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ゴブリン先生、異世界を行く  作者: 青背表紙
83/154

81 母性

ブックマークを60件いただきました。読んでくださった方、ありがとうございます。最後まで頑張ります。

 湿原を汚すバジリスクの毒をマニーサさんに浄化してもらうため、俺たちは昼休憩も兼ねて遺跡都市に戻った。


 ゴブリンたちはちょうど今、活動を始めたくらいの時間だ。カコの非常に強い勧めで、昼は俺の父さんの群れと一緒にとることにした。


 父さんの群れは『成り上がり』したものが多く、火を使う事にも慣れているから人間のアリスとシャリーフのためにも良いと思ったからだ。


 群れの皆は俺たちを温かく迎えてくれた。シャリーフは父さんの姿を見てちょっと顔が引きつってたけど、アリスは父さんに抱き上げられても笑顔だった。


 子供って環境に順応するのが早いな。単純にアリスの性格なのかもしれないけど。


 父さんの群れはすでに200を超えるゴブリンたちがいた。そのうち3分の1程が『成り上がり』をしている。皆、器用に火や道具を使いこなしていた。


「カコ、お帰りなさい。ガウラもよく来たわね。ちょうどヤミリンゴを蒸し終わったところよ。一緒に食べましょう。」


 トップレスの野性的な美女が話しかけてきた。顔立ちには何となく見覚えがある。確か・・・。


「姉さん?」


「ええ、今はカヒって名乗っているわ。」


 カヒと名乗ったトップレス美女は俺の異母姉だ。俺が群れにいたときには一回目の『成り上がり』を果たしたところだったはず。


 その頃からすると随分見た目が変わってるけど、ゴブリン同士だとちゃんと見分けがつくもんだなと、俺は妙に感心してしまった。


 ちなみに『カヒ』はゴブリン語で『暖かい風』という意味だ。カコの名前と言い、父さんの群れのメスは風に関する名前がついているのかな?


「ガウラはもうすっかり大人のオスね。本当に立派よ。私ももうじき群れを離れるわ。まだどの群れになるかは分からないけどね。」


 俺たちに調理したヤミリンゴを手渡しながら、カヒ姉さんは俺にそう言った。なるほど確かに子作りをするには十分過ぎるほど立派な体つきをしている。


 特に胸とか。胸とか。いやトップレスだから、ついつい目が行っちゃったんです。もちろん家族同士なのでやらしい気持ちはありません。純粋な好奇心です。


 カヒ姉さんは『成り上がり』を果たした他のメスと違い、体色が黒に近いほど濃い緑をしている。白い髪とのコントラストが美しい。


 体色が濃いせいで、薄い金色の瞳と薄ピンク色の少し厚い唇、そして同じ色の形の良い乳首がやけに艶めかしく見える。


 額の中央から生える白い角や口元から覗く牙と相まって、全身に幻想的で妖艶な色気を纏っていた。


 下半身も毛皮を申し訳程度に巻いているだけなので、姉さんが動くたびにすらりとした美しい太ももや引き締まった腰回りについつい目が吸い寄せられてしまう。男の哀しい性だ。


 弟である俺でさえそんな感じなのだからシャリーフはさぞ大変だろうと思っていたが全然そんなことはなく、片言のゴブリン語でにこやかにカヒ姉さんに話しかけていた。このリア充め。


 むしろアリスの方が顔を真っ赤にして、カヒ姉さんの胸をちらちら見てるくらいだ。ここは俺も全力でスルースキルを発動させるとしよう。


「姉さんは群れの後継者になるんだと思ってたよ。」


 俺がそう言うと、姉さんはちょっと困ったような顔をして俺に言った。


「父さんの群れはものすごく大きくなっちゃったでしょう?子育ても順調だし、今いる序列上位の戦士数人をメスと一緒に独立させるつもりなんですって。」


 それは驚いた。群れの長が交代するんじゃなくて新たな群れが生まれるのか。でもそうすると縄張りはどうなるんだろう?


「それが一番困っていることでね。他の群れと重ならないように新しい縄張りを探しているの。ただ秋の終わりごろからオークが襲ってくることが無くなったから、南側に新しい縄張りが持てるんじゃないかって皆は話しているわ。」


 オークが襲ってこなくなった?なんだそれ。俺はそれにちょっと不吉なものを感じたが、今は確かめようもないので忘れることにした。




 俺は無理やり俺の膝の上に座ってこようとするカコを手で押しのけながら、カヒ姉さんにバジリスクと飼葉の話をした。


「それなら私も群れの皆に声をかけてあげるわ。私もついて行って、湿原の様子を確認していいかしら?」


 俺は姉さんの申し出をありがたく受けることにした。シャリーフもすごく喜んでいる。シャリーフ、お前、姉さんが一緒に来るからじゃなくて、人手が増えるから喜んでるんだよな?


 食事の最後に姉さんが壺を持ってきた。壺からは覚えのある甘い匂いがする。


「これはお前が作って置いていったヤミリンゴのお酒よ。おじいさんがとても気に入っていて、森に持ち帰って少しずつ飲んでいたの。」


 姉さんが小さな素焼きの器にお酒を入れて振舞ってくれた。白くてサラサラしたヤミリンゴ独特の香りがするお酒。


 果汁ではなく果肉を使って作ったこの酒はアルコール度数がやや高く、じいちゃんがすごく喜んでくれたものだ。一口含んで、器を姉さんに返す。姉さんは器に酒を注ぎ足して、シャリーフに渡す。少しずつ皆に酒が振舞われた。


 口の中にほんのり果実の香りとコクのある甘みが広がる。度数が高いと言っても俺が試行錯誤しながら原始的な方法で作ったものだ。ほんの数%もないだろう。


 酒の甘みが消えてゆくにつれて、じいちゃんの姿が俺の脳裏によみがえる。俺に生き残る術や魔力の使い方を教えてくれたじいちゃん。


 この酒を作ってプレゼントした時はすごく喜んでくれて、俺のことを自慢の孫だって褒めてくれたっけ。


 俺、人間の世界でいろんなことを知って、じいちゃんに伝えたい話がいっぱいあったのに。アリスのことも紹介しようと思ってたのに。


 気が付くと俺の両目からは涙が流れていた。慌てて目をこすったが涙は止まらず次から次へと溢れてくる。いつの間にか、俺は歯を食いしばりながら男泣きをしていた。


 隣にいたシャリーフが俺の背中をポンポンと優しく叩いてくれた。反対側からはカヒ姉さんが俺にそっと寄り添ってくれている。


 群れを守って死ぬことはゴブリンのオスの誉れ。だがそれが悲しくないわけじゃない。


 皆は俺が泣き止むまで、じいちゃんのことを話しながら待っていてくれた。じいちゃんは皆に慕われていたようだ。俺はじいちゃんを誇らしく思い、俺もじいちゃんみたいに生きて死のうと思った。




 昼休憩の後、マニーサさんを探して皆で南門の人間たちの住居に向かった。マニーサさんは女性たちと一緒に大きな2階建ての家を使っている。


 途中出会った護衛騎士や従者の皆さんが、カヒ姉さんの姿を見てぎょっとした後、ちょっと前かがみでそそくさとその場からいなくなった。皆さん、本当にうちの姉がすみません。


 俺たちは住居の入り口を守る護衛騎士さんに取次ぎを頼んだ。しばらくしてからマニーサさんが侍女のネイヤさんと共に出てきた。少し眠そうな顔をしている。


「お待たせしてごめんなさい。午前中、ちょっとウトウトしていたものだから身支度に時間が掛ってしまって・・・。」


「いえ、こちらこそ急にお伺いして本当にすみませんでした。」


 マニーサさんはにこやかに応対してくれたがネイヤさんはちょっと不満顔だ。マニーサさんは貴族のお姫様。王都なら面会の約束をしてから時間を決めて会うのが当然。


 こんな風に突然訪ねてくることに対してきっとものすごく腹を立てているのだろうが、それを口に出すほど状況の分かっていない人ではない。


 だが内心はマニーサさんをないがしろにされているように感じているのだろう。ネイヤさんは正直な人だ。俺は二人に本当に申し訳ない気持ちになった。


 そんな気持ちを抱えつつ、俺がマニーサさんに事情を説明すると、マニーサさんはすぐに出発しましょうと言ってくれた。だが。


「姫様いけません!!そんな危険な場所に行かれるなら、護衛騎士をもっと大勢連れて行ってください!!それに!!」


 ネイヤさんはカヒ姉さんの方を向いて言った。


「あなたのその恰好は何ですか!!年頃の娘がそんなに肌を出してふしだらな!!さあ、これで胸を隠してください!!」


 俺もマニーサさんも止める間がないまま、ネイヤさんは手にした毛皮のコートを持って、カヒ姉さんの胸に突進した。いかん!!


「ヒッ!!な、何をするんですか!!ちょ、ちょっと止め・・!!や、あ、やめ・・・。」


 カヒ姉さんはネイヤさんをそのまま自分の胸に抱きしめると、髪や首筋の匂いをクンクンと嗅ぎ始めた。


 そして耳を甘噛みし、頬や首筋をぺろぺろ舐め始めてしまった。あーあ、やっぱりやっちゃった。


 これ、ゴブリンのメス同士が親愛の情を示すグルーミング行動だ。さっきアリスがやられかけて、俺が止めたばかりだったのだ。


 ゴブリンのメスは狭い空間で長い時間一緒に過ごすため互いの密着度が非常に高い。また群れ内の序列を明確にするためにこういったグルーミング行動を頻繁に行っている。


 ちなみにグルーミングをされた方が序列は下だ。ネイヤさんはちょっと小柄だし、見た目はシュリとカコの中間くらいに見える。


 カヒ姉さんはネイヤさんが自分に甘えてきてくれたと勘違いしてしまったんだろう。ゴブリンのメス同士ならここでグルーミングし返すのが普通なのだが、当然ネイヤさんはそんなこと分からないからされるがままだ。


 最初は抵抗していたネイヤさんだったが、舐められてるうちに真っ赤になったままぐったりとして、時々小さな声を立てるだけになってしまった。


 自分の所に来てくれたのにグルーミングを返してくれないネイヤさんを心配して、カヒ姉さんはネイヤさんの口の回りを軽く舐め始めた。


 子供の体調を確かめるときゴブリンのメスがする仕草の一つだ。カヒ姉さんだけでなくゴブリンのメスは皆、母性が強い。群れを離れて戦うシュリやカコが異質なのだ。


 ただこの仕草、前世が人間だった俺が見るとフレンチキスを繰り返しているようにしか見えないけどね。


 マニーサさんとアリスとシャリーフは呆気に取られてその場を動けず、ゴブリンたちは当然のことと思って誰も止めないので、俺が慌てて止めに入った。


 目から光が無くなって口が半開きになったまま魂の抜けたネイヤさんを、マニーサさんがアリスと二人で家の中に連れて行った。


『いったいあのメスはどうしちゃったの?私に甘えてきたけど急にぐったりして体がすごく熱くなったわ。病気なのかしら?』


 ネイヤさんのことを心配するカヒ姉さん。俺はゴブリンたちに人間はメス同士でああいうことはしないことを説明した。


 ハヤアシたちはもちろん、カコやカヒ姉さんはとても驚いていた。人間と暮らした経験のあるシュリは何ということもない顔をして聞いていた。


 やがてマニーサさんとアリスが戻ってきた。マニーサさんは中でアリスから事情を聴いていたらしい。


「とても驚きましたが、どうやらネイヤの自業自得のようですね。かなりショックを受けていましたが、癒しの魔法で深く眠らせてきましたから大丈夫でしょう。私は湿原に行きます。」


「マニーサさん、ネイヤさんに付いていなくて大丈夫ですか?」


「もちろん心配ですが、今は眠っているので何もしてあげられません。それにゴブリン族の風習も知らず飛び込んでいったあの子の方に非があるのです。今は飼葉を確保するのが先決でしょう。」


 今はみんなが協力してそれそれがやるべきことをやらなければ、と俺に力強く言うマニーサさんに押されて、俺たちは湿原に向かうことになった。




「やあ、これはマニーサ殿!!供周りの者も付けず、どちらにお出かけですかな?」


 いくらも行かないうちに前から騎士や従者を連れてやってきたワヌミ君、ファラード子爵がマニーサさんに声をかけてきた。俺たちのことは完全に無視して、マニーサさんだけに話しかけている。


「ワヌミ様、私は()()()()()()()()()()()、湿原に現れた魔獣の毒を浄化しに行くところです。」


 子爵はマニーサさんがちょっと強く言った、俺たちと一緒にという部分を華麗にスルーして喋りだした。


「私はゴブリンたちの様子を見に行ってきました。いやはや、地べたに這いつくばって火も使わず食べ物を貪る姿は獣と変わりませんな。」


 ゴブリンたちは言葉が分からないため黙って聞いていたが、マニーサさんとシャリーフとアリス、それに俺とシュリはその言葉に表情を歪める。


「彼らには私たちと交流するにふさわしい教養を身にさせなくてはなりませんな。教育というより訓練やちょうきょ・・・!?」


 俺が一言言ってやろうとしたその時、べらべらとしゃべり続けていた子爵が急に黙り込んだ。目を見開いて顔を強張らせている。なんだ?


 不思議に思ってワヌミ君の視線の先を辿ると、カヒ姉さんがオオグチの体の陰からひょっこりと姿を現したところだった。その目は姉さんに釘付けになっている。こいつ、もしかしておっ〇い星人なのか?


「なんと、なんという・・・!?」


 急に固まってわなわなするワヌミ君が心配になったのか、カヒ姉さんはすっと前に進み出るとワヌミ君の前に立った。護衛騎士たちが警戒の色を見せるが、ワヌミ君はそれを手で制した。


「ワタシ、カヒ。アナタ、トテモ、ツヨイ。」


 その様子を見たカヒ姉さんはワヌミ君を群れの長と勘違いしたようだ。彼にそっと近づくと彼の耳に自分の長い耳を軽く触れ合わせた。


 別の群れのオスに対する敬意を示す仕草だ。人間の成人男子としてはやや小柄なワヌミ君と、ゴブリンのメスとしてはやや長身のカヒ姉さんはちょうど同じくらいの身長だ。


「私が強い・・・?」


 呆然と呟いたワヌミ君は姉さんがまた俺たちの所に戻っても、まだ固まったまま動かなかった。


「あの、ワヌミ様?大丈夫ですかワヌミ様?あのゴブリン族の女性の行動は、相手への好意を示すものです。お怒りにならないでくださいね。」


 マニーサさんが懸命にワヌミ君に話しかけると、彼はハッとしたようにマニーサさんを見て、バツが悪そうに言った。


「好意だと・・・!?コホン!べ、別に怒ってなどいない。ちょっと驚いただけだ。ところでマニーサ殿。私も湿原に同行しよう。私の供がいれば安心だろうからな。」


 子爵はそう申し出ると、さっさとマニーサさんを守るように取り囲んでしまった。まあ、人が増えれば安心だ。俺たちは湿原に向かった。


 向かっている間、ワヌミ君はチラチラとカヒ姉さんのことを盗み見ているようだ。思春期か、このムッツリ野郎め!




 冬の昼は短い。湿原に着いたときにはもうだいぶ日が傾き始めていた。


 湿原に近づくにつれ、目を刺激する凄まじい悪臭が漂ってきた。マニーサさんとアリスが俺たち全員に守護魔法をかけてくれ、俺たちはなんとか湿原に辿り着くことができた。


 バジリスクの死体から流れ出た血が周囲の泥を腐らせ、ボコボコと泡立ちながら毒のガスをまき散らしていた。


 マニーサさんはアリスに、自分と同じように呪文を唱えるようにと言い、舞うような美しい仕草で浄化の祈りを捧げた。アリスはややぎこちないながらも、一生懸命マニーサさんの動きを真似ていた。


 マニーサさんとアリスから波紋が広がるように大地に魔力が広がっていき、毒を放つ腐った泥が正常なものへと変化していく。


 ちなみにマニーサさんの波紋は目に見える範囲ほぼすべてに広がったが、アリスのは5mくらいだった。


 アリスはちょっと残念そうだったが、「初めてであれだけできればすごいわ!」ってマニーサさんは褒めていたから、きっとすごいのだろう。俺もシュリも思い切りアリスを褒める。アリスは照れ臭そうに笑った。


「それにしても恐ろしい魔獣だな。だがこれだけの魔獣を仕留めたのだから、しばらくは安心だろうな。」


 カヒ姉さんを気にしながら後ろで見ていた子爵が、そう言うのが聞こえた。俺は後ろを振り向いて子爵に言う。


「そんなことないですよ。この周りにはもっと恐ろしい魔獣がたくさん住んでいますから。」


「何!?こいつがこの縄張りを支配するボスじゃないのか!?」


 え、何言ってんの?ボスとかゲームじゃあるまいし。俺の顔を見たシャリーフが迷宮や荒野には縄張りを支配するボスがいるのが普通なのだと教えてくれた。


 へー、知らなかった。じゃあ俺とシュリがサージたちと一緒に倒したあのアリもボスモンスターだったのかな。そう言えばあの後、アリの姿を見なかったっけ。


「バジリスクは単独で行動するただの魔獣よ。普段はもっと山壁側の湿地に住んでるから、この辺りで見かけるのは珍しいけど。」


「山壁と言えば、我々の国のすぐそばではないか!」


 シュリの説明に子爵が驚いて叫ぶ。シュリは淡々と言葉を返した。


「心配しなくても大丈夫よ。山壁を越えられる魔獣はそう多くないわ。それにこの辺りにはあまり攻撃的な魔獣はいないし、都市にいて近づかなければ安全よ。」


「この世界はお前たちゴブリン族が支配しているんだろう!結界を管理するほどの力を持っているんだからな!?」


 子爵の叫びを聞いて俺とシュリは首を捻り顔を見合わせた。あれ?俺たちなんか勘違いされてるみたいだ。


「いやそんなことないですよ。確かに結界の力は巫女姫によるものですけど、それでも俺たちはこの世界で『最弱』の種族ですから。」


 それを聞いた人間たちが目を見開いて驚いた。シャリーフ、お前もかよ。さっき俺とシュリが苦戦するの見てだだろ。焦った調子で子爵が俺に問いかける。


「『最弱』!?『最強』の間違いだろう?お前は言葉が未熟だから言い間違っているんだ。お前たちが一番強いこの世界の支配者なんだろう?」


「間違ってません。この都市は俺たちが冬の間に他の魔物から隠れて身を守るための場所です。この世界には俺たちなんかよりもっと強い魔物がいっぱいいるんです。」


 子爵はがっくりと肩の力を落としたように見えた。「そんな。では父上の計画は・・・?」と呆然と呟いている。


「驚いたけどさっきの戦いの様子を見たら納得だぜ。お前とシュリ、それに俺たち全員が協力しても、死にかけたくらいだもんな。」


 シャリーフが俺たちの言葉にうんうんと頷きながら言った。


「この都市の周りはまだ安全だけどね。冬の間は魔獣たちもあんまり活発じゃないし。怖いのはウルフ種くらいかな?」


「だがお前達でも苦戦するほどの魔獣がもし一匹でも結界の外に出たら大変だな。警備隊総出でも止められるかどうかわからんぞ。」


 シャリーフの言葉に、周りの護衛騎士や従者たちが青い顔で頷く。確かにあの毒や石化の能力は厄介だよね。




 俺たちがしゃべっている間に、ハヤアシたちが浄化されたバジリスクの体をどんどん解体していた。肉や鱗をはぎ取っている。


 バジリスクの魔石は大人の握りこぶしほどもある黄色い魔石だった。黄色を通り越してほぼ金色と言ってもいい。地属性の強い魔力を持っているようだ。


 とどめを刺したのはシュリだがシュリはいらないと言ったので、マニーサさんにあげることにした。マニーサさんは魔石のあまりの大きさにちょっと引いていた。


 日が暮れてきたので、俺たちはそれぞれの住処に戻ることにした。


 遺跡都市の中央広場で別れるとき、カヒ姉さんがすっとワヌミ君に近づいた。ワヌミ君はさっき話をしてからずっと憔悴しきった様子だった。


「アナタ、ツヨイ、オス。ムレ、マモル。アナタノ、チカラ、ヒツヨウ。」


 カヒ姉さんはワヌミ君にそう言うと、彼を強く抱きしめ、彼の頭を自分の胸に押し付けた。泣いている子供を慰めるように、よしよしと頭を撫でる。


 周囲の人間たちはその行動に呆気に取られていたがまあ、母性の強いゴブリンのメスとしては当然のことだ。ワヌミ君が元気をなくしているので心配したんだろう。


 ゴブリンのメスにとってオスの力はそのまま群れの生存に直結する。メスはオスの機微には非常に敏感なのだ。


 ワヌミ君はしばらくそのまま撫でられていたが、ハッと我に返ってカヒ姉さんを突き放した。


「私は、わたしは・・・!!」


 ワヌミ君は何か言いたそうに唇を震わせていたが結局何も言わず、側近の従者に「行くぞ」と声をかけるとそのまま二人で行ってしまった。


 弱い夕日に照らされながら、雪は降り続いている。


 夕闇の雪の中を前を向いて歩き去っていくワヌミ君の背中は、傷ついた心を懸命に取り繕っているように見えた。


 まるで強がりで泣き虫の子供みたいじゃないか、と俺は遠ざかる彼を見ながら考えていた。




個体名:ガウラ(後藤 武)

種族名:ゴブリンウォーリア

生息地:暗黒の森

装 備:魔獣の黒角

レベル:5(55)

スキル:突撃の極意L1(11) 格闘王L1(11) 短弓術L2 棍棒術L5 登攀L2 潜伏L5 武器防御L6 魔力操作L8 魔力感知L5

魔 法:影隠L5 点火L4 瞬光L3 自己回復L8 身体強化L8 魔力武器創造L8

耐 性:酸耐性L2 毒耐性L3 石化耐性L2

言 語:ゴブリン語

称 号:真の名を持つもの

状 態:狂戦士の魂

お休みの日だからと調子に乗って書いていたら、ずいぶん長くなってしまいました。読みにくかったかもしれません。読んでくださった方、本当にありがとうございます。

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