表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/35

第08話 廊下でスキル考察

 廊下に出ると俺は言った。

「とりあえず、つばさか舞のどっちかが『火炎魔法Ⅲ』をまず取得したらどうだ? その方が分かりやすくなるだろ」

 難しい問題に取り掛かる時は、自明の部分を先に潰して、考えるべき箇所を視覚的に限定する。学校のテストでは有効な手だ。


「何か引っ掛かる。もう少し考えさせて」

 つばさは反対のようだった。

 『火炎魔法Ⅲ』を取らないという選択肢も考慮に入れているのか?


「いっそ、他のPTの戦いぶりを見てから決めるというのはどう?」

 舞が提案した。


「まずいだろ、それは」

「周りの目が気になる? 今はそんなことを言っている場合じゃないでしょ。それに、予備兵力として待機するのも戦術上 必要なことじゃないの?」

「そりゃそうだが」


「だいたい、あんたが勝手に『詠唱省略』を取ったせいで今こんなにも悩んでるんだからね。そこんとこ分かってんの?」

「『多重詠唱』よりは『詠唱省略』の方がマシだろ? 実は少しだけ『多重詠唱』と迷ったんだよなぁ。右手にメラゾーマ、左手にマヒャド、合わせてメドローア、みたいな」

「ホント死んで」


「けどさあ、『多重詠唱』と『火炎魔法Ⅱ』の組み合わせは意外に悪くないんじゃないか? 5Pと5Pだから取れるだろ?」


多重詠唱  5P(複数同時に魔法が使えるよ!無制限にね!)

火炎魔法Ⅱ 5P(人間数人分くらいが範囲だよ!長々と標的を焼き続けるよ!)


 俺はスキル一覧を確認しながら説明する。

「いくら『火炎魔法Ⅲ』が強くても、焼き払えるのは一箇所だけだ。でも『多重詠唱』と『火炎魔法Ⅱ』なら、二箇所同時に対応できる。『火炎魔法Ⅱ』はMP消費が5で、満タン状態だと2発撃てるからな」


「状況によっては有用な場面もあるって感じね。他のPTと連携すれば済むことのような気もするけど」

「使えなくはないというだけの話だ。まあ、同じ5ポイントのパッシブスキルなら、『魔法強化』の方がまだ良いかもしれん。『火炎魔法Ⅱ』は5ポイントなんだから、当然『魔法強化』と同時に取得できるし、この組み合わせなら『火炎魔法Ⅲ』の威力を得られる。お前はポイントの損を嫌うんだろうけどさ」


魔法強化  5P(ワンランク上の魔法攻撃!威力がⅠレベル上がるよ!)

火炎魔法Ⅱ 5P(人間数人分くらいが範囲だよ!長々と標的を焼き続けるよ!)


「5ポイント……」

 舞は呟くと目を細めた。


「どうした?」

「今、気付いたわ。やっぱり、効果的な使用法が判明していないスキルは『詠唱省略』だけじゃなかったのよ」

「?」

「攻撃魔法の威力を上げたいのなら、『魔法強化』を取らずに攻撃魔法のレベルを上げれば、スキルポイントの消費は少なくて済む。だから、『魔法強化』の取得は、ポイントの損になるだけ。あたしはそう考えていた。けど違う。ちゃんとポイント分の意味はある」


「どういうことだ?」

「『魔法強化』と『火炎魔法Ⅱ』を取ったとして、そしたら、威力はレベルⅢになるけれど、取得した火炎魔法のスキル自体はレベルⅡなんだから、MPの消費は5のままでしょ。その結果、『火炎魔法Ⅲ』と同じ威力の攻撃魔法をMP回復無しで2回使えるようになる。これこそが、スキルポイント3の差というわけよ」


「私もひとつ思い付いた」

 と、つばさ。

「PT内でスキルの重複取得はできない。だから、一番威力の大きい『火炎魔法Ⅲ』は、ひとりしか取れない。でも、もうひとりが『火炎魔法Ⅱ』と『魔法強化』を取ったとしたら、実質的には『火炎魔法Ⅲ』をPT内で ふたり同時に使える。裏門を『氷結魔法Ⅲ』で封鎖するのも、これなら必要なPT数を減らせる」

「つっても、裏門と正門に向かったPTは もうスキルを取得して配置に付いてるだろうし、今からじゃどうにもならんよな……」


 舞は言った。

「まあね。別にそれは良いのよ。私たちは元々、そんな過ぎた話をしているわけじゃないの。ここで注目すべきはスキルそのものじゃないわ。『詠唱省略』は狙撃銃や散弾銃として使えるし、『魔法強化』はMP節約や疑似重複を可能にする。つまり、一見して無駄と思えるようなスキルでも、考え方次第ではちゃんと使えるってこと。『詠唱省略』だけじゃなく『魔法強化』もそうだったんだから、すべてのスキルに当て嵌まる可能性がある。って言うか、その確率は高い。つばさが言いたいのもそこでしょう?」


「そう。それを前提に考えてみると、また違ったものが見えてくる。『無限魔力』も、9ポイント消費で他に何もできないというインパクトが強すぎるけれど、それでも使い道があるのなら、これはもう、本人の代わりにPTメンバーが『無限魔力』を利用するしかない。要するに――」

「『魔力吸収』ね」

 以心伝心。

 ふたりには共通の認識が出来上がっているらしい。


魔力吸収  2P(相手が空になるまでPTメンバーに秒間100のMPを貰うよ!余りは消滅!詠唱30秒!)


 舞は続けた。

「スキル説明には『相手が空になるまで』と書いてあるんだから、『無限魔力』のスキルを持つメンバーからは好きなだけ吸収できる。相手が空にならないんだからね。『魔力吸収』は2ポイント。他に7ポイントの『火炎魔法Ⅲ』が取れる。これで、MP切れを気にせず『火炎魔法Ⅲ』を何度も撃つことが可能になるわ」


「ただこの場合、詠唱時間が気になる」

 つばさの言葉を舞は素直に認めた。

「まあ確かに、攻撃魔法の詠唱30秒に加えて、『魔力吸収』の30秒が余計に掛かるから、理論上は最速でも60秒に1回しか撃てないことになるし、実際に運用したら もっと掛かるはずよね。1分にMP1の自然回復を待つよりは遙かに高回転だけど、成功率0.01%を突破するための策とするには、どうも決定打に欠ける気がするわ。もっと全く別のアプローチから考える必要があるのかも」


「…………」

 舞もつばさも黙り込んでしまった。

 廊下で突っ立ったまま何秒もその状態が続く。


 俺は耐え切れずふたりを促した。

「もう行こう。襲撃が始まる時間だ」

 スキル編成が決まらないと戦えないんだから、移動だけ急いでも仕方ないんだけど。


 俺の言葉を無視して舞が言う。

「ねえ、どれくらいの人数が正門に集まったと思う?」

「正門? さあ?」

 普通に分からない。


「…………」

 再び沈黙が訪れた。


 このまま黙っているだけというのもアレなんで、俺は、思ったことをとりあえず口にしてみた。

「地味に思える『魔法耐性』とか『肉体修復』とか『魔法防御』とかにも、パッと見じゃ分からない意味があったりするのか?」


「なぜ その3つを挙げたの?」

 反応したのは舞だった。


「なぜって何が?」

「他にも微妙そうなスキルはあるのに なぜその3つをって聞いてるの」

「なんとなくだよ。しいて言うなら、今まで触れなかったスキルで、あと消費ポイントが少ないという括りもあるけど」

 全部3Pだ。


魔法耐性  3P(敵の魔法が直撃してもダメージは70%カットされるよ!)

肉体修復  3P(手足が千切れ飛んでも大丈夫!1秒で生えてくるよ!)

魔法防御  3P(火炎魔法Ⅰと爆裂魔法Ⅰを1秒間だけ完全無効化するバリアを出せるよ!詠唱0秒!)


「ふぅん。図らずもってわけね」

「?」

「あんたが挙げた3つのスキルには、もうひとつ共通点があるわ。3つともが防御系だってことよ」

「防御系?」

「耐久系って言った方が良いかもね」

「分かるけど、それが?」


「『魔法防御』なんかが露骨だけどさ、この3つとも、攻撃魔法Ⅰへの対抗手段みたいなもんでしょ。攻撃魔法Ⅰは威力が小さい。だから、『魔法耐性』でダメージを70%カットなんてされたら1発では どうやっても倒せなくなるでしょうし、『肉体修復』を持っている敵には1秒で復活されてしまう。ランク2以上のモンスターはスキルを使うってことが分かっている以上、耐久系スキルのせいで、攻撃魔法Ⅰは心理的に取得し辛くなっているのよ」


「心理的にっつーか、実際に効果激減なんじゃ?」

「それでも数で押せば何とでもなるから、他のPTと連携して一斉に撃てば良いんだけど、まあ、攻撃魔法Ⅰを取得しているPTなんてほとんど無いでしょうね。だいたい、そんなことをするくらいなら各PTが攻撃魔法Ⅲを撃った方が良いわけだし」


「あのさぁ、俺って本当に『爆裂魔法Ⅰ』を取るべきなんかな? 他のスキルも視野に入れるべきじゃないか?」

「たとえば?」

「『魔法防御』とか」

「はあ?」

「ほら、『詠唱省略』スキルでバリアを瞬時に出してさ、盾役として活躍するっつーか、盾で成り上がるっつーか」

「あのさ、『魔法防御』の説明文をもう一度 読んでみたら?」

「ん?」


魔法防御  3P(火炎魔法Ⅰと爆裂魔法Ⅰを1秒間だけ完全無効化するバリアを出せるよ!詠唱0秒!)


「ああ……『詠唱省略』スキルが無くても『魔法防御』だけは無詠唱で使えるのか……」

「あんたは馬鹿なんだから、もう何も考えない方が良いんじゃない?」

「真顔で言うな」


「心配しなくても、『爆裂魔法Ⅰ』はちゃんと使えるわ」

「ランク2のモンスターには効かないんだろ?」

「別にランク2だからって、すべてのモンスターが耐久系スキルを持っているわけじゃないでしょ。『火炎魔法Ⅲ』を撃とうとするモンスターを狙い撃ったり、『身体能力Ⅲ』を持つモンスターに連射したり、そういう時なら耐久系スキルを使われることは絶対にないんだから、ダメージは100%通るじゃないの」

「なんで絶対に使われないんだ?」

「いや、なんでって……。少しは考えたらどうなの? モンスターにもスキルポイントによる制限はあるでしょ」


「ええっと」

 関係するスキルは5つか。


身体強化Ⅲ 7P(身体能力がとてもとても上がるよ!)

火炎魔法Ⅲ 7P(学校の教室くらいが範囲だよ!長々と標的を焼き続けるよ!)

魔法耐性  3P(敵の魔法が直撃してもダメージは70%カットされるよ!)

肉体修復  3P(手足が千切れ飛んでも大丈夫!1秒で生えてくるよ!)

魔法防御  3P(火炎魔法と爆裂魔法を1秒間だけ完全無効化するバリアを出せるよ!詠唱0秒!)


 『火炎魔法Ⅲ』と『身体強化Ⅲ』のスキルポイントは7。

 で、『魔法耐性』も『肉体修復』も『魔法防御』も、それぞれ3ポイントが必要と。


「ランク2のモンスターはスキルポイントが9しか無いから、『火炎魔法Ⅲ』か『身体能力Ⅲ』のどっちかを取得したら、残り2ポイント。耐久系スキルはギリギリで取れないのか」

「そういうことよ」

「助かった。まだ運はあるな」


 俺の言葉につばさが反応した。

「運ではなく、必然。ランク3のボスは10Pが使えるのに、ランク2のモンスターは9Pだけ。これが偶然だとは思えない」

「『火炎魔法Ⅲ』を狙撃で止めたり、『身体能力Ⅲ』のモンスターを散弾で仕留めたり、そういう『詠唱省略』の使い道は最初から想定されていて、だからこそ、ボス以外のスキルで阻害されないように設定されている? そんな感じか?」

「おそらくは」

「マジか」


 今まで思っていた以上に『詠唱省略』は重要なスキルなのかもしれない。

 少なくとも、敵の『火炎魔法Ⅲ』を狙撃で止める役目は攻略に必須なんじゃないだろうか。

 『モンスター情報』にあるこの記述も一連の考えを裏付けているように思える。


・モンスター同士で連携を取ったりはしないよ!


 耐久系スキルを持ったモンスターが、『火炎魔法Ⅲ』を持つモンスターを守ったりしてきたら、俺の狙撃は機能しなくなるわけだが、そんな心配は無用というわけだ。


 つばさは「でも」と続けた。

「狙撃や散弾用の設定だと決め付けるのは危険。私たちが気付いていない別のスキル使用法が関わっている可能性も否定できない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ