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ゴブリン先生、荒野を行く  作者: 青背表紙
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7 新たな力

 結局俺はその後3日間寝たきりで過ごすことになった。その間、群れの母親たちが代わる代わる俺の世話をしてくれた。


 俺が寝かされていたのは俺たちが「丸太の巣」と呼んでいる営巣地の、メスたちが暮らす場所だ。


 倒れた巨木が幾重にも折り重なってできた自然の空間で、入り口はゴブリン一匹が出入りできる程度の隙間が数か所あるだけだ。


 だが中は意外と広く小学校の教室くらいの広さがある。その中に俺の母さんを含む3人の母ゴブリンと成人前のメスゴブリン、そして幼い子供たちが暮らしている。


 ここには本来メスと幼い子供、そして群れの長であるリーダーしか立ち入ることはできないのだが、俺の怪我があまりにひどかったため、今回は特別だと俺の様子を見に来たリーダー、俺の父さんがそう言っていた。


 まあ独り立ち直後で、生殖に適さない年齢だったことも原因かもしれないな。母さんたちが運んでくれるオークの肉を食べながら、そんなことを考えて過ごした。


 3日後には体にあった傷もほとんど無くなり、自分で立って歩けるようになった。確か体のあちこちを骨折していたと思うのだが自分でも驚くべき回復の早さだ。


 魔物の体の特性なのだろうか。あと立ち上がってみて初めて気が付いたのだが、俺の体が大きくなっていた。


 以前は俺よりも背の高かった母さんを追い抜いてしまっている。今の身長は160㎝程度ではないかと思う。腕や足も太く長くなり、ずんぐりしていた指先はほっそりとして、人間だった頃の手に近くなっている。


 指先に生えていた爪はやや長くなり、先も鋭くなっているようだ。俺の父さん、ゴブリンリーダー程の大きさはないが、以前とは比べ物にならないくらいの急激な変化だ。


 自分の体の変化に戸惑っていると母さんが「それは『成り上がり』だよ」と教えてくれた。


 長い時間生きて、多くの獲物を狩り続けたオスが、ある日突然急激に成長するらしい。成長後にはそれまで受けていた傷が治ったり病気が快復したりといろいろな変化があるそうだ。


 普通はリーダーになるくらい成長したオスにしか起こらないが、はぐれオークを倒し、その肉を食べ続けたせいかもしれないと母さんは話してくれた。


 早い話、ボスを倒してレベルが上がりました的なことなのだろうが、生憎ゲームのようにステータスを開いてみるなんてことができるわけもなく、でかくなったせいでここから出るの大変そうだななんて思って、母さんの話を聞いていた。


 頭をぶつけないように気を付けながら、メス部屋から這い出す。6日ぶりの外に出てみると、ちょうど昼過ぎの時間らしく、木々の間から木漏れ日が見えた。


 苔むした巨木を覆うように30m以上の木々が周囲に立っている。まるで自然が作るドームのようだと思った。


 鬱蒼とした木々は光を遮り、その名の通り森を優しい暗黒で包んでいた。人間にとっては不安を掻き立てるような暗さだが、闇に生きる俺たちゴブリンには心安らかな風景に思える。


 周囲の木の根本や倒木の陰では、群れのオスたちが思い思いの格好で休んでいた。ゴブリンの活動時間は夕方から夜にかけてなので今はちらほらと活動を始めようとする頃あいだ。


 ざっとオスたちを見回してみると、確かに数が大きく減っていた。残っているのは若いオスを中心に21人。俺を含めれば22人だ。


 ちなみにゴブリンだった頃は数を数えられなかったので、以前の正確な数はわからないがおそらく50人はいたと思うので、大激減といえる。


 今は姿の見えない顔見知りだったゴブリンたちのことを思い、その冥福を心の中で祈っていると、俺に気づいた父さんが声をかけてきた。


「もう大丈夫そうだな。それにしてもたくましくなった。すっかり戦士のようだ。」

「ありがとう父さん。まさか生き残れるとは思わなかったよ。」

「そうだな。あの時の一撃は見事だった。お前がいなければ群れはなくなっていただろう。本当に立派だったぞ。」


 父さんは俺たちの群れのリーダーであり、今の群れのほとんどは父さんの子供たちだ。


 ゴブリンはハーレムのメスを分け合うことはないため最も強いオスがメスを独り占めにする。血縁にないオスは修行のために他の群れからやってきた若いオスだ。


 ゴブリンのオスは生殖できる年齢まで成長すると、自分の群れを離れて他の群れに移る。そして狩りや外敵との戦いを通じて成長し、やがてその中で最も強いオスが群れの新たなリーダーとなるのだ。


 だからリーダーは世襲することはない。近親交配による弊害を避けるための自然の本能なのだろう。


 外からやってくるオスは自分の縄張りを侵し、リーダーの地位を脅かす存在だが、同時に群れを守り引き継がせるための後継者でもあるので、基本的には歓迎されることが多い。


 実際、成長した経験豊かなオスが群れに加わることは、群れ全体にとって良いことのほうが多いのだ。それを拒むようなリーダーでは、群れを維持することなど到底できないということだろう。


 父さんは俺よりもさらに一回り大きい。身長は170㎝くらい。痩せぎすな普通のゴブリンと違い、全身に筋肉が盛り上がり額には親指の先くらいの小さな角が2本生えている。


 体中に戦いのときにできたと思われる傷があり、その強面と相まってまさに悪鬼という感じだ。


 群れを率いる優れたリーダーであり、これまでに多くの戦士を他の群れに送り出している。俺たち並ゴブリンにとっては、まさに憧れの存在なのだ。


 そんな父さんが、手放しで褒めてくれる言葉に照れていると、父さんは「お前に渡す物がある」と言い、自分のねぐらである巨木の木陰に向かった。そしてあの魔獣の角と真っ赤な宝石の原石のようなものを手に持って戻ってきた。


 魔獣の角は泥や血の汚れが落ちて、拾った時と同じように美しい光沢をしていた。石の方はゴルフボールほどの大きさがあり、薄暗い森の中で鈍く赤い光を放っていた。


 以前理科の教科書で見たルビーの原石のようだったが、血が結晶になったようなその石の色はなんだか不吉な感じがした。


 俺が受け取るのを躊躇っていると、父さんが石を差し出しながら言った。


「これはお前が倒したオークの胸から出てきた。魔物は必ずこの石を持つ。持っていると不思議なことが起こることがある。受け取れ。」

「魔物は必ずこの石を持っているの?」

「ああ、俺たちゴブリンにもこの辺りにある。ゴブリンの石は小さくて黒いがこれは赤い。きっと悪いものではない。」


 そう言って自分の胸のあたりを指し示した。つまり心臓の辺りにあるってことかな?


 俺は父さんに言われるままに角と石を受け取った。手に取った石は思ったよりも重く、受け取った時に掌にわずかに熱を感じた。不思議な石だな。もっとよく見てみよう。


 俺は手に持った石を光に透かしてみようと、木漏れ日にかざした。石の中心はゆっくりと何かが揺らめいているように見えた。


 すごく高い熱を持ったバーナーの炎の揺らめきに似ているなと思った時、石が木漏れ日にすっと溶け、赤いオーラのような物体になって俺の胸に飛び込んできた。


 驚いた俺は思わず胸を押さえたが、その直後胸を中心に、体中が焼けるような熱さを感じた。胸の中心に炎が宿って全身にマグマが流れているような感じがする。


 「ぐがぁぁぁ!」


 熱に焼かれる体を何とかしようと全身を掻きむしり、悲鳴を上げて地面を転げまわる。


 俺の声に驚いて集まってくる群れのみんなに囲まれ、俺に向かって必死に声をかける母さんの姿を見たところで、俺の意識は途切れた。 



個体名:なし(後藤 武)

種族名:ゴブリンソルジャー

生息地:暗黒の森

装 備:魔獣の黒角

レベル:3(13)

スキル:突撃L5 格闘L3 登攀L2 潜伏L2 武器防御L1

言 語:ゴブリン語 

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