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第06話 委員長の作戦

 俺たちは自分の教室に戻った。


 何人かのクラスメイトが泣いていた。

 現場を目撃した野次馬によって教室炎上事件は学校中に知れ渡っていることだろう。


 俺は教室の隅を見た。

 『火炎魔法Ⅲ』を使った張本人とPTメンバーがそこで震えている。


「あいつらはなんで燃えてないんだ?」

「スキルを使った本人とPTメンバーには効かないのだと思う」

 答えたのはつばさだった。


 舞は3人組を睨み付けている。

「よくもまあ、自分たちだけおめおめと生きていられるものね。同じ空間に居るだけで吐き気がするわ」

「お、おい、もっと声を抑えろ。向こうに聞こえたらどうする」

「直接 言ってやりたいくらいよ。これでも我慢してるんだから褒めて欲しいわね」


 放火魔3人は、うちのクラスの女子に慰められていた。

 どうやら知り合いらしい。そういえば、あいつらはみんな女子バスケ部だったような気がする。

 現場から離れたこの教室に放火魔たちが来ているのはこれが理由か。

 隣の教室だと体育の授業が合同で顔見知りばかりだから、色々問題が起こりそうだしな。「○○ちゃんを返してよ!」みたいな。


 まあしかし、炎上した教室に誰ひとり知り合いが居なくても怒っている奴が俺の隣に座っているわけだが。

 舞なら本当に直接 文句を言いかねない。


 しょうがないから放火魔を庇ってやるか。

「別にあいつらだって、燃やしたくて燃やしたんじゃないだろ。試しにちょっとやってみたってだけなんじゃねえの」

「そんなところでしょうけど、焼き殺された方は堪らないわ。あたしたちが被害に遭わなかったのはたまたまなのよ」

「それを言うなら、俺たちが放火する側になっていた可能性だってあるだろう」

「あんたなんか特にやりそうよね」

「…………」


 つばさがポツリと言う。

「でもこれで、重要なことが分かった」

「重要なこと? ああ、PTメンバーには自分たちの魔法が効かないってことか」

「違う。スキルが実在するということ」


 つまり、モンスターも実在する、と。

 そう言いたいわけだな。


 舞が肘で俺を突いた。

「翔太、早くなんとかして」

「なんとかって言われてもな。どうしろと?」

「あんたが自分で考えなさいよ」

 無理くりで俺に責任を負わせる舞のいつものスタイルも さすがに弱々しかった。


――――


 委員長がポニテを揺らしながら教室に帰ってきた。

 先生を捜しに行っていた彼女だが、どうも見付けられなかったらしい。出迎えた女子連中に謝っている。

 炎上事件は知っているようで、委員長の顔は険しかった。


 女子連中との会話を早々に切り上げると、彼女は教壇に立って、全員に向かって呼び掛け始めた。

「先生を見付けることはできませんでした。ひとりもです。なので今は、私たち生徒が問題に対処しなければなりません。団結して立ち向かいましょう」


 普段からクラスを仕切っているだけでなく、女子ソフトボール部のキャプテンもしているからか、委員長の声は張りがあって頼もしい。


 しかし男子のひとりがヤジを飛ばした。

「立ち向かうって何だよ! モンスターと戦うって言うのかよ! 馬鹿か!」


 せっかくクラスをまとめようとしている委員長に対して馬鹿とは何だ。

 お前は舞かよ、と心の中で突っ込んでおく。


 当の舞は「まったく、文句だけは一丁前ね」とか何とかブツブツ言っている。

 聞き流しておこう。


 委員長は毅然として言い返す。

「戦わないということは、逃げるということですか? モンスターがどこから来るか分からないのにですか?」

「…………」

「学校内ならば話は別です。スマホの説明を信じるなら、モンスターの侵入ルートはふたつに限定されます。正門と裏門。このふたつに絞って待ち構えることが可能であるのなら、有利な条件をわざわざ捨てることはありません。闇雲に逃げてモンスターに囲まれるよりもここで戦う方が賢明です」


「こんな得体の知れないスマホを信じられるかよ!」

 その男子は苦し紛れに反論してるっぽいが、問題の本質に迫ってもいた。


「説明が正しいという前提で行動した方が生存率は高い。私はそう考えます」

 生存率……。

 現実的で嫌な言葉だ。

 だからこそ委員長は口にしたのだろう。

 事実、ヤジ系男子は黙り込んだ。

 不満はあるが、これ以上の反論をする気にはなれない。そんな感じか。


「作戦はあります」

 教室内の誰もが委員長の次の言葉を待った。張り詰めた空気が俺にそう思わせた。


 委員長はそれを察してか、たっぷりと間を置いてから言った。

「一万匹のモンスターを倒すのではなく、学校という防衛拠点を守る。そういう意識で戦うのです。先程も言ったように、防衛すべきは正門と裏門の2ヵ所。まず裏門は、かなり狭いので、『氷結魔法Ⅲ』による完全封鎖を試みます。先ほど廊下を歩いている時に、『氷結魔法Ⅲ』が実際に使われているところを目撃しました。氷の壁の大きさから考えて、裏門を塞ぐことは充分に可能だと言って良いでしょう。これが成功したら、正門に戦力を集中できます」


氷結魔法Ⅲ 7P(氷の壁を作れるよ!30秒で溶けるよ!重ね掛けできるよ!)


「委員長さぁ……」

 ギャル風の女子が口を挟む。

「氷結魔法はレベルⅢでも30秒で溶けるじゃんねぇ? そこんとこ、どう考えてんのぉ?」

 外見だけで判断すると馬鹿そうに見える金髪小麦肌のギャル子ちゃんだが、成績は結構 良い。

 こんな状況でありながら今もそこそこ頭が回っているようだ。


 委員長は質問を予想していたようで、淀みなく答えた。

「複数のPTがローテーションで常に氷の壁を作り続けるのです。スキル説明では『重ね掛けできる』とあります。なので、MPが尽きない限り、途切れさせることなく裏門を封鎖できるはずです」


「でもぉ、MPは7使うわけでぇ、7分の休憩が必要なわけでぇ、『魔力供給』か『魔力吸収』を使えば待ち時間は半減するけどぉ、結局それなりの人数が必要になるでしょぉ?」

 いちいち語尾を伸ばすギャル子ちゃんの喋り方は鬱陶しいけれど、別に委員長を馬鹿にしているわけではない。

 普段からこんなもんだ。


「確かに、かなりの人数を割くことになると思います」

「正門に戦力を集中するんじゃなかったのぉ?」

「役割分担です。正門では激しい戦いが予想されるので、戦意の高いPTに行ってもらいます。戦うのは無理でも防衛に貢献するつもりのあるPTには裏門に行ってもらいます。結果、正門に集まるのは精鋭となり、実質的な戦力集中というわけです」

 委員長は言葉を選んでいるが、つまるところ、正門の戦いを避けて裏門の封鎖に参加するような臆病連中なんて戦力としてカウントできない、ということだろう。


「ふぅん」

 ギャル子はそれ以上 何も言わなかった。

 納得したらしい。

 苦笑に見えなくもない複雑そうな顔をしているが。


 委員長は続けた。

「モンスターと戦うのも、裏門を封鎖するのも、志願者のみで行います。どちらも嫌なPTに参加を無理強いするつもりはありません。屋上に避難してください」

 この言葉を聞いて、みんな、自分のPTメンバーと目を合わせた。

 お互いの意思を探っているのだろう。


「あと、これも強制ではありませんが、正門で戦う場合、『火炎魔法Ⅲ』の取得を強く勧めます。多勢を相手にするのなら、広範囲を一度に焼ける火炎魔法が有用だと思います。複数のPTで『火炎魔法Ⅲ』を次々に撃てば、それだけでモンスターの足を止めることも可能なはずです。異論のある人は居ますか?」

「…………」

 誰も手を挙げなかった。

 ギャル子も腕を組んだままだ。


 最大火力である『火炎魔法Ⅲ』が やはり戦闘の要になるのだろうか?

 しかしクエスト成功率0.01%というのが気になる。

 『火炎魔法Ⅲ』の連発なんて誰でも思い付きそうな普通の作戦でクリアできるとは思えない。


 まあ、委員長も承知の上なんだろうけど。

 妙案が浮かばないなら正攻法で挑むしかない。


「私はこれから他のクラスにこの考えを伝えてきますが、その前に整理します。封鎖に参加するPTは裏門へ。戦いに参加するPTは正門へ。どちらも無理なPTは屋上へ。以上です」


 言い終えると委員長はポニーテールを翻しながら教室を出て行った。

 これまでの流れを見る限り、まだPTを組んでいないはずだが、そんなことは気にもしていないらしい。

 指揮官として動こうとしている彼女には、兵士としての力なんて必要ないのだ。

 なんとも頼もしいクラスメイトである。

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