13 火
オークを倒し、俺たちは大量の肉を手に入れることができた。今回の作戦では父さんのグループにいた若いオスが、網を投げかけるときオークに網を掴まれ、振り回されて軽いケガを負った。
しかし、3匹のオーク相手に軽いケガの被害で済んだのだ。本当に奇跡のような大戦果だといえるだろう。
もちろん被害が出ないように安全マージンを十分に取ったつもりだった。だが正直、自分では準備がいろいろ不足していると感じていただけに、うまくいきすぎて逆に不安になる。
次に備えて、もっとしっかり考えておかなくてはと心に決める。今回は相手の未熟さに助けられた部分も大きいしな。
オークを倒したことで大量の肉と骨、そしてオークの魔石が3つ手に入った。肉の心配は当面なくなったわけだ。大きな骨が大量に手に入ったので、さらにいろいろな道具を作ることもできる。
あとは魔石だ。これは倒したオークの心臓付近から出てきたのだが、ちょっと大きめのビー玉くらいの大きさで薄い赤色をしていた。なんか俺が見たはぐれオークのとは随分違うようだ。
ちなみに俺が手に持ってみても何の変化も起きなかった。でもオークにとどめを刺した大人のオスが手に取った途端、魔石は光に変わってそのオスの胸に飛び込んだ。
直後、そのオスは意識を失いその場に倒れた。皆が驚いて見つめる中、オスの体が薄い光を放ち、急激に変化し始めた。体が一回り大きくなり手足が長く伸びる。
顔も引き締まり、俺や父さんのようにやや人間寄りの顔つきになった。魔物の体ってスゲー。こんな風に変わるんだ。これも魔力のせいなのかな?
「オークの力を手にして『成り上がり』が起きたのね。」
母さんの声が聞こえたので、詳しい話を聞こうと俺は後ろを振り向いた。
・・・えーっと、どちら様ですか?
俺の後ろには野性的な美女が立っていた。昔、外国のグラビア雑誌で見た黒人のモデルに似ている。身長は170㎝くらい。引き締まったフォルムの手足は長く、ウエストはくびれている。
腰つきは美しく魅力的な曲線を描き、溢れんばかりの母性を象徴する胸はツンと上を向き、母さんが動くたびにその存在を主張してくる。
いや、胸はもともと大きかったんだけどね。今の姿だとはっきり言って目のやり場に困る感じだ。
そして何より顔!顔立ちは母さんの面影を残しながらもほぼ人間に近い顔だ。目と口がやや大きめで唇は厚ぼったいが、その隙間から覗く4本の牙と相まってとてもバランスがいい。
さらに白い眉毛と長いまつげ、輝くような白い髪。背中の中程まで、軽くウェーブしたサラサラの髪が波打っている。肌が濃い緑色をしていることを除けばほぼ人間と変わらない外見だ。
あと人間と違うところを上げるとすれば、額の中央付近から親指の先くらいの小さな角が生えていることだろうか。それでも街を歩けば10人が10人振り返るであろう、とんでもない美女ぶりだ。
ちなみに他に体毛は一切なかった。いやだって全裸なんだから仕方ないじゃん。つい、いろいろ目が行っちゃったんだよ!はい。すみませんでした。
「あ、あの、母さん?」
「ええ、私にも『成り上がり』が起きたのよ。ついさっき目が覚めたの。目が覚めたらこの姿になっていたわ。」
「ほう、わしの母さんにそっくりじゃな。やはり同じ血を受け継いでおるからじゃろうか。」
じいちゃんがそう言って、母さんの姿を愛おしそうに眺める。うん、そうだよね、うれしいよね。俺もうれしいもん。
「私もそうだったからそのオスも、もうじき目を覚ますと思うわ。」
「母さん、なにか体に異常はないの?」
「胸の奥の方になんだか熱い塊があるわ。力が満ちてくる感じね。」
「うむ、お前の魔力が強くなっておる。何ができるか試してみたか?」
「ええ、おばあ様と同じ『癒しの力』を使えるようになったみたい。さっきケガをした若いオスの手当てをしてみたわ。」
それを聞いて俺は自分の魔力を目に集め、母さんの姿を見る。母さんの胸の辺りに黒いオーラの塊のようなものが見え、それがゆっくりと脈打ちながら、母さんの全身を緩やかに循環しているのが見えた。
それを見ていると、なんだか星のない夜の闇を見つめているような安らかな気持ちになる。
その後、目を覚ましたオスや母さんの話を総合してみると、どうやら魔石はとどめを刺したものに力を与える効果があるようだ。ゲームに例えると、とどめを刺した奴が経験値総取りみたいな感じかな?
MMOとかだったら、パーティー内が大分ギスギスしそうなシステムだななんて、くだらないことを考えてしまった。
今回『成り上がり』が起きたのは、大人のオス二人と母さんだった。これで群れの力はかなり大きくなった。特に母さんの『癒しの力』がすごい。
その後、実際に使っているところを見せてもらったが小さい傷なら軽く触れて魔力を流すだけで、大きめの切り傷なんかでも少し時間をかければ元通りに直してしまうのだ。
その分、母さんの魔力が減っているようだったが、魔力の目で観察すると一定の時間をかけて少しずつ減った魔力がまた満ちていくのが見えた。
これはすごい力だ。俺の魔力でも同じことができるのだろうか。いろいろ試してみなくては。でもそれは群れにゆとりが出てからだ。することはまだまだたくさんある。
まずはオークの肉のこと。はぐれオークの時はずっと寝ていたので気が付かなかったのだが、オークの肉は他の動物の肉に比べて傷みにくいことがわかった。
あと食べるとなんか胸の奥から力が湧いてくるような感じがする。じいちゃん曰く、魔物の肉は魔力を含んでいるから、なんだそうな。オークがゴブリンを執拗に狙う理由が分かった気がするよ。
そうは言っても内臓なんかは傷みが早いし、肉全体の量もかなりあるので、これ保存できたらあとあといいんじゃね?って思ったんだよね。
ゴブリンは腐った肉を食べても平気だが、栄養や味のことを考えると、やっぱり良い状態で保存しておけたらいいなあって思ったんだ。手軽な肉の保存といえば燻製だな。
燻製は高校の時に柳と二人で園芸部の畑の隅っこでやったことがある。チーズとか肉とか野菜とか手当たり次第に詰め込んで燻蒸してみたのだが、匂いのせいで先生にばれて『学校で焚き火すんな!』って大目玉を食らった。
その後二人そろってしこたま反省文を書かされた。まあ、燻製自体はうまくいったが、大半先生に持っていかれちゃったんだよね。あれ、どうなったんだろ。やっぱ先生たちで食べちゃったのかな。なんか理不尽を感じる。
塩とかあればいいんだろうけど、生憎ここでは手に入りそうにない。岩塩的なものがないかと探してみたんだけど、近くにはなかったんだよね。
母さんが言うには、森の動物たちが好んで舐める岩があるそうなのでそれが岩塩ぽいなと思っているのだが、この辺りにはないらしい。残念。
まあ、とりあえず火を起こしてみることにした。この森のゴブリンには火を使う習慣がない。肉は生で食べるし、木の実や根だってそのまま食べてるからな。
でもじいちゃんの話だとごく稀に火を使う魔物が現れることがあるらしい。かなり昔に現れたときは森が焼けてしまって多くの生き物が命を落としたとか。何それ、こわい。
そんなわけでゴブリンたちにとって火は恐ろしいものなのだ。でも人間だった俺は知っている。火を使いこなすことがどれほど生活を豊かにするのかを。
群れの皆が理解してくれるかどうかはわからないが、やってみる価値は十分にあると確信できる。まずは論より証拠だ。
自然の材料を使った火起こしの方法はいろいろ知っているが、人間だった時に実際に試してみたことがあるのは一つしかない。弓きり式発火法だ。
これ実はアリスや巧海たちが小学4年生の時、つまり去年、遠足で行った縄文文化のテーマパークで体験したんだよね。
道具を実際に作るところから始めて、自分たちが起こした火で焚火して、マシュマロを焼いてみんなで食べた。アリスが一人だけうまく火を起こせずに泣きべそかいてたっけ。
懐かしいなあ。子供たちは無事だろうか。あー、なんか泣きたくなってきた。あと、マシュマロ食べたい。
早速、材料を集めてやってみる。すでに弓を作るための材料を集めてあるのでこれはすぐに終わった。ちなみに弓は日々改良を重ねている。火を起こせたら、膠を使った複合弓とかも作れそうだな。
うーん、楽しくなってきた!火起こし頑張るぞ!
火が使えたら燻製だけじゃない、煮炊きもできる。あ、その前に土器とか作らないと。夢がひろがりんぐだ。
そうやって道具を作り、いよいよ火起こし開始だ。何やら面白いことを始めたようだと気づいた群れの若いゴブリンたちが集まってくる。
みんなの注目を浴びながら火起こしする俺。しかしなかなかうまくいかない。周りで鼻歌を歌いながら見ていたゴブリンたちも、あまりにも変化がないことに見飽きたのか一人減り二人減り、ついにはじいちゃんと俺だけになった。
それにもめげず頑張る俺。昼前から始めたのにもう辺りは暗くなってきている。心が折れかけたときに、ついに種火ができた!
あらかじめ集めておいた燃えやすい木の皮や繊維に慎重に火を移していく。小さな火をフーフーと吹く俺。小さな火が少しずつ大きくなっていく。
やった!成功だ!これがゴブリン文明の幕開けだ!俺は今、偉大な歴史の目撃者となったのだ!
その時、浮かれている俺の頭を冷やすように、ぽつりと雨粒が落ちてきた。え、やめて、俺の文明が消えちゃう!
そんな願いも虚しく直後に降り出した雨によって、俺の努力は文字通り水の泡と消えた。がっくりとうなだれる俺。そんな俺にじいちゃんが声をかけてくる。
「ガウラよ、何をしておるのかと思えば、お前火を作ろうとしておったのか。ならば魔力を使えばよかろうに。」
「えっ?!」
「お前の胸には火の形の魔力があるのじゃろう?火を作ることはできんのか?」
じいちゃんに言われた俺は、目をつぶり自分の胸に意識を向ける。赤黒い炎の形をした魔力の塊から、赤い部分だけを少し分離させ指先に集めてみた。
指先がだんだん熱を帯びてくるような気がする。ライターで火をつけるような感じをイメージすると、人差し指の先に小さな火がポッと灯った。
「おお、火が作れたようじゃの。よかったのう。」
「・・・うん、ありがとう、じいちゃん。」
早く教えてよ、じいちゃん!という言葉を飲み込んで、お礼を言う俺。
新しい力を得た達成感とともに、何とも言えないとてつもない疲労を感じたが、こうして俺は火を手に入れることができた。
個体名:ガウラ(後藤 武)
種族名:ゴブリンソルジャー
生息地:暗黒の森
装 備:魔獣の黒角
レベル:8(18)
スキル:突撃L5 格闘L3 短弓術L1 登攀L2 潜伏L3 武器防御L1 魔力操作L2 魔力感知L1
魔 法:影隠L1 点火L1
言 語:ゴブリン語
称 号:真の名を持つもの
状 態:狂化の呪い
ヒロイン(母)登場。え、こんなんじゃないって?はて、何のことやら。




