第1階層-1 憧れ続けていた場所
古の時代よりバルダット王国に存在すると言われている「無限迷宮」。
この最大のダンジョンに入ることが、異世界転生をした後の俺の夢だった。
異世界転生をしてバルダット王国にやってきた俺は、国王から王国内のダンジョン攻略の使命を与えられていた。
バルダット王国には「バルト」と呼ばれる塔が存在しており、そこが最大のダンジョンになっている。
王国内の冒険者だけでは攻略に行き詰っていた国王は、異世界転生をしてきた人間を攻略班として使うことを決めたのだ。
転生をした際に【魔物使い】という、この世界の中でもレア職業。その能力の助けも合わさって、バルダット王国のダンジョン攻略班の最前線で戦っていた。
もともと、何かにはまりやすかった性格だった俺はどんどんこの生活にはまっていった。
つまらない会社勤めや上司との関係に振り回されなくていいダンジョン攻略は刺激的な日々だった。
ダンジョン攻略の仲間もでき、人間関係にも恵まれていた。ソフィーは特に俺のことを慕ってくれていた。
そのせいでさっきは取り乱したりもしてしまったが……
不満のない日々だった。
ダンジョンにこもりきりのような生活を続け、ついに誰も到達することができなかったダンジョンを攻略するにまで至った。ものの数か月の出来事だった。
俺の手によってバルダット王国のダンジョンは全て攻略された。俺は英雄として扱われるようになった。
しかし、使命を終えた後の生活も満ち足りたものになったかといえばそういう訳ではなかった。
俺が攻略するべきダンジョンは最早なくなってしまった。何をして過ごすかといえば、毎日俺の力を利用してやろうと考える貴族たちのお相手をしてあげることくらいだった。
毎日いやらしい顔でご機嫌取りをしてこようとする貴族の顔を見るのは限界だった。
異世界までやって来て、なにしているのだろう……
悩みこんできたときにこの「無限迷宮」の話を聞いたのだ。
・一度入れば二度と出てくることができない
・中にいる魔物は、バルダット王国の魔物よりも1ランク強い
・入った時点で強制的にレベルリセット
・どこまで階層が続いているのかはいまだ謎
知られていることはこれだけの古の時代より存在する高難易度ダンジョンだ。
なぜ情報が少ないかといえば、単純に敵が強すぎたのだ。
その仕様ゆえに、王国では罪人に絶望の死を味わせるための処刑道具と使われてしまっていたわけだが……
俺はこのダンジョンの存在を聞いた時に、心が躍った。
誰も攻略したことがない前人未到の高難易度ダンジョン。
乾ききった心にようやく希望が見えた。
何としてでも、このダンジョンに入りたい。バルダット王国に帰ってこれなくなることなんて関係ない。
どうせ今の生活も死んでいるようなものだった。
しかし、入るためにはひとつだけ大きな問題があった。
このダンジョンはバルダット王国最大の「処刑用ダンジョン」なのだ。
バルダット王国では誰もが「無限迷宮」という名を聞いただけで恐れをあげる。それほどの恐怖の対象に、簡単に入ることは誰も許してくれなかった。
英雄となってしまっていたらなおさらだ。
無限迷宮に入るための方法はひとつしかない。
そうして先ほどの処刑の時間につながるわけだ。
処刑所の中でのことを思い出す。
予想外の出来事も起こってしまったが、無事に無限迷宮の中へ入れたから良しとしよう。
エレンとミゲルにはいろいろと協力をしてもらって感謝しかない。
特にミゲルがいなければ、俺はここの存在も知ることはなかった。
『おやおや、ダンジョン狂いのリンドさまが、無限迷宮へと追放だなんて、なんてお似合いなんだ!!』
『ダンジョンの中で野垂れ死にできるなら、お前にとっても本望だろ』
彼らの別れの言葉。なるべく憎たらしくしてくれと言ったがよくできていた。
本当にイラっとしたからな。
そのせいでソフィーも怒っちゃったし……
ソフィーには悪いことをしてしまった。
俺のことを慕ってくれていた仲間とある意味最悪な別れをしてしまった。
だけど、やっぱり彼女を一緒に連れてくることはできない。
このダンジョンに入りたいというのは、ただの俺のわがままだ。
俺は異世界転生しているから、好奇心でこんなところまで来れても、それでソフィーを巻き添えにしてはいけない。
――そう、これは単なる俺のわがままだ。
看守からもらった剣で足枷の鎖を断ち切る。これも予定通り。鎖は案外あっさりと切れた。
立ち上がってダンジョンを見渡す。
岩壁に覆われている内装は、新たな獲物の到来を喜んでいるようにも見えた。
懐かしい感じだ。
「いくぞおおおおお!」
景気づけに叫んでみる。フロア中に俺の声が響き渡る。今は好奇心が体全体を包み込んでいる。
ここから、前人未到のダンジョン攻略が始まることになった
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