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Tworue Heart  作者: レモンプリン
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絶望の予感

この地球には様々な国がある。今、まさに戦争中の2つの小国もまたそのひとつだ。

 ここではA国、B国と呼ぶことにしよう。

 この際、国の名前など些末なことだ。

 とにかく、A国とB国は戦争中だった。戦力差は圧倒的。B国が勝利するのも時間の問題だった。

 まずまず兵の練度が違う。数が3倍程違う。戦闘機も少なく、艦隊の面から見てもB国の方が圧倒的。

 この状況で戦争をしようというのがまずまずの間違いだった。

 まあ先に手を出したのはB国だったので、A国には為す術もなかったわけだが。

 そんな中、A国では主要人物達が集まり、軍事会議を行っていた。

「やはり開発途中の強化兵を使うべきだ」

 1人がそういうと口々に皆、意見を交わす。会議は強化兵を使う方向で進んでいた。

「しかし、被検体924番の体はもう限界です!」

 研究者らしき者がそう意見するが、皆聞く耳を持たない。

「誰か違う者を被検体にすればいいじゃないか」

 そんな意見が出た。

 そうなるのも当然か。研究者はそっと溜息をつく。何もせず殺されるよりは少しの希望にでも縋りたいのが人間だ。

「では誰を?」

 研究者が問うと、部屋の扉が開き、兵士が報告を始める。

「研究室へ1番強靱な肉体を持つ捕虜の連行が完了しました」

 始めから強化兵を使うつもりだったのだろう。タイミングを見計らったかのように扉を開けた兵士を見れば一目瞭然だった。

「では改造を開始します」

 研究者はそう口にして部屋を後にするが、内心では強化兵を使うのは反対だった。まだ試作段階の進化薬"ローズ"を使うのはあまりにも危険すぎる。

 ましてそれを戦場に出すなんて。だが、そうするしかないのもまた事実だった。

 研究室へ入り、重厚な扉を閉める。強化ガラスで囲まれた部屋の中には鎖で四肢を繋がれた敵国の捕虜がいた。

「命だけは助けてくれ!」

 そう懇願する捕虜に研究者が"ローズ"を注入する。

 ローズとはA国で新たに発見された黒バラの花から、10束に1滴しか抽出することの出来ない希少な液体のことだ。効果としては身体の回復速度を人智を超えた速さまで上昇させるといったものである。副作用としては、体が少し黒くなる程度だった。

「命は大丈夫だ、安心しろ」

 そう言って、手に持ったナイフを捕虜の胸に2、3度突き刺す。ナイフを抜き、2時間のタイマーをかけて、部屋から出る。これを繰り返すだけだ。

 人は自らが死の淵にたつ時、本来ではありえない程の力を発揮する。それを絶え間なく引き起こすことによってありえない身体能力が発揮された状態が通常の状態となる。

 これを繰り返し、力の限界を超えていく。回復はローズの力によって行われる。

 体の強靱な者かつ、自我が強い者でないと変化に耐えきれず死んでしまうが、今回は成功しそうだった。

 度重なる細かいローズの濃度の調整が幸をそうしたようだ。この調子なら5ヶ月で改造が完了するだろう。

 問題は5ヶ月持つか。だった。

 がちゃり、と扉が開く音がして、筋骨隆々といった風貌の男が入ってきた。男は軍の最高司令官で、改造兵を初めに思いついた男である。

 嬉しそうな顔をして研究者の方へ近づいてくる。強化兵を戦場に出せるのが余程嬉しいようだ。黒バラを発見したのもこの男だった。

 男が口を開く。

「様子はどうかな?」

「上手くいっています」

「それはよかった」

 そう言い、安堵の表情を浮かべる男に研究者は言った。

「この調子ならあと5ヶ月といったところでしょう」

「5ヶ月だと!」

 その期間の長さを聞き、男は驚く。

 不可能だ。5ヶ月間も耐えるなど到底無理な話だ。

「もっと急がせろ!事態は一刻を争うんだぞ!」

 そう怒鳴り、男は研究者を睨みつけた。

「しかし......この速度が限界です」

 別に研究者ものんびりしているわけではない。

 男は無言で机に置いてある10数本の注射器を手に取る。

「何をするつもりですか?」

「今すぐ改造を終わらせてやる」

「そんなことをしては、自我が崩壊してしまいます」

「黙れ!」

 そう言うと部下を呼び、研究者を拘束させる。

「後悔しますよ!」

 そんな一言を残し、連れて行かれる研究者を尻目に、まだ痛みに呻いている被検体925番にローズを注射していく。計13本のローズを注射し終わり、男は満足そうに笑う。

 携帯していたハンドガンで被検体925番の頭に狙いを定める。

「やめてくれ!」

 そう叫ぶ被検体925番の言葉など気にせず、引き金を引く。2度、3度と研究室に赤い血が飛び散り、悲鳴がこだまする。

 被検体925番はぴくりとも動かなくなった。

 男はアサルトライフルを持ち、被検体925番の前に座り込む。

 被検体925番の体が心做しか黒くなってきているように感じられた。いきなり目を覚まし、男の方を向く。

「助けてくれ!なんでもする!」

 懇願するようにそう叫ぶ被検体925番をアサルトライフルで動かなくなるまで擊ち続ける。

 何度もそれを繰り返す男。飛び散る血は宵闇の様に黒くなり、被検体925番の肌も同様に黒かった。


 

 何度目だろうか?被検体925番が撃たれることに抵抗しなくなり、腕や足が筋肉で膨れ上がっている。

 ストレスで既に髪は抜け落ちていた。

 また動き始める被検体925番。男はライフルを連射する。だが、玉を撃ち尽くしても被検体925番は止まらなかった。血は既に止まっている。

 男を睨みつける復讐心に染まった赤い目からは絶え間なく血の涙が流れ出ていた。

 自らを縛る鎖を引きちぎり、男の頭を掴む。

 男は慌てて右手を腰のナイフにかけるが、黒い手が男の右肩を掴み、力任せに引きちぎった。赤い血が滴り落ちる。

 男の抵抗も虚しく、被検体925番の手によって男の頭が握りつぶされる。骨が折れる音、血が滴り落ちる音、そして男の断末魔。

 研究室の中はまさに地獄絵図。

 被検体925番はもう弱者ではなかった。

 紛れもない、人類の脅威へとなったのだ。

「殺してやる」

 被検体925番はそう呟いて、研究室の扉を叩き壊す。

 扉が壊れる音を聞いて兵士が集まってくる。

 だが、一介の兵士など、もう既に被検体925番の敵ではない。




 A国は皮肉にも、自らの手で自国を壊滅させることとなった。

 誰が想像しただろう?

 あるいはあの研究者だけは分かっていたのかもしれないが。

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