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ゴブリン先生、異世界を行く  作者: 青背表紙
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61 会議

「一刻も早く軍を編成し、奴らの巣を根絶やしにすべきです!」


「ですが戦費はどうします?大規模遠征となれば費用も莫大となります。新たに徴税して民が飢えては本末転倒ですぞ。」


「あの亜人たちの世界に眠る富が手に入るなら、十分な利益が見込めます。商人たちに供出させてはどうですか?」


「それならば壁を越えるための方法を軍の魔導士たちに研究させねば。研究費の増額を要求しますぞ!!」


「だが本当に魔界に侵入して勝利できるのか?もっと慎重に奴らの力を計るべきではないか?私は諜報部にこそ予算の増額をお願いする。」


「あのような野蛮極まりない連中に諜報など必要なかろう。あの化け物は腰巻に棍棒しか身に着けていなかったではないか。サルと大差ない暮らしをしているに違いない。」


「神聖国の動きも気になります。奴らは以前から南北水路の権益を狙っておりましたからな。むしろ諜報部はそちらに差し向けるべきでしょう。」


「神聖国に奪われる前に、我々がいち早く魔界に乗り込んでしまえば問題ない。そうなればアルム王国が大陸に覇を唱えることも夢ではありませんぞ!」




 口角泡を飛ばして激論を交わす貴族たちの様子を、アルム王国王太子であるフレイ王子はうんざりと眺めていた。


 ガウラたちを初めて王に引き合わせた直後に開かれた王前会議。議題はいま控えの間で王子を待っているガウラたちの処遇についてである。


 王子としてはガウラたちの世界についてもっと知りたい、出来るならばガウラたちと共存する方法を探りたいと思っていた。彼らは言わば『知恵ある魔獣』だ。


 魔獣と日常的に戦ってその脅威を身をもって知っている王子は、それがどれほどの脅威になりうるか十分すぎるほどに分かっていた。


 だが貴族たちは辺境警備隊の隊員がもたらした魔界の豊かな大地の情報に夢中になり、それを手に入れることしか頭にないようだ。ガウラたちの戦いぶりについても報告がなされたはずだが、それは都合よく忘れてしまったらしい。


 それとも魔獣の脅威を過小評価しているのだろうか?それもありうる。大貴族にとって魔獣は『魔石と素材の原料』くらいの認識しかないのかもしれない。


 今は一刻も早く会議を終えザルターンに攫われた弟、第二王子のクラムを救出せねばならないというのに、貴族たちは目の前にぶら下がる果実をいかにもぎ取るかに夢中になってしまっている。




 アルム王国は王の権力が非常に強い中央集権国家である。王の力の源は交易によってもたらされる莫大な富だ。


 ドワーフとリザードマンの国を繋ぐ南北水路に加え、アルム王国から産出される魔石を求めて東から大陸中の商人が集まってくる。それらはすべて王家の権益であった。


 貴族たちはそれぞれの領地を運営しているが、荒野と砂漠ばかりのアルム王国では領民の生活を守ることだけで精一杯なのだ。


 王国の南部、ガジアルム大河流域に広がる穀倉地帯を管理する大貴族たちは多少のゆとりがあるものの、それ以外の地域では少しでも収益を上げる機会を常に求めている状態だった。


 ザルターンほどあからさまではなくとも、他国と結んででも王家の権益を掠め取りたいと考えている貴族もいるはずだ。


 それでも他の国々に比べればアルム王国は十分に豊かな国だった。大陸の東に行けば行くほど大地は荒廃し、太陽の恵みは薄くなる。その貧困の中から生まれたのが、救世教なのだ。




「奴らはほんの1000人ほどの少数部族ということではないか。しかも強力な戦士は数少ないという話だ。我が軍の力をもってすれば容易く蹂躙できよう。」


 兵士たちがガウラから聞いた話を貴族たちも報告で知っているようだ。フレイは頭を抱えたくなった。


 あのガウラという男、警戒心というものがおよそないらしい。よほど平和な場所で生活していたと見える。本当にバカというか、素直というか、純朴というか、恐ろしい見かけとは全く違う善良な奴だ。


 このままではこいつら「ガウラたちを殺せ」とでも言いかねないぞ。そう思ったフレイは立ち上がり発言を求めた。


 つい先ほど返り咲いたばかりとは言え王太子、次期国王の発言だ。しかも神聖国のたくらみを看破し、国の危機を救った英雄の発言に注目が集まり、議場は静まり返った。


「魔界で暮らす彼らは我々よりも遥かに強い力を持っている。先ほどから野蛮人と言われているガウラですら万兵に匹敵するほどの力を持っているのだ。その彼らが暮らす地に立ち入って戦うなど愚の骨頂だ。むしろ和平の道を探るべきだ。」


 議場がざわつくが、さすがに表立って不満を述べるものはいなかった。だがその表情は如実にその心の内を語っていた。


 一人の貴族がすっと立ち上がって発言を求めた。王国最南部に巨大な領地を持つファラード公爵だった。現王の実弟でありフレイにとっては叔父にあたる人物だ。


「王太子殿下、兵を思うそのお優しい心根、まさに次期王たるべしと思います。ですが時には国を守るために厳しい決断を下すのもまた王たるものの務めではないでしょうか。」


 現王やフレイとよく似た顔立ちながら、やや太り気味の公爵は先程から発言しないまま会議をじっと眺めている王とフレイを見比べながら発言を続けた。


「今、殿下がおっしゃったとおり彼らは魔界に暮らしています。すなわち魔族です。魔族は人類の仇敵であり不倶戴天の存在。その魔族と和平の道などありえません。他国からアルム王国民は人類の裏切り者と誹りを受けることになりましょう。次期王として殿下、自国の民をそのような目に合わせたいとお考えなのですか。」


 公爵の発言を受けて同意のささやきがあちこちから聞かれる。フレイは表情を崩さず冷静さを取り繕いながら、内心では「またか」と思わずにはいられなかった。王家から侯爵家に婿養子に入ったこの一代公爵から、フレイは事あるごとに難癖をつけ続けられていた。


「ファラード卿のおっしゃる通り彼らは魔族かもしれない。だが人類の仇敵である素振りは今のところ見られていない。むしろ多くの兵が彼らによって救われているのだ。恩人である亜人族を滅ぼすなど、それこそ自由と尚武を貴ぶアルム王国の国是に反する。そんなことをすれば、我が国を支える多くの種族が国を去ることになるだろう。」


 軍属である貴族たちはフレイの発言に同意を示した。だがファラード公爵は柔和な表情を崩さないままだった。フレイの一番嫌いな表情だった。公爵は静かに反論した。


「だからこそです。多くの種族が暮らすアルム王国だからこそ、危険な魔族は早めに取り除かなくては他の種族に示しが付きますまい。魔族から人類の平和な暮らしを守ることこそがアルム王国の国是なのですから。そのための自由であり尚武に他なりません。魔族の危険さは民の多くが理解してくれることでしょう。」


 自分の言葉尻を捕らえて自分の論を展開する公爵にフレイはうまい反論ができず、言い淀んでしまう。このままでは会議の流れが魔族の討伐に傾いてしまいそうだ。何とかしなくては。フレイの焦りを楽しむように公爵は尚も発言を続けた。


「そもそも民の中でも救世教の教えにならって、魔族が我々の富を奪っているのだと考えているものも少なくはありません。魔族の討伐を王家が主導すれば、諸手を上げて多くの国民が支持することでしょう。」


 ファラード公爵はさも王家を賛美するような口ぶりでそう言った。フレイは内心で臍を噛むが、何とも反論しようがなかった。




「ほう、救世教の教えか。ファラード卿は救世教の教えを信じておられるのか。もしやあの白仮面の聖導師から直々に薫陶を受けられたのではあるまいな?」


 公爵に賛同を示す貴族が大勢を占め始めた議場に、割れがねのような野太い声が響いた。熱を帯びていた議場が水を打ったかのように静まり返る。発言したのは王国北部の守りの要、タルハーン北部辺境伯だ。


「な、なにをバカなことを!!私を侮辱するつもりか、タルハーン卿!!私があのような犯罪者と通じているとでも言うのか!?」


 鼻白んでその発言を取り消そうと躍起になるファラード公爵。現在、アルム王国の救世教の関係者に対する不信感は強烈だった。各貴族は領地内の救世教信者の動向の把握に神経を尖らせている。救世教と内通していると言われるのは、国家反逆の意ありと取られてもおかしくない状況だった。


「ならばそのような不用意な発言はしないことだ。魔族だの人類の仇敵だのと、まるで救世教の連中が言うような口ぶりではないか。『種がなければ毒草も咲かぬ』と言うからな。」


 下手をすれば救世教との関りを疑われるとあって、ファラード公爵に賛同していた貴族たちもすっかり委縮してしまった。


 公爵は「何を世迷言を」と呟いて澄ました顔で席に着いたが、口元がわずかに歪んでいた。フレイはホッとして北部辺境伯を見る。『ドワーフの血が混じっているに違いない』と噂される頑強な体つきの老伯爵は目だけで頷き返してきた。




「実際目で見たものでなければ私には何とも言えぬ。『アルムの双剣』は実際に彼らと戦ってみたのであろう。カシム殿はどう思われるかな?」


 タルハーン辺境伯はフレイの隣に控えるカシムに目を向けるとこう言った。カシムは一騎士でありフレイの従者としてこの場にいるだけだ。本来発言する権利はない。


 だが『アルムの双剣』の名は貴族でもおいそれと無視できないほどの功績に裏付けられている。カシムは「僭越ではありますが」と前置きして話し出した。


「私はあの者たちを利用するのがよいと思います。敢えて戦いの矢面に立たせ、我々が彼らを使役しているのだと内外に示すのです。」


 カシムは議場の注目が十分に集まったことを確認してから、話を続けた。




「現在あの者たちは我が軍の手中にあります。いわば虜囚の身です。それが捨て石として我が軍のために働くのであれば、どちらが上位の存在であるか自ずと周囲の者たちは知ることになるでしょう。他国に対してもあの者たちを戦時虜囚として扱っているのだと言うことができます。」


 カシムはさらに淡々と話し続けた。


「仮にそれであの者たちが命を落とすことになっても、それは戦場での習いのことです。我々が自ら恩人に手を下すことにはなりません。王国の名を汚さずに邪魔者を排除することができます。」


 フレイが驚き見つめるのも無視して、立て板に水が流れるように話し続けるカシム。


「さらにあの者たちの力を見る好機にもなります。あの者たちがいかに劣った存在であるかを知ることができれば、今後の扱い方も対策できるでしょう。諸侯の方々が魔界に攻め入るときの良い物差しになるのではないでしょうか。」


 カシムの言葉に同意のざわめきが広がる。ファラード公爵がすかさず立ち上がって拍手をしながら発言する。


「さすがカシム殿、戦場の駆け引きにおいては我々以上の知恵者でいらっしゃる。国政や民の暮らしを預かる我々では思いもよらない妙案ではありませんか。」


 公爵の言葉に賛同の拍手が巻き起こり、最後に王が裁可を下して満場一致でカシムの案が採用された。早速ガウラたちはザルターン東部辺境伯の討伐に投入されることになり、救出作戦はカシムに一任された。




 貴族たちが続々と議場を後にしていく。皆、魔界の富をどうやって手に入れるかで頭がいっぱいの様子だ。


 ファラード公爵がすました顔でフレイに目礼して出ていった。最後にタルハーン辺境伯がカシムと軽く頷き合って出ていくと、議場にフレイとカシムだけが残された。二人は王からガウラたちに出征を命じる役目を仰せつかったからだ。


「カシム、お前のことだから何か考えがあるんだろうが、どうするつもりなんだ。俺は魔界に攻め込むなんてまっぴらごめんだぞ。」


 フレイが声を潜めてカシムに言うと、カシムは澄まして答えた。


「欲で目がくらんだ連中に何を言ったって時間の無駄だから。実際にガウラたちの力を目で見てもらった方が早いと思って、ああ言ったのさ。」


「だがもしそれでガウラたちが死んだりしたらどうなるんだ?魔族が取るに足らない相手だとなったら、諸侯たちは我先に魔界に乗り込んで、自分たちの領地を獲得しようと躍起になるぞ。」


「それは仕方がないよね。弱肉強食は世の習いだもの。人間は欲深いしね。だからね、どっちがどのくらい強者かって頑張って示してもらう必要があると思うんだ。」


 フレイはカシムの言っていることが分からずに首をかしげる。カシムは言い聞かせるように、ゆっくりと話す。


「分かりやすく言うと、ガウラたちがとんでもない力を持っているということが分かれば、バカな連中の頭も冷えるだろうってことさ。アルム王国はなんだかんだ言っても豊かなんだ。諸侯も自分の命や領地を捨ててまで危ない橋を渡ろうとはしないよ。」


「つまりガウラたちに思い切り暴れてくれって言えばいいのか?だがガウラたちがそれを分かってくれるだろうか?」


 カシムは何かを探すようにちょっと黙り込んだ後、さらにゆっくりと言った。


「その点は心配しなくていいと思うよ。俺たちの考えを知った人が協力してくれるさ。あのきれいなお姉さんとかね。それよりもフレイ、君は今後もっと大きな決断をしなくてはならなくなる。だからそのためにも君自身がガウラたちのことをよく見極めてほしいんだ。」


「どういうことだ?」


「今はお互いがよく相手のことを分かり合う必要があるのさ。君とガウラはよく似ている。単純な所とか相手をすぐ信じちゃうところとかね。それは俺やあのきれいなお姉さんにはできないことさ。だから頼りにしてるよ、相棒。」


 フレイはなんだかよく分からないまま「ああ」と頷いた。とりあえずガウラたちのことを知りたいというのは、フレイも大賛成だったからだ。


 フレイはガウラたちに何と言ってザルターン討伐軍に同行してもらえばよいかを考えながら、カシムと共に控えの間に向かった。





「・・・と、言うことだったんです。全力とはいえない戦いでしたが、人間たちには十分にガウラさんやシュリの力が伝わったと思います。」


 誘拐事件が終わってこれからのことを相談する時に、王城の一室でダーマさんが知った裏の事情を説明してくれた。今この部屋には俺とシュリ、アリス、ダーマさんしかいない。


 ダーマさんから話を聞いてようやく話が飲み込めた。ダーマさんが戦いの前に「思いきりやってください」なんて言うから変だと思ってたんだよね。


 それにしてもダーマさん、人間の言葉分かるようになってたんですね。


「当たり前です。私がどれだけアリスとお話ししたと思ってるんですか。まだ話せない単語もありますが、聞き取りならもう十分にできますよ。」


 そう言ってアリスとシュリを両脇に座らせて、二人の膝をなでなでするダーマさん。いったい何の自慢なのかもうよく分かりません・・・。


「じゃあ、俺たちが普通に過ごしてても、もう危険はないってことですね?」


「しばらくは大丈夫でしょう。それに何かあれば私も動けますし。」


「巫女姫の結界の方は大丈夫なんですか?諸侯の誰かが抜け駆けして攻め込んできたら大変なんじゃないですか?」


「人間相手ですからそのときはグァン姉様がほろぼ・・・。コホン、問題ありません。大丈夫ですよ。安心してください。」


 今、安心できないワードがあったような気がするんですが!?


 まあ、巫女姫様たちの『転移門』が完成するまではここにいるしかないわけだし、皆で何ができるか考えてみよう。


 俺たちは残り3か月余りをどう過ごすか話し合いを始めたのだった。




 この数日後に、フレイ王子が第二王子を連れて王都に戻ってきた。


 俺はフレイ王子にもっとこの町のことが知りたいから、町で暮らしたいとお願いしてみた。王子は少し考えている様子だったが、すぐに快諾してくれた。


「とりあえずガウラさんたちはずっと西の方から来た亜人族ということにしておきましょう。身分証を作っておきます。種族名はゴブリン族でしたよね?」


 王子はとても親切に対応してくれた。住むところが決まるまでは王城で暮らしてもよいとも言ってくれた。


 俺たちは王子にお礼を言うと王城を出た。初めて見る異世界の街並みに俺の心は高鳴る。いったいどんな出会いが待ってるんだろう。


 こうして俺はアリス、シュリと共にアルム王国の王都へと踏み出したのだった。




個体名:ガウラ(後藤 武)

種族名:ゴブリンウォーリア

生息地:暗黒の森

装 備:魔獣の黒角

レベル:2(52)

スキル:突撃L10 格闘L10 短弓術L2 棍棒術L5 登攀L2 潜伏L5 武器防御L6 魔力操作L7 魔力感知L5

魔 法:影隠L5 点火L4 瞬光L3 自己回復L7 身体強化L7 魔力武器創造L7

言 語:ゴブリン語

称 号:真の名を持つもの

状 態:狂戦士の魂

読んでくださった方、ありがとうございます。

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