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ゴブリン先生、異世界を行く  作者: 青背表紙
25/154

25 青空

「ほら先生も、一杯飲んでくれよ!」


 俺は勧められた日本酒を丁寧にお断りする。


 今日は町民運動会を兼ねた、俺の勤める小学校の運動会の日だ。この小学校の全校児童は64人しかいない。紅白に分けると32人ずつ。


 普通に運動会の種目をやると午前中で終わってしまうのでもったいない。どうせなら町の人にも入ってもらって皆で楽しもうということで、数年前から同時に開催している。


 学校の運動会というよりは、秋の収穫祭も兼ねたお祭りみたいな感じだ。自家製野菜の売店や獲れたての魚介類を焼いている屋台もある。


 一応、学校内なので飲酒はご遠慮くださいということになっているが、地域のじいさんたちは普通にビールや日本酒片手に応援していたりする。


「吉川さん、俺、まだ仕事中ですから。それに学校内での飲酒はダメってことになってるんで、それ止めてもらえませんか?」

「ああ、悪い悪い。酒飲んでいいのは午後からなんだっけ?なんか子供らが楽しそうにしてるの見てると、嬉しくなってつい飲んじまったよ!」

「気持ちはわかりますけどね。今日は保護者送迎だからバスの運転ないんでしょうけど、午後までは我慢してください。」


 悪い悪いと言いながら手に持った日本酒を飲み干し、空になったコップをしまうのは、子供たちのバス送迎をしている運転手の吉川佑助さん。


 吉川さんは今年で68歳。路線バスの運転手を定年退職した後、農業をするかたわら町営のスクールバスの運転手をしてくださっている。


 俺たちの町は海岸線に沿って細長い形をしているため、通学に時間がかかる子はバスを利用するのだ。ちなみにスクールバスは小学校に子供を降ろした後、そのまま隣町の中学校に中学生を運ぶ。俺たちの町には中学校がないからだ。


 吉川さんには町から謝礼が出ているが、実労働時間と比べたらほとんどボランティアみたいなものだ。だが子供好きな吉川さんは、もう何年もこの仕事を引き受け続けてくれていた。人当たりの良い吉川さんを子供たちも「吉川のおじちゃん」と呼んで慕っている。


 うちのクラスの吉川佑斗の祖父でもある。佑斗はうちのクラスで一番身長が低く甘えん坊の男子。乗り物が大好きで将来の夢は「おじいちゃんみたいなバスの運転手さん」だ。


「もう、おじいちゃん、先生を困らせちゃダメじゃん!それにお酒はだめって病院の先生に言われてるって、おばあちゃん言ってたよ。」


 おじいちゃん子の佑斗が俺たちの会話を聞きつけ、すぐに飛んできた。


「そうなんですか、お加減がよくないんですか?」

「ああ、この間の健康診断で、心音に雑音があるって言われちまってね。血圧も少し上がってるってうちのかかあが心配して、佑斗にまで言っちまったもんだから、この間からずっとこの調子さ。」


「おじいちゃん、普段はバスの運転あるからってお酒飲まないんだけど、お休みの日とかにはいっぱい飲んでるってお母さんも心配してたよ。」


 孫の佑斗にそう言われて、吉川さんは恰幅のいい体を小さくしながら「ああ、気を付けるよ」と苦笑いを浮かべた。


「午前で子供たちの種目が終わったら、午後からは町民運動会の部ですから。でもあまり飲みすぎないでくださいね。吉川さんも出るんですよね?」

「ああ、佑斗と一緒に二人三脚に出るよ。昨日も一緒にうちの周りで練習したからばっちりさ、なあ佑斗。」

「うん、頑張ろうね、おじいちゃん。」


 そう言って笑い合う二人。「僕、頑張るからおじいちゃん、見ててね!先生も!」と言って、佑斗は自分の種目に出るために走っていった。


 すごく微笑ましい。俺の祖父母と呼べる人は実質いないので、もし俺にもじいちゃんがいたら、こんな感じだったんだろうかと想像する。


 そんな風に思っていたら、校長先生から肩を叩かれた。俺の顔を見つめてニコニコ笑っている。気持ちが顔に出ていたのだろうか?


 校長先生は相手の気持ちを察していつもそっと寄り添ってくれる。こういうとこ、敵わないなと思う。俺もいつかこんな風な教師になりたいって思う。


 その後の二人三脚は、吉川さんがゴール直前に佑斗を抱きかかえて猛ダッシュし、逆転一位を取っていた。あの大きな体であんなに動けるとは孫への愛、恐るべしである。


 透き通った秋晴れの空の下、手作りのメダルをもらって笑い合う二人。


 俺はどこまでも青い空を見つめながら、俺にもいつか家族ができて、あんな風に笑い合う日が来るのだろうかとまだ見ぬ自分の未来を思っていた。




「・・・あったま痛てぇ。」

「あ、目を覚ましましたね。傷は癒しておいたのですが、まだ痛みますか?」


 俺は都市遺跡の中央広場の石畳の上で目を覚ました。俺の顔を覗き込みながら、俺の額に手を当ててくれているのは俺の女神グァン様だ。


 驚いて慌てて起き上がると、周りには俺を心配してくれていたハヤアシたちや群れの皆、母さん、父さん。それに、じいちゃんもいた。


「お前がメスと、しかも巫女姫様と立ち会うと聞いて驚いたが、なかなか見ごたえのある戦いだったぞ。」


 じいちゃんが一つしかない目を細めて、そう言ってくれる。今見ていた夢のせいか、じいちゃんの言葉がうれしくてちょっと泣いてしまいそうになる。


「巫女姫様に傷をつけぬよう立ち回ったのも見事じゃった。さすがはわしの自慢の孫じゃ!」


 そう言って笑うじいちゃん。やめて、マジで泣きそうだから!


 慌てて両手で顔をゴシゴシこすり、気恥ずかしくなってじいちゃんから目をそらすと、俺を心配そうに見ていたシュリと目が合った。


「あ、あの!」


 なんかモジモジしながら、でも意を決したように俺をまっすぐ見ながらシュリが話しかけてきた。


「た、助けてくれて、ありがとう。せっかく庇ってもらったのに私、抱きしめられたのにびっくりして、思わずあなたをぶってしまって・・・本当にごめんなさい!」

「いや、俺がぶっ飛ばされるのに巻き込んじゃったから、こっちの方こそごめん。」


 あれ、なんか素直になってる?キャラ変わっちゃった?


「でも!勝負に勝ったのは私だから!あなたも頑張ったけど、私の方がずっと強いんだからね!」


 あ、変わってなかった。まあ、確かにガチンコでやったら勝ち目なかったかも。殺傷力のある魔法を遠距離からバンバン撃たれてたら早々に詰んでたと思う。だから俺は自分の思いを素直に告げる。


「ああ、そうだな。闇魔法の天才っていうだけあると思ったよ。お前は強い。でも俺もこれからもっと強くなる。」


 シュリは俺の言葉に虚を突かれたような表情をした後、薄い胸を反らしてこう言った。


「ま、まあ、分かればいいのよ!あなたも私を目標にせいぜい精進することね!何ならこれからも修行に付き合ってあげてもいいわよ?」


 あ、ちょっとデレた。単純というかチョロいというか、基本お子様なんだな。でもなんだか憎めない奴だ。


「そうだな、俺の友達も一緒に強くなりたいんだ。これからよろしく頼む。」


 そう言って頭を下げる俺と、顔を真っ赤にして「別にあんたのためじゃないんだからね!」なんてテンプレ台詞を決めたシュリに、俺の女神が空気を読まない一言を投げかける。


「でも組手の勝敗はシュリの反則負けだし、『なんでも一つお願いをお願いを聞く』っていうのはどうなるんですか?」

「確かにそうだな。多くの群れの皆の前で巫女姫が発した言葉だ。簡単に覆すことはできないぞ。」


 女神の言葉をさらに補足するダーマさん。その場にいる全員がダーマさんを見た後、俺とシュリを交互に見る。え、これ、なんかお願いしたほうがいいってこと?


「えーっと、何でもするって言ったよね?」


 シュリの目をじっと見つめてそう呟く。シュリはビクッと体を震わせた後、助けを求めるようにグァン様とダーマさんを見る。ニコニコしたまま黙っているグァン様と心配そうな眼差しのダーマさん。


「い、嫌らしいのはダメなんだからね!ダメなんだから!!」


 二人から助けてもらえそうにないと思ったのか、シュリは涙目で自分の体を隠すと、すごい速さでその場から立ち去った。


「巫女姫様、俺が言うのも変ですけど、あんまりいじめちゃダメですよ。」

「そうですねー。でもあの子にはちょうどいい薬になったと思いますよう。一緒に修行する仲間も見つけられたみたいですし。」


 そう言ってにっこり微笑む女神。この人、全部こうなるって分かってやってたな。俺は最初からずっとシュリの教育に利用されてたみたいだ。


 こういうところも校長先生っぽいんだよなー。ほんと、敵わないや。


「さて、ガウラさんの傷も癒えたことですし、面白いものも見られました。これで私たちは失礼しますね。」


 立ち去るグァン様とダーマさんを、俺と群れの仲間たちは軽く頭を下げて見送る。他の群れのゴブリンたちも、自分たちのねぐらに帰って行き、ここにいるのは俺たちの群れだけだ。


 群れの皆からシュリとの戦いのことなどをひとしきり聞かれた後、長である父さんの声に従って、俺たちも自分たちのねぐらへと向かった。


 その道すがら、俺はじいちゃんに何かしてあげられないだろうか、と考え続けていた。ふと、おいしそうに日本酒を飲む吉川さんの姿が思い浮かぶ。


 そうだ、酒を造って、じいちゃんにプレゼントしよう。きっと喜んでくれるぞ!俺はじいちゃんの喜ぶ顔を想像して、空を眺めた。


 そうやって見上げた空には、厚い雪雲の隙間から透き通った冬の空が覗いていた。その明るくて深い青色は、あの運動会の日に見た青空とつながっているような、そんな気がした。




個体名:ガウラ(後藤 武)

種族名:ゴブリンカースドソルジャー

生息地:暗黒の森

装 備:魔獣の黒角

レベル:4(34)

スキル:突撃L7 格闘L8 短弓術L1 登攀L2 潜伏L3 武器防御L5 魔力操作L5 魔力感知L3

魔 法:影隠L3 点火L3 瞬光L1 自己回復L5 身体強化L5 魔力武器創造L5

言 語:ゴブリン語

称 号:真の名を持つもの

状 態:狂戦士の呪縛(封印)

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