ファインダー越しに見る貴女
少しだけ切ない、その思いをカメラに。
「どうだい?なかなか似合うだろう?」
本来厳かな雰囲気であろうこの場所で、場違いなまでのオレを気にすることなく貴女は言った。
「ええ、似合ってますよ」
僕はカメラのファインダー越しにその姿を見ていった。純白の白無垢の花嫁衣装を纏った貴女のその姿は、神々しさすら感じる出で立ちだ。忘れもしない、あの時の約束を果たすために僕はカメラを片手にこの場所にやってきたのだ。
「先輩、あの約束をこんな風に使われるとは思いもしませんでしたよ」
「なぁに、私は決めていたんだよ。君はカメラの腕は素晴らしいからね」
もう7年も前だった。元々写真家を志していた僕は大学一年生の春、写真サークルに入り先輩に出会った。「一生のお願い」を賭け、先輩とフォトコンテストで競い僕はただ負けただけだったのだ。あの時の先輩の写真は、素晴らしい出来映えで僕はそこで負けた悔しさと、もう一度同じ賭をして勝つため、大学生活すべてをカメラに注いだ。
「あ、紹介しておくよ。こっちが私を未来永劫養ってくれるという割に合わない契約を提示してくれた男性だ」
背の高い、いかにも人が良さそうな男性が控え室の奥から出てくる。一目見た瞬間、僕はああ…と納得した。貴女が選び、選ばれるのが納得できるものがそこには漂っていた。
「それじゃ、行きましょうか」
僕は先を急いだ。式までは約一時間、限られた時間で最高の写真を撮るのが今日のぼくの使命だった。今の僕は、この首から下げたカメラで生計を立てる所謂プロ写真家だ。だが、結婚式や子供の入学式など人生の節目と言われるイベントの撮影は、例え仕事でも基本的には受け付けていない。その人の人生にとって、間違いなく一生の思い出となる出来事を記録するのは、僕には荷が重すぎる。
「このあたりでどうですか?」
神社の鳥居の前で僕はファインダーを覗き、2人に言った。
「そうだね…光もちょうど良い順光だ」
貴女はそういって、手を顔の前に掲げ太陽を見る。
「僕はカメラの事はわからないから、お二人に任せるよ」
旦那さん(仮)は優しげに言った。
「じゃあ、とりあえずそこに並んでください」
僕はそう言って撮影を始めた。貴女のそのまぶしい笑顔が、僕のカメラに焼き付く。きっと僕も、この気持ちは一生忘れないだろう。