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第二章 出会い(前編)

 ついに阿修羅とシッダールタが相まみえる。二人が出会ったことで大きく歴史の歯車が動き出す!



第二章   出会い



「阿修羅! 起きろ、おい、阿修羅!」


 城攻めに成功して二日。

 する事もなく昼間からウトウトしていた阿修羅は、リュージュの大声に起こされた。寝ぼけ眼に突然現れたリュージュの彫りの深い顔は、一層男前に見える。


「よお、色男。何だ。敵でも攻めてきたのか」

「寝言言ってるんじゃない。急いでこれを着ろ!」

「これ? 何だこれは、随分仰々しい衣だな」


 手渡された衣装は、真っ白な光沢のある布地に金の刺繍が施されている贅沢な上着である。


「王子がおまえに会いたいと、わざわざここまで来られたのだ」

「王子? シッダールタが?」


「言葉遣いに気を付けろ! ナダ隊長は何にもおっしゃらんが、おまえときたら……」

「ああ、わかった、わかった。おまえは腕はたつのにその煩わしいとこは辟易(へきえき)するぞ」


 眠そうに目を擦りながら阿修羅は立ち上がり、服に腕を通した。あの西城攻略以来、リュージュは少々身勝手な阿修羅のお目付け役のような存在となっていた。


「おい、阿修羅」

「何だ?」


「おまえ、寝る時もそんな暑苦しいもん着ているのか?」

 リュージュは阿修羅の上半身に巻かれた薄手の革の帯を見て言った。


「ああ、これか」

 阿修羅は上着の紐を掛けながら続けた。


「いつ敵が来たって、この上に鎧をすぐ付けられる。便利だろ?」

「それはそうだが……」

「大体、この戦の最中で無防備に寝ている貴様らの方がおかしいんだ」


  阿修羅は身支度を整えて髪をとくと、いつものようにつむじの高さに束ねた。綺麗なうなじが現れる。


「ほお、さすが美形の阿修羅だな。戦っている時とは別人のようだ」


  ――しかし、これは本当に……――


 リュージュはしばし言葉を失った。振り向いたその妖しいほどの美しさに、一瞬心の臓が強く打ちその動悸を速める。


「何を馬鹿な事を」

 阿修羅はまんざらでもなさそうに笑うと、部屋を出ていった。





「おまえが阿修羅か。近くに寄るがいい」

 座の中央の高い位置に、シッダールタは座っていた。


「はっ」

 阿修羅は、俯いたまま、シッダールタの前へと進み出た。


「顔を見せよ。軍神と称されるおまえの顔を見るためにここまで来たのだ」

「光栄です」


 ゆっくりと顔を上げた阿修羅は、真っ直ぐにシッダールタの目を射た。


  ――この男がシッダールタ!――


  ――これが阿修羅!――


 お互い、しばらく何の言葉も発せなかった。合わされた瞳は、容易に離す事ができない。


 ――美しい……。これがまこと軍神と言われる戦士なのか。それにこの全身に感じる刺すような痛みは……――


 ――この威圧感。私にここまでのプレッシャ-をかけるこの男は……。やはりそれだけの器があるという事か!?――!


「これは驚いたな」

 ようやくシッダールタが口を開いた。


「華奢な少年のようだとは聞いていたが、これ程までとは。阿修羅、おまえ、歳は幾つだ?」

「十六です」


「ふむ。私と同い歳か……。もう少し下かと思ったが。その剣技、誰から教わった?」

「それは……」


 阿修羅は一瞬躊躇した。が、やがてはっきりとした口調で、


「盗賊の我楽という男です」

 と答えた。


 座は俄かにざわめき、シッダールタとともに来た側近達は、顔を見合せ口々に悪態をついた。


「静まれ!」

 中傷の言葉を耳にしたシッダールタは、兵達をにらみつけ怒鳴った。


「阿修羅を愚弄(ぐろう)する言動は許さん」


 凍り付く室内。さらにシッダールタは言葉をつづけた。


「二人で話がしたい。みなは退室せよ!」

「王子、しかし……」


「さっさと行け!」


 側近達は一様に不満気な顔を見せたが、王子の言葉に従うべく席を立った。


「おい、リュージュ、なにやってる」


 ただナダだけは嬉しそうに阿修羅に片目で合図し出ていった。先刻から心ここにあらずのリュージュを引き連れて。





つづく


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― 新着の感想 ―
[一言] 美しい男性は数あれど、体型が細くて華奢なので、シッダールタで無くても気になる戦士は多いのでは? でも、一言でもその話をすれば、阿修羅に一刀両断されてしまうので、誰も口にしないのでしょう……
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