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ゴブリン先生、異世界を行く  作者: 青背表紙
28/154

28 冬の終わり

次で越冬地のお話が終わります。

「発酵が起こらない・・・。何が足りないんだ?」


 酒造りのための準備が一通り整い、ヤミリンゴの果汁とふかした実を壺に仕込んで10日が経った。


 俺の予想では3日くらいで発酵が始まるはずだったのだが、10日経っても発酵は起きなかった。発酵どころか腐る気配すらない。果汁もふかした実も全く変化していなかった。


 いくら冬だからとはいってもこれは異常だ。発酵はともかく腐り始めてもおかしくないのに。だが俺はこの現象に心当たりがあった。オークの肉だ。


 オークの肉は時間が経っても傷みにくい。それは肉が魔力を豊富に含んでいるからだ。ヤミリンゴを食べると体の中がホカホカしてくるが、これは単に栄養があるだけでなく魔力を含んでいるからなのだろう。


 自分の体験からも、魔力が生き物の体を強くすることは分かっている。だがまさか菌の活動まで妨げるとは思わなかった。大きな誤算だ。


 魔力を取り除ければいいんだろうけど、俺にはそんなことできないしな。巫女姫たちならできるだろうか?


「にぇ、しゃっきから、にゃにふつふつ、ひってんの?(ゴクン)私、いい加減、待ちくたびれたんだけど。」


 俺の目の前でシュリがリンゴ餅をもっちゃもっちゃしながら言っている。このリンゴ餅を作ったのはオオグチだ。


 ふかして粘り気の出てきたヤミリンゴの身を練って丸め、平らに伸ばして焚き火で表面を軽くあぶるとあら不思議、ヤミリンゴの焼き餅の完成だ。


 最初に食べたときは、あんまり日本で食べた餅に近かったから、オオグチを転生者じゃないかって疑ったくらいだ。


 思わず日本語で『これどうやって作った?』って聞いちゃったよ。普通に「ガウラ、いま、なんて、いった?」って返されたけど。


 オオグチの食べ物に対する情熱と創意工夫はすごいと思う。ヤミリンゴの加工に関して言えば、俺よりもずっとうまい。


 仕込みの加工もオオグチにほとんどやってもらった。今はまた新メニューを開発してるらしい。自分の教えたことをこうやって応用してもらえるのが俺は何よりうれしかった。


 あと、塩を何としても手に入れたい気持ちが強くなった。オオグチも喜んでくれるだろうなー。


 ああ、シュリのこと、また忘れてた。一緒に訓練するっていうシュリに、壺の様子を確認したいからって待っててもらってたんだった。


「待たせちまって悪いな。なかなか思ったようにいかなくて、ちょっと困ってるんだ。」

「もう、この『リンゴ餅』っていうのがあるから、それでいいんじゃないの?」


 口いっぱいにリンゴ餅を頬張りながら、そんなことを言うシュリ。お前ただ早く遊びに行きたいだけだろ、このお子様め!


「まあ、確かにその餅は美味いとは思うけど、俺が作りたいものとは違うんだよなー。ところでお前さ、巫女姫は食べなくても平気って言ってなかったっけ?それ何個目だよ。」

「だってこれ、おいしいんだもん。噛めば噛むほど甘くなってくるのよ。それにこれ食べてると身体の中の魔力が元気になる感じなのよねー。」


 太るぞお前・・・。しかし思った通り、ヤミリンゴには魔力が多量に含まれているようだ。しかも加工してもそれは変わらないらしい。魔力さえ何とかできれば発酵も進みそうなんだけど。


「ガウラもさ、『すごく美味いもの作るぞ!』って張り切ってたでしょ?早く完成しておじいちゃん、喜んでくれるといいね。」


 シュリは口いっぱいに餅をもちゃもちゃしながら、笑顔で言う。嬉しいこと言ってくれるじゃないか。子供に励まされてる感じがするけど。


「うん、頑張るよ。俺、お前にはすごく感謝してる。じいちゃんだけじゃない。お前にも、喜んでもらいたいんだ。」


 俺が真顔でシュリにそういうと、シュリは顔を真っ赤にして何か言いかけた。


 だがその直後「ウッ!」て呻いたかと思うと、のどを押さえて目を白黒させ始める。顔色も途端に青くなっていく。やばい!!


「のどに詰まったんだな?!体の力抜いて、息を吐くようにしろ!」


 俺は左手でシュリを後ろから抱きかかえると、俯かせて背中の真ん中を右手の平で思い切り叩く。


 何度目か叩いたところでシュリの口から餅が飛び出し、周り中に飛び散った。涙目で激しくせき込むシュリ。


 あー焦った。こんなの1年生を担当したとき以来だよ。給食中にパンをのどに詰まらせた子がいて、同じように処置したことがあったんだ。ほんと子供みたいなやつだよ、こいつ。


「ゲホッ、ゲホッ、あ、あんたが、急に変なこと言うからでしょ!!死ぬかと思ったじゃない!!」

「え、巫女姫って不死身じゃないの?」

「病気にはならないし、年も取らないけど、死なないわけじゃないの!」


 ケガとかしたら、普通に死ぬそうです。気をつけよう。とりあえず様子を見てた壺に蓋をして、今日のところは訓練でもしに行こう。


 ところで俺、なんか変なこと言ったっけ?解せぬ。




 3日後、ヤミリンゴが発酵を始めた。ふかして水と一緒に仕込んでおいたリンゴは形が崩れて溶け始めているし、果汁の方もプクプクと泡が出始めている。


 どの壺からも甘い匂いと、かすかなアルコールの香りがしている。やった!成功だ!!でも、なんで??


 ふと見ると、壺のふちにリンゴ餅のかけらがくっついていた。これ、シュリがのどに詰まらせて飛び散った奴だよな?


 ん、待てよ・・・。リンゴから作った餅を食べてるとき、シュリは「噛めば噛むほど甘みが出る」って言って、ずっともちゃもちゃしてたよな?


 あ、わかった。これ、口噛み酒だ!!シュリの唾液で酵母ができて、それで発酵が始まったに違いない!大発見だ。早速シュリにも教え・・・ないほうがいいな、うん。


 きっとあんまりいい気はしないだろう。知らないことが幸せってことが世の中にはあると思うんだ、うん。このことは俺だけの秘密にしよう。


 俺は自分の考えを実証するために、小さな器2つにリンゴの果汁とふかしたリンゴを仕込んで、自分で口噛み酵母を試してみた。


 見事に腐りました・・・。なんで?俺が清らかな乙女じゃないからか??ガウ子、くやしいぃ!!


 いや冗談はさておき、冷静に考えたら、俺とシュリの魔力量の差かもしれない。でもこれ以上は検証できないので、深くは考えないことにした。


 ちなみに発酵中のものを、新たに材料を仕込んだ壺に加えると、同じように発酵することが分かった。


 また、まったく変化のなかった干し柿ならぬ干しリンゴにも塗ってみたところ、すぐに表面が乾燥をはじめ、中身が熟し始めた。シュリパワーすげー。


 この調子で酒の壺も、干しリンゴも今のうちにどんどん仕込んでおこう!


 ハヤアシたちとシュリに発酵がうまくいったことを報告したら、とても喜んでくれた。出来るだけたくさん作りたいと話し、皆に協力してもらって壺を増産し、仕込み量を増やす。


 20日あまり経つと、最初に仕込んだ壺からは甘い、強烈なアルコールの匂いがするようになった。まずは自分で一口飲んでみる。飲むとフワフワした酩酊感があるが、時間が経つと元に戻る。


 ちゃんとした普通の酒みたいだ。一日経っても異常が出なかったので、皆を呼んで味見をしてみた。


「これ、ほんとにあの果汁?!すっごく美味しいんだけど!」

「この白い方、すごく甘いな!それになんか楽しい気持ちになってきた!」


 果汁の方は絞った直後は白っぽい液体だったのに、発酵が始まると透き通った金色に変わっていた。ちょっと酸味が強いが、ほんのり甘酸っぱい。


 シードル(リンゴワイン)に近い味だ。密閉容器で発酵させて炭酸を貯められたら、本当にシードルみたいになるかも。


 ふかした実を仕込んだほうは澱がたくさんできてしまったので、木の皮で作ったざるで濾して沈殿させ、上澄みの部分を飲んでいる。


 こちらもやや酸味があり、癖のあるどぶろくみたいな味だ。甘みは果汁だけのものよりずっと強い。アルコール度数も高い気がする。


「よかったわね、ガウラ。でもどうして急にうまくできたの?あんなにうまくできないって困ってたのに。」

「あ、いやー、何というか、ごほん。お前のおかげだよ!お前の応援があったから、きっとうまくいったんだと思う!ありがとうな!」


 俺は嘘はついていない。真実を話していないだけだ。皆が幸せならそれでいいじゃないか?


 せっかく褒めてお礼を言ったのに、シュリには「何言ってんのっ!バッカじゃないのっ!!」て言われた。お前顔真っ赤だぞ、飲みすぎじゃないのか。


 皆、調子に乗ってどんどん飲もうとするので、慌てて止める。オオグチは濾しとった澱の方を、うまいうまいと食べ続けていた。


 本当は絞って酒かすを作りたいが、目の細かい布がないから今回はあきらめた。なんか作りたいものがどんどん増えるな。


 二種類の酒を別の容器に移し、ゆっくり火にかける。アルコール発酵を止めるためだ。このまま発酵し続けると酢になっちゃうからな。


 俺は早速じいちゃんを呼んできた。群れの皆も一緒に来て、興味深げに見つめている。


「じいちゃん、おれたちが作った飲み物を飲んでみてくれ。『酒』っていうんだ。」

「『酒』か、確かに美味そうなにおいじゃ。いただくとしよう。」


 俺はこのためにシュリに作ってもらった徳利と猪口で、じいちゃんに2種類の酒を注ぐ。じいちゃんは初めて見る猪口を不思議そうに見ていたが、それをぐいと飲み干した。


「かー、うまい!うまいなぁ!!こんなに美味いもんを飲んだのは、生まれて初めてじゃ!こりゃ一体なんじゃ?」

「これ、ヤミリンゴで作ったんだ。どっちの方が美味かった?」

「ヤミリンゴからこんな美味いもんができるとは、長生きしてみるもんじゃな。わしはこの白いほうが好きじゃ。ありがとう、ガウラ。」


 じいちゃんにおかわりを注ぐと、美味そうにどんどん飲んでくれる。喜んでくれてすごくうれしい。頑張ってよかった。


 シュリとカケミミがそっと俺の肩を叩いて、目で「よかったね」と言ってくれた。皆にはほんと感謝しかない。


 ハヤアシとオオグチは群れの皆に、火であぶったリンゴ餅をふるまっていた。群れの皆も初めて食べる餅をとても喜んでくれた。こうして俺の酒造りは、大成功に終わった。


 その後、群れの中で酒やリンゴ餅を作ってみたいというゴブリンが増えた。それから俺たち5人は道具作りとリンゴ餅作り、酒作りの指導に追われることになった。


 そんな忙しい日を過ごしているうちに雪が少なくなり、日差しが温かくなってきた。ヤミリンゴの実もだんだん数が少なくなって来ている。冬が終わるのだ。


 もうすぐ越冬地を出ることになる。俺は冬の間、吊り下げておいた干しリンゴとリンゴの皮を持って、巫女姫の聖域を尋ねた。


 皮を持って行ったのは、乾燥させた皮から作るお茶をふるまうためだ。乾燥させた皮を煮出すと、甘みのある紅茶みたいになることが分かった。


 そこでこれまでのお礼を兼ねて、ぜひ巫女姫たちに俺たちが作ったものを見てもらい、お茶をごちそうしたいと思ったのだ。


「やっと顔を見せてくれましたね、愛しい子。シュリからリンゴ餅とお酒を分けてもらいました。巫女たちも大変喜んでいますよ。」


 グァン様をはじめ巫女姫たちは、俺を笑顔で迎えてくれた。俺はシュリに作ってもらったティーセットで、巫女姫たちにお茶を飲んでもらう。


 聖域で火を使うことがよいことかわからなかったので、あらかじめお湯を入れておいたのだ。


 干しリンゴも熟してとても甘くなっている。甘いお茶とフルーツを巫女姫たちはとても喜んでくれた。


 お茶会の終わり、グァン様が俺に真剣な表情で「あなたに伝えておくことがあります」と言った。


 ダーマさんが驚いた顔をしてグァン様に何か言いかけたが、グァン様はそれを軽く手で制した後、俺に向き直りこう告げた。


「あなたにお話ししたいのは、この都市のこと。そして巫女たちが守ってきたゴブリン、わが一族の禁忌について、です。」




個体名:ガウラ(後藤 武)

種族名:ゴブリンカースドソルジャー

生息地:暗黒の森

装 備:魔獣の黒角

レベル:4(34)

スキル:突撃L7 格闘L8 短弓術L1 登攀L2 潜伏L3 武器防御L5 魔力操作L5 魔力感知L3

魔 法:影隠L3 点火L3 瞬光L1 自己回復L5 身体強化L5 魔力武器創造L5

言 語:ゴブリン語

称 号:真の名を持つもの

状 態:狂戦士の呪縛(封印)

その後、少し時間を進めようと思っています。読んでくださった方、本当にありがとうございます。

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