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「ざまぁ小説」に関する考察

作者: よむよむ

「ざまぁ小説」に関する考察


小説家になろうでは、「ざまぁ小説」が人気を集めています。

なぜ、我々は「ざまぁ小説」を楽しいと感じるのでしょうか?

このメカニズムについて考察をおこないました。

本稿が、あなたの知的好奇心をわずかでも満たせたなら幸いです。


まず、「ざまぁ小説」の構成要素を時系列順にならべると下記のとおりです。


1、主人公は高い能力でグループに貢献しているが、グループ内での評価は低い。

2、グループリーダーが、主人公の貢献を不当に低く評価し、グループから追放する。

3、主人公が、能力を生かして社会的に高い評価を得る。

4、主人公の貢献が失われたことでグループの能力が落ち、グループリーダーの社会的評価が落ちる。


 何度も読みたくなるということは、脳内でドーパミンが分泌されて、快感を得ているためと推測できます。この快感を得るメカニズムとして「ルサンチマンの解消」「シャーデンフロイデ」「フリーライダーに対するサンクション」の3点に注目しました。以下で詳細に説明します。


【ルサンチマンの解消】


 ルサンチマンとは、強者に対する憤り、怨恨、憎悪、非難という意味です。

 そして、本稿におけるルサンチマンの解消とは、ざまぁ小説中で「グループ内での評価が低い」状態から、「社会的に高い評価を得る」の場面転換を指します。この快感は2つの要素からなるものと推測しています。

 1つ目の要素は、小説スタート時点においてルサンチマンというストレス状態が与えられ、小説の進行とともに解消されるという快感です。2つ目の要素は、読者が感情移入している主人公の承認欲求が満たされることに伴う快感です。

 なお、承認欲求の充足は脳内にドーパミンの分泌を促し、非常に大きな快感を得られ、その快感は性行為と同等かそれ以上であると言われています。おそらく、この快感が、ざまぁ小説を繰り返し読みたくなるという主なメカニズムと思われます。


【シャーデンフロイデ】


 「ざまぁ小説」中の、「リーダーの社会的な評価が落ちる」部分から生じます。

 ことわざでは「他人の不幸は蜜の味」といいます。

 原始時代の人間の群れの中で、他の個体の力が落ちると、自身の餌の取り分や生殖可能性が増えます。この状況は、自身の遺伝子を次世代へと残せる可能性を高めることから、ドーパミンの分泌を促し、快感につながるのだと思われます。ただし、安直にライバルキャラを不幸な目にあわせてはなりません。なぜなら、シャーデンフロイデをより強く感じる下記の3つの条件があるためです。(詳細はシャーデンフロイデに関するWikiをご参照ください。)


 1、不幸の原因が、他者自身の落ち度であること。  

 2、他者自身の不幸が深刻でないこと。

 3、意図的に他者を不幸に陥らせたのではないこと。


 ざまぁ小説とは異なりますが、「悪役令嬢小説」において感想欄が荒れているのを見た経験はないでしょうか?

 記憶が定かではありませんが、平民令嬢が陰惨に死亡するなどの深刻な不幸を描き、上記の3条件から逸脱したため、読者が感じる快感を低下させ、逆に読者の反感をかったためだったかと思います。シャーデンフロイデを活用する場合、上記の3条件を念頭において上手に用いることが必要と思います。


【フリーライダーに対するサンクション】

 

 ざまぁ小説中では、「主人公は高い能力でグループに貢献しているが、グループ内での評価は低い」と「グループリーダーの社会的評価が落ちる」の部分から生じます。フリーライダーとは「ただ乗りする者」を意味し、サンクションとは制裁を意味します。

 ざまぁ小説中では、グループリーダーが主人公の貢献に対して承認欲求を満たしてあげる、換言すると貢献に対する対価を支払うことなく、搾取(ただ乗り)しているとみなせる点がフリーライダーに該当し、グループリーダーの社会的評価が落ちる点がサンクションに該当します。


 このメカニズムを理解するため原始時代の人間の群れを例にとり説明します。

 この人間の群れが、集団で狩りをするときに、さぼるヒトが現れるとどうなるでしょうか?狩りは、ケガする可能性のある危険な行為です。さぼるヒトにとって、狩りをさぼりつつ、ちゃっかり分け前を受け取ることができれば、そのヒトにとって、これほどメリットの大きい行為はありません。しかし、群れの中がさぼるヒトだらけになると、群れの崩壊を招きます。そこで、群れからさぼるヒトを排除しようとする行為が行われます。

 協力行動をととらない、邪魔もの、ズルをするものを排除する行為がサンクションであり、人間に生得的に備わった機能だそうです。つまり、人間という種が生き残るために進化の過程で得た特性ということです。


 さらに、このサンクションの駆動原理を細かく見ていきます。人間には「生存(食事)」「子孫を残す(生殖)」など生きるために必要な行為をするとき、快感を感じる、つまり快感をつかさどる脳内物質であるドーパミンが分泌されるようにできています。同様にサンクションという行為も、ドーパミンの分泌を促し、脳は快感を感じるようにできています。つまり、ズルをする者を排除する行為に快感を感じるように、人間の脳は出来ているということです。


 ざまぁ小説に話を戻すと、リーダーが社会的に落ちぶれるという制裁を受けるのを見て、読者は快感を感じるというわけです。逆に作者が読者へより効果的に快感を感じさせるためには、小説中でリーダーを社会的評価に見合わなわい実力しかもたないフリーライダーとして描く必要が生じるということです。



【最後に】

 ここまで「ざまぁ小説」から読者が快感を得る仕組みを考察してきました。ざまぁ小説が複数種の快感を起こさせる構成であることがわかりました。先駆者は実に頭の良い人だなと感じます。流行したのは、道理です。

 

 なお、「フリーライダーに対するサンクション」の部分は、「小学館新書 著:中野信子 ヒトは「いじめをやめられない」」を読みながら作成しました。自粛警察や正義病、同調圧力、なろう中のランキングに対する議論まで、なぜこんな風にもめているのだろうという疑問に対して示唆的な本ですので興味をもたれた方は読んでみてはいかがでしょうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  凄いですね。とっても論理的で分かりやすかったです。大学時代、心理学概論とかの講義を聞いた時のことを思い出しました。  以前あるツイートで、「なろうで『ざまぁ小説』が流行ってるけど、『凄ま…
2021/02/04 21:24 退会済み
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