくるから。このクマの解体をお願いしていい?」


私が言うと、うーい、と村の男たちが応じ、三々五々と自分の家に散っていった。

アイナルは、というと、皺くちゃの婆ちゃんやおばさま方に黄色い声で歓待され、手の甲を擦られて鳥肌を立てたりしている。


「さーさ、おばちゃんたちもそのへんにしといて。それにその男は骨の髄まで種馬よ? 安易に手なんか握って恥かきっ子作ってもしらないからね」


私の下品な一言に、やぁだ! とおばさま方は顔を赤くしてゲラゲラと笑った。

その隙を見計らい、私はアイナルの手首を掴み、スタスタと村の奥へと歩き出した。




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