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ゴブリン先生、異世界を行く  作者: 青背表紙
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38 誤解

 ホーンヒッポと戦った日から4日後の昼少し前、俺とアリス、ダーマさんの3人はゴブリンたちの越冬地である都市遺跡へと辿り着いた。


 俺が全力で移動すれば2日かからずに歩ける距離だがアリスの速度に合わせたことと、大型の魔獣や肉食獣を避けながら来たため、これだけの時間がかかったのだ。


 まあ急ぐ旅ではないし、旅の間にダーマさんとアリスもかなり仲良くなったようなので、結果オーライなのである。ダーマさんも人間の言葉を大分覚えたし、アリスもゴブリン語をもうかなり覚えている。


 俺もアリスといろいろな話をすることで人間の言葉を覚え、さらに文字も少し書けるようになった。アリスは文字を書くことができ、計算もできた。


 この世界の識字率がどの程度なのかはわからないが、仮に中世程度と考えるとこれってすごいことなのでは?アリスってここに来る前はどんな生活してたんだろ。


 ちなみにアリスはかなり寒い国の出身らしく、彼女にとって暗黒の森周辺の気候はとても暑いらしい。ゴブリンの俺は気温の変化に強いため、あまり感じなかったが今の気温は日本の夏と同じくらいだと思う。


 暑さにバテ気味だったアリスだが、移動時間を朝と夕方に変更したことと、数日前から雨が多くなって日差しが弱くなったことで今は少し元気になっている。


 雨は数日前からしとしとと降り始め、少しずつ強くなってきている。これからしばらくは雨が多くなるようだ。大河の水位も少しづつ上がってきている。


「私は先に行って、グァン様に帰還の報告をしてきますから、お二人は後から来てください。勝手に逃げたりしないでくださいね。」


 そう言ってダーマさんは風景に溶けるように消える。ここまで来て逃げようとは思わない。それにここまでのダーマさんの様子を見ると、もうアリスを殺そうとするとは思えないんだよね。


 ここに来るまでの間、アリスはダーマさんにぺったりくっついて回っては、いろいろと教わっていたようだ。ダーマさんもそんなアリスをとても可愛がっているように見えた。決して性的な意味ではない。念のため。


 グァン様が何というかはまだ分からない。でもここまで俺に連れてこさせたってことは、最初から殺すつもりがなかったのかもしれない。これはただの勘だけどね。


 初夏の都市遺跡内は雨が降っていていることもあり、とてもひんやりとしていた。アリスも暑さをしのげてホッとしているようだ。遺跡中のどこにでもあるヤミリンゴの木は青々とした葉を茂らせ、その柔らかい枝先に雨粒をきらきらと光らせていた。


 冬に来たときは葉が落ちて、枝にはたくさんの実が生っている状態だったので、その表情の違いがとても面白い。よく見ると枝には小さなつぼみが付いていて、薄桃色に色づいていた。


 俺は周りをきょろきょろと見回すアリスを連れ、都市遺跡を進む。アリスはどうやら廃墟が怖いようで、風が吹いて陰が動くたびに、ビクッと体を震わせていた。


『アリス、ダイジョウブ、ココ、ダレモ、イナイ。コワイ、イナイ。アンシン。』


 俺がアリスに人間の言葉でそう話しかけると、アリスは俺の右足にぴったりと体をくっつけてきた。そしてこちらを見上げて少しだけ微笑んだ。アリスの身長は130㎝くらいなので、俺の腰のあたりにアリスの顔がある。


 俺はアリスの頭をぽんぽんと撫でると、彼女の左手を掴んで少し先を歩く。アリスは時折俺の顔を見上げながら、黙ってついてきた。


 話をして分かったのだが、彼女は今年で10歳だそうだ。地球の年齢に換算すると11歳くらいになる。日本の標準より少し小柄かな?


 最初見たときは固い表情と、はっきりした顔立ちのせいで少し大人びて見えたが、こうやって甘える様子は年相応に見える。今まで無理してたんだな。よし、何があっても先生が守ってやるからな。


 誰もいない廃墟を抜け一時間ほど歩いただろうか、俺とアリスは巫女姫の聖域、あのヤミリンゴの大樹のもとへとやってきた。


「ガウラ!久しぶりね。元気そうで安心したわ。その子がアリスちゃん?」


 俺たちの姿を見つけたシュリが大樹の枝から飛び降りて駆け寄ってきた。シュリはアリスに近づくと興味深げに眺める。アリスは急に走ってきたシュリに驚いたようで、俺の右手にぎゅっとしがみついた。


「お前も元気そうだな。巫女姫様にこの子を会わせるためにきた。巫女姫様はどちらにいらっしゃる?」


「姉様たちは結界を守るために祈祷をなさっているわ。ここから先に入れるわけにはいかないからもう少し待っていてね。」


「巫女姫様。初めまして。アリスと言います。よろしくお願いします。」


 そう言ってアリスはシュリにペコリと頭を下げた。アリスが急にゴブリン語で挨拶したので、シュリだけでなく俺もとても驚いた。いつの間にこんなにゴブリン語がうまくなったんだ!?


「ダーマさん、教えた、巫女姫、正しい挨拶、礼儀。」


 アリスが片言で教えてくれた。なるほど、ダーマさんがこの日のために挨拶の言葉を教えていたのか。あの人ほんとに有能だな。変態だけど。


「アリスさんすごいわね。私はシュリ。まだ巫女姫じゃなくて見習いよ。よろしくね。」


 そう言ってアリスに右手を差し出した。アリスもこわごわと手を差し出し、二人は握手する。満面の笑みを浮かべるシュリと控えめな笑顔のアリス。二人はいい友達になれそうな気がする。よかった。


「アリスさんはどこから来たの?どうして角や牙がないの?肌がそんなに白いのはどうして?」


 シュリの質問を理解できず戸惑うアリス。俺が出来るだけ通訳してやろうと思った時に、ダーマさんを連れたグァン様が大樹の上から現れた。


「シュリ。その質問は巫女姫の長として私がします。お久しぶりですね、ガウラさん。」


 4か月ぶりに出会った俺の女神は、初夏の雨にしっとりと髪を濡らし、以前と少しも変わらず輝くような美しさで優しく微笑んでいた。




 ガウラさんに連れられてやってきた私に、最初に私より少し背の高い女の子(?)が話しかけて来てくれました。シュリさんという方です。


 額には角、口から出る小さな牙があり薄緑色の肌をしていますが、怖い感じはしません。ちょっと釣り目がちの大きな瞳を見て、最初は意地悪そうな子かなと心配しましたが、ニッコリ笑って握手してくれた時の手はとてもあたたかで柔らかかったです。


 そのあとで急に話しかけられましたが、知らない単語が多くて聞き取れませんでした。困ってガウラさんを見上げた時に『巫女姫』という方がいらっしゃいました。


 見たこともない程大きい木の高い枝からダーマさんと一緒に音もなく飛び降りて、私の前に立ったその人は聖女様のように美しく神々しい方でした。


 ガウラさんは私をこの方に会わせるために連れてきたと言っていました。どうやら『巫女姫』というのは教会の神父さんのような方のようです。


 私を新しく妻に迎え入れるための許可を取りに来たのでしょうか?でもダーマさんは『巫女姫様』を姉様と言っていました。ということは家族に紹介するため?


 とにかく失礼のないようにしなくちゃ。私は巫女姫様の前に跪き、ダーマさんが繰り返し教えてくれた挨拶の言葉を言いました。


「巫女姫様。初めまして。アリスと言います。よろしくお願いします。」


 巫女姫様はにっこりと微笑んで、私に話しかけてくださいました。


『遠つ国より、よくぞ参りはべりけむ。そなたに尋ねたきことあり、話をきかせたまへ。』


 とても古い言葉遣いですが、人間の言葉で話をきかせてほしいと言われたことは分かりました。


 ガウラさんたちは人間の言葉を全く知らなかったようなので、私は予想もしていなかったことにとても驚きましたが、ガウラさんとシュリさんは私以上に驚いているようでした。


 それから私はダーマさんと巫女姫様に導かれ、木の根っこがソファのようになっている所に連れてこられました。座った位置にちょうど小さなテーブルの様な根っこがあり、ダーマさんが素焼きの素朴なテーセットで飲み物を出して私に勧めてくれました。


 ティーカップの中からは甘い香りがします。お茶かと思いましたが、手に持ってみるとカップはひんやりとしていて冷たい飲み物が入っているようでした。ここはとても暑いので冷たいものはとてもうれしいです。


 勧められるままに一口飲んでみると、目のくらむような花の香りが広がります。続いて上品な甘みがゆっくりとやって来ます。とても美味しいですが、これはいったい何なのでしょう?


 はちみつとは違うようです。とてもサラサラとした舌触りで、甘みがすっと喉の奥に消えていく感じがします。何かの花の蜜かもしれません。


 もう一口飲んでみたかったのですが巫女姫様をお待たせしてはいけないと思い、泣く泣くカップをソーサーに戻しました。


 すると巫女姫様は『気に入らざりしや?』と私に尋ねました。私が慌てて『とても美味しいです!』というと優しく微笑んで『なほ飲みたまへ』と勧めてくださいました。


 私はお言葉に甘えてもう一口、もう一口と飲んでしまい、結局2杯も飲んでしまいました。はしたなかったでしょうか?


 でも巫女姫様はとても嬉しそうにしています。その様子をダーマさんもうっとりと眺めていました。


 私が落ち着くのを待って、巫女姫様は私にいろいろな質問をなさいました。ここに来る前のこと。ガウラさんと出会ってからのこと。


 父さんや母さんが死んだときのことを話すのはとても辛くて、私は話ながら泣いてしまいました。巫女姫様はそんな私を抱きしめてくださり、私の背中をなでながら話を聞いてくださいました。まるで母さんに抱かれているような気がしました。


 ダーマさんも目に涙を浮かべて、私たちのことを見ていました。人間の言葉で話していたのですが、ダーマさんも私の話に同情してくれたのでしょうか。本当に優しい方だなと思いました。


 私がガウラさんと出会うことになったあの魔法陣のことを話すと、巫女姫様は眉をひそめて真剣な顔をなさいました。特に白い仮面の人のことを気にしていたようです。


 でもその後、私がガウラさんと出会い、妻としてここまで一緒に来た話をすると、とても驚いていました。


 私がここに来る前に神父様から「地獄に落ちた女性は悪魔の妻になるものだ」と教えられたと話すと、とても興味を持たれたようでした。


 だからまだ正式な契りを交わしていないけれど、ガウラさんの奥さんであるダーマさんにいろいろこの地獄のことを教わったことを話しました。


 そしてここには結婚の許可を取りに来たのではないのですかと尋ねると、巫女姫様はこらえきれないように笑い始めました。




 俺はシュリとその場に残され、ちょっと離れたところから話をするグァン様とアリスの様子を見ていた。


 聞き耳を立てていたのだが、声は聞こえるものの何を話しているのかは聞き取れなかった。二人は人間の言葉で会話している。


 グァン様、人間の言葉話せたんだな。マジでびっくりしたよ。ダーマさんは知ってたみたいだけど、シュリは俺と同じように驚いていた。


 ていうかダーマさん、グァン様のこと見つめすぎだろ。完全に目がハートになってるよ。


 話の途中、アリスが涙を流し始めたら、グァン様はアリスを横から抱きしめて背中をなでなでしながら話を聞いていた。グァン様の女神力がすごい。母性と包容力がカンストしちゃってる。


 あと、それを見るダーマさんも涙流してるけど、あれは自分も混ざりたくて泣いてるだけだな。うん。絶対そうに違いない。


 そのあとしばらく真剣な表情でアリスの話を聞いていたグァン様がとても驚いた表情をしたあと、なんか微妙な顔しだした。なんだ?


 と思ったら急に笑い出した。お腹を抱えて笑ってる?一体何の話してるんだろ?


 俺とシュリが顔を見合わせて首を捻っていたら、三人が戻ってきた。グァン様が俺の顔を見るなり、吹き出してお腹を抱えて笑い出した。


 ひとしきり笑ったと思ったら、女神は涙を拭きながら俺にとんでもない爆弾発言を投げつけてきた。


「ガウラさん、ご結婚おめでとうございます。アリスさんを妻にするそうですね!」 「「「えっ!?」」」


 そう言った直後、笑い崩れるグァン様。衝撃のあまりその場で固まる俺とシュリ。状況が分からず頭に「?」を浮かべているアリス。


「私が目を光らせていたというのに、一体いつの間に犯行に及んだんですか。全く油断も隙も無いですね。アリス大丈夫ですよ、私が付いていますからね。犬にかまれたと思って忘れておしまいなさい。」


 俺を冷たいジト目で睨んでアリスを後ろから抱きしめ、俺から守るようにしているダーマさん。だが次の女神の爆弾は、ダーマさんを直撃した。


「そういうダーマも水臭いですよ。ガウラさんといつの間に結婚したんですか?私に一言教えてくれればいいのに。」


 息も絶え絶えに、笑いながら放ったグァン様の言葉に、ダーマさんがアリスを抱えたまま真っ白になった。


「えっ、ガウラ?ダーマ姉様と!?でもアリスとも!?だ、だって、えっ、まさか三人で?」


 シュリが顔を真っ赤にして、その場であわあわしだす。一体何考えてんだ、このマセガキめ!


「ちょっと待ってください!誤解です!!俺、何にもしてませんよ!ダーマさんも固まってないで、何とか言ってください!!」


「ダーマ姉様を名前で呼ぶの!?もう、そんなに深いつながりがあるんだ・・・。」


「いや、違うから!これはそういうんじゃないから!やましいことは何にも・・・無いことはないけど、でも違うから!!」


 まさにカオス。再起動したダーマさんが笑い転げるグァン様に泣きつく。俺はシュリに説明しようとするが、シュリは赤くなってあわあわするばかり。


 一人取り残されたアリスは、でもどうやら自分がこの事態を引き起こしたらしいことを何となく察して、青くなったり赤くなったりしていた。


 笑い終わったグァン様が皆をなだめ、アリスが状況を勘違いしていたことを説明した時には、もう夕方近くになっていた。


「皆さん、ごめんなさい。私、間違えてました。」


 アリスが皆にペコリと頭を下げる。グァン様も皆をからかったことを詫びて、ダーマさんと大樹に帰っていった。ダーマさん、涙目で俺を睨むのやめてください。俺なんも悪くないですよね!?


「いやー、しかしビックリしちゃったわね。でも誤解が解けてよかったじゃない。」


 シュリがアリスの方に手を置きながら、俺に言う。俺も本当にびっくりしたよ。まさかそんなことになってるとは、夢にも思わなかった。


 シュリに別れを告げ、俺とアリスは巫女姫の聖域を少し出たところで野営の準備をした。


 取っておいた肉を焼き、柔らかい葉っぱを集めて寝床を作る間、俺とアリスはなんだか妙にお互いを意識してしまい、ほとんどしゃべることができなかった。


 ただ、お休みの挨拶をするときに目と目が合ったら、どちらともなく笑い出してしまった。


 俺とアリスは互いに相手の言葉でお休みの挨拶をして寝床に入った。そうして長い一日がようやく終わったのだった。





個体名:ガウラ(後藤 武)

種族名:ゴブリンカースドファイター

生息地:暗黒の森

装 備:魔獣の黒角

レベル:4(44)

スキル:突撃L7 格闘L8 短弓術L2 棍棒術L4 登攀L2 潜伏L5 武器防御L6 魔力操作L5 魔力感知L5

魔 法:影隠L5 点火L4 瞬光L3 自己回復L5 身体強化L5 魔力武器創造L5

言 語:ゴブリン語

称 号:真の名を持つもの

状 態:狂戦士の呪縛(封印)

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