17 呪い
家族に「改行しすぎて読みにくい」と言われました。プロの方ってすごいんですね。
攻撃姿勢を取るウルフと睨み合いながら、ハヤアシがメスゴブリンの子供を連れて逃げるのを確認する。それを見て、俺はほんの少し気を緩めてしまった。
隙を見せれば、ウルフが飛びかかってくるのは予測できていた。にもかかわらず俺はその攻撃をほとんど認識することができなかった。
勘と野性の本能だけで攻撃を回避する。直撃は避けられたものの肩に爪が掠る。それだけで大型のバトルナイフで切り付けられたような傷を付けられた。
熱さを感じると同時に傷口から血が噴き出す。体内の魔力を活性化させ、何とか止血することができた。だが完全にふさがっていない傷からは疼くような痛みが伝わってくる。
ウルフが連続攻撃を仕掛けてくると思い身構えるが、すぐに俺から距離を取った。力比べに持ち込まれたことで、近づくことを警戒しているのだろう。
自分の武器である素早さと攻撃力を最大限に生かすため、ヒットアンドアウェイでじわじわ俺を弱らせるつもりのようだ。
ウルフはまた後ろに体を反らせ、力をためてから次の攻撃にでる。狙いを予測し、ほとんど勘だけで角棍棒を使って防御する。今度は攻撃を防ぐことができた。だがこんな博打のようなやり方がいつまでうまくいくか。
すぐに距離を取るウルフ。俺は自分の力を引き上げるために体に魔力を流し続けているし、防御や止血にも魔力を使っている。このままこれを続けられたら、すぐにジリ貧になるだろう。
何とかウルフの動きを止めなくては。そう思った俺は角棍棒を両手で握り直し、ショートソードを持つように尖ったほうをウルフに向ける。さあ来るなら来い!
角を警戒しながらもウルフは突撃してきた。今度はあえて回避しない。ウルフの狙いは俺の急所つまり首筋付近だ。俺は全身の魔力を首筋付近に集め、防御を厚くする。予測が外れれば即死。
だが俺は賭けに勝った。これまでのこいつの攻撃が正確だったので、予測しやすかったともいえる。魔力による防御は成功し、ウルフは不意を突かれてたじろいだ。
今しかない!俺は角を構え、渾身の力で角をウルフの首めがけて突き上げる。この角度なら首から顎を貫通できるはずだ。
その瞬間、ウルフは大きく首を横に振り、俺の攻撃を長い牙で弾いた。弾き飛ばされた俺の唯一の武器は、俺の後ろ1m程の場所に落ちた。絶体絶命だ。
ウルフはその隙を見逃さない。大きく口を開き、俺を噛み裂こうと覆いかぶさってきた。俺は咄嗟にウルフの上下の牙を掴み、それを受け止める。
牙を掴んだ俺の両手が切れ、血が滴る。両手を魔力で守っていなかったら、指が無くなっていただろう。
ウルフは俺を持ち上げ、そのまま振り落とそうとするが、俺はそれをさせまいと渾身の力で踏ん張る。今、振り落とされたらもう二度と攻撃のチャンスはなくなり、そのまま殺されるだろう。
ウルフの熱い息が俺の顔にかかる。すぐ目の前には、俺を噛み砕こうとする鋭い歯が光っている。傷の痛みが不意にはっきりと思い出され、死の恐怖に押しつぶされそうになる。
このままでは埒が明かないと思ったのか、ウルフは前足を横に薙ぎ、俺の太ももを切り付けた。大きな血管を傷つけられたのだろう。凄まじい勢いで俺の血が吹き上がる。すぐに魔力で癒すことで血は止まるが、大量に血を失ったことで一瞬目の前が暗くなり、力が入らなくなる。
ウルフはそれを有効だと判断したのだろう。さらに切り付けようと俺の足に爪を立てる。俺は足に魔力を集中させ防御しようとするが、体の魔力は急速に減りつつあり、完全に防ぐことはできない。決して小さくない傷をいくつも付けられてしまう。
目の前に迫る死。体中から伝わってくる痛み。恐怖に駆られた俺は、胸の奥の魔力を極限まで引き出そうとする。いつもは意識を魔力に向けると赤黒い魔力の炎が見えるが、今は血のように赤い色をしていた。
もっと!もっと俺に魔力をよこせ!足りない!群れを守り俺が生き残るためには、もっと魔力がいる!
俺は必死に自分の魔力に呼びかける。それに応えるように血の色をした炎が燃え上がり、俺の全身を満たす。俺の視界が血の赤に染まっていく。
『・・・倒せ。倒せ!倒せ!!倒せ!!!』
俺の胸の奥から暗く、だが熱を持ったような声が聞こえる。ああ、その通りだ、こいつを倒して皆を守るんだ。
『・・・殺せ。殺せ!殺せ!!殺せ!!!』
言われなくても、こいつをぶっ殺してやるよ。ああ、楽しみだ。こいつを殺すのが楽しみで仕方がない。
『・・・奪え。奪え!奪え!!奪え!!!』
そうだ、奪うんだ。奪いつくしてやるんだ!この狼も、ゴブリンどもも!俺の目の前の奴すべての命を奪いつくしてやる!
『・・・憎め。憎め!憎め!!憎め!!!』
ああ本当にそうだ。俺を殺そうとするこいつ。俺を置いて逃げたゴブリンども!俺を犠牲にして生き残ったあの人間のガキども!!すべてが憎い!すべて壊しつくしてやる!
俺の目は赤い光を放ち、全身の筋肉がぎしぎしと音を立てて増大していく。体にマグマを流したように血が滾る。
体に付けられた傷がたちまち塞がり、ウルフを押さえ込む力が上がる。俺が掴んでいる牙にヒビが入り始め、ウルフが動揺する。
勝てるぞ!こいつに勝てる!こいつを倒したらゴブリンどもも一人残らず殺してやる。母さんも、父さんも、ハヤアシたちも、群れの子供たちだって。
『やれやれ後藤氏、本当に子供たちを殺す気かい?』
不意に心から響いてくる呆れたような柳の声。子供を殺す?誰だそんなこと言ってるのは?俺の目の前でそんなことさせるわけないだろ。
俺? これ・・・俺が言ってたのか? 俺が子供を殺す・・・。子供を殺す!?
俺は自分の異変に動揺する。すると体に満ちていた魔力がまた胸の奥に戻っていく。思わず掴んでいた牙を放す。途端に距離を取り、俺を警戒するように見つめるウルフ。
しかし俺の動揺をチャンスだと判断したようだ、すぐに攻撃姿勢を取る。一撃で仕留めるつもりだろう。俺の様子を隙なく窺い攻撃に移ろうとした。
そんなウルフの顔めがけて、十数本の槍が降りそそいだ。すべて毛皮に弾かれ刺さることはなかったが、驚き動きを止めるウルフ。
「ガウラ、無事か?!」
ハヤアシたちをはじめとする群れのオスゴブリンが周りを取り囲み、投げ槍や弓を構えている。俺を助けに戻ってきてくれたのだ。
ウルフは周りのオスたちを邪魔だと思ったのか、不快だと感じたのか。俺に声をかけたハヤアシの方に向きを変え、攻撃しようとした。ハヤアシが危ない!
「お前の相手は、俺だあぁぁぁっ!!」
俺はウルフの首に横から組み付き、左手で毛皮をしっかりと掴むとウルフの顔に魔力で強化した右拳を叩き込んだ。ウルフは一瞬怯んで足を止めた。
だが俺の拳はウルフの毛皮に阻まれ、傷を与えることができない。俺を振り放そうとして暴れるウルフ。俺は必死に毛皮を掴み、何度も何度も拳を叩き込む。
ダメだ、拳が通らない!もっと鋭い攻撃が必要だ!もっともっと相手を貫くような攻撃が!!
俺の右拳の魔力が形を変え、鋭い刃物のように尖る。だがウルフの毛皮を突破できない。まるで針金で出来た壁を殴っているようだ。今やらなければ仲間が、家族が、子供たちが死ぬ。こいつをぶち抜いて、一撃を入れてやる!
「行け、ガウラ!」「ガウラぶちかませ!」「ガウラ!」「ガウラ!」「ガウラ!」
群れのオスたちが俺の名を叫ぶ。その声はやがて一つになり、雪の森に木霊する。皆の声が高まるに連れて、俺の額の傷が緑の光を放つ。傷から皆の力が流れ込んでくるように、体に魔力が満ちていく。
「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
俺の叫びと共に右手にできた魔力の刃が高速で回転を始める。まるでドリルだ。俺は右手を大きく引き、ドリルを全力でウルフの顎に叩き込んだ。
ドリルはそのまま顎を貫通しウルフの頭に達した。ウルフは断末魔の遠吠えを一つ上げると横倒しになり、びくりと体を振るわせた後、動かなくなった。その勢いで俺は雪の上に投げ出される。
オスたちが歓声を上げて俺に近づいてくる。が、すぐに足を止めてその場に凍り付いたように立ち止まり、森の奥を見つめる。
俺も全身を捩じ切られるような痛みに耐えて立ち上がり、森の奥を見た。
そこには鉛色に輝く美しいウルフがいた。今、俺の足元にいるウルフよりもさらに一回り大きい。ここにきておかわりか。もう満腹なんだが。
それでも、やらなくてはならない。今度こそ俺の命のすべてを使い尽くしてやる。そう決意してウルフの方に踏み出し、ウルフの目を見つめてファイティングポーズを取る。
だがウルフはふっと目をそらし、自分の足元に頭を向ける。足の陰から中型犬サイズの子供のウルフが2匹飛び出してきた。鼻を鳴らして甘える子供を軽く舐めるウルフ。暗い雪の森を背景にしたその姿は幻想的な絵画のようだった。
今倒したウルフの番だろう。おそらくメスだ。メスのウルフは足元に倒れていたゴブリン一人の死体を咥えると、子供を連れて森の奥に消えていった。
「助かった・・・。」
俺はそう呟くと、雪の上に前のめりに倒れた。全身の筋肉が痛み、体が焼けるように熱い。メスや子供たちを連れて、母さんがこちらに走ってくるのを見ながら、俺は自分の意識を手放した。
個体名:ガウラ(後藤 武)
種族名:ゴブリンファイター
生息地:暗黒の森
装 備:魔獣の黒角
レベル:9(29)
スキル:突撃L6 格闘L7 短弓術L1 登攀L2 潜伏L3 武器防御L4 魔力操作L4 魔力感知L2
魔 法:影隠L3 点火L3 自己回復L4 身体強化L4 魔力武器創造L4
言 語:ゴブリン語
称 号:真の名を持つもの
状 態:狂化の呪い → 狂戦士の呪縛
「狂戦士の呪縛」の効果
狂化の呪いを発動し、呪いに魂を蝕まれ続ける状態。狂化が発動するごとに次第に元の状態に戻ることが難しくなり、完全に狂戦士化した時点で二度と元に戻れなくなる。狂戦士化すると力が増大し痛みも感じなくなるが、目の前の生物をひたすら殺し続けるだけの存在になり果てる。
読んでくださった方、本当にありがとうございます。毎日少しずつ書き進めています。




