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たったひとつのシンプルな攻略法  作者: 千代田ちとせ
第四章 妹(陰)編
34/35

第34話 運命共同体

 クエストをクリアしても元の世界に帰ることはできなかった。

 それからも新たな集団が次々に転移とクエストを強制され、私はその間、現場近くで待機させられた。


 9999匹のモンスターが始末されたら私の出番になる。

 つまり一万匹目のモンスター役を演じさせられるのだ。

 例のスマホで命令されて。


 モンスターの数が9999という中途半端な数字になっていたのは、初の攻略者をボスに据える前提だったからのようだ。

 プレイヤー同士を殺し合わせたのも、攻略者をひとりに絞るための都合でしかなく、本来はボス戦が行われるもの なんだとか。

 で、私がボスになったというわけである。


 思えば、プレイヤーも死ねば消滅するし、PTを全滅させればレベルが上がるしで、ほとんどモンスターと同じ扱いを受けていたのだから、それを考えると、この結果も さほどおかしくはないのかもしれない。


 私は従順に待機し続けた。

 スマホの命令に抗う方法を模索することもなく。


 そうしなければ自分が抹殺されるという事情もあったけど、黙って従う方が楽だと気付いてしまったというのもあった。


 率直に言って疲れた。

 由美子PT全員を殺し、初美を殺し、くーちゃんを殺し……。

 疲れ果てた。


 初美を殺した時点で不安定になっていた私の精神は、くーちゃんを殺したことでついに限界を迎えてしまったのだった。

 そんな状態で異世界に ひとりきりなのだから堪ったものではない。


 遠方には人間の村があるらしいけど、クエストのボスである私に遠出は許されなかった。


 言われるがまま孤独な待機を続けていると、本当に自分がモンスターになってしまったようにも思え、妄想に取り憑かれることもあった。

 もしかしたら私は、プレイヤーの記憶を植え付けられただけで、最初からモンスターのボスだったんじゃないか、なんて思ったり。


 こうなると、スマホの命令に逆らおうとか帰還の道を探ろうとか、そんなこと、とてもじゃないが考えられない。

 窮地に陥っても泣くばかりだった くーちゃんの気持ちが今なら理解できる。

 異常な状況で行動を起こすのは、それだけで かなりの気力を必要とするものらしい。


 死ねば楽になれるのに。

 最近はそのことばかり考えてしまう。


 けど、自分で自分を殺す気にはなれなかった。

 自殺なんてしたら今までの犠牲は何だったのかという話になる。

 いやそれは自己正当化というものか。

 楽になりたいと思っている一方で、消えたくないとも思っているのだ、私は。


 将来どんな道に進もうと自分なら世界的偉業を達成できると信じていたし、強く望んでもいた。

 私の影響を受けた人たちが、さらに後の世代に影響を与えていけば、いつまでも私の存在は無にならない。

 そうなってこそ 生まれてきた意味がある。

 しかしこの世界で死ねば、死体すら残らず消滅し、存在自体が無かったことになってしまう。

 それを避けたいがために私は流れに身を任せ、醜く生き続けているのである。


 いっそ他のプレイヤーに負けられれば、と思う。

 自殺には抵抗があるけど、誰かに殺されるのなら諦めも付く。

 ボス戦まで辿り着くようなメンツが相手なら、私と言えども敗北の可能性はあるだろう。


 とはいえ、スキルは強化されてるんだけど。

 ボス役を課された際、元々持っていた『身体強化Ⅲ』と『爆裂魔法Ⅰ』に加えて、『詠唱省略』を与えられた。

 超人的な体術と無詠唱。実にボスらしいスペックだ。

 モンスター側に組み込まれたため、クエストごとに1回しかアクティブスキルを使えなくなってしまったが、強力なスキル構成であることに変わりはない。


 さらにボーナスも与えられた。

 複数の候補から ひとつを選ぶという形式で、スキル『肉体修復』を取得できたり、プレイヤー側に制限を加えられたり。


 戦略的に考え抜くべきではあったが、スマホに送られてきた選択肢を見た瞬間に私は即決した。


・PTは運命共同体だよ! PTメンバーがひとりでも死ぬとPT全員が死ぬよ!


 これだ。

 自分で殺しておいて なんだけど、初美とくーちゃんが生きていたら どれほど心の支えになることか。

 この選択で私自身が救われるわけではないし、ふたりが生き返るわけでもない。しかし それとは関係なく、PTは運命共同体であるべきだ。見知らぬプレイヤーであろうと誰であろうと。

 心からそう思う。

 ただの感傷だが、迷いはなかった。


――――


 どれくらい待ち続けたか分からなくなった頃、ようやく出番が来た。

 9999匹を片付けたPTが現れたのだ。


 戦闘の簡単な経緯はメールで知らされた。

 プレイヤーが取得したスキルや、その使用方法など。

 適当に読み飛ばすつもりだったが、途中で手が止まり、最初から読み直すことになった。


 私の攻略法は、他のプレイヤーがスキルを取得し始める前に案を提示することが必須条件であり、最初の数分を逃したら もう手遅れになる。

 今回の攻略PTは動き出すのが やや遅く、この作戦を使えなくなっていた。おそらく彼らは途中で そのことに気付き、絶望的な気持ちになっただろう。

 しかし諦めることなく別の策を編み出し、9999匹のモンスターを見事に殲滅した。


 この方法には私ですら全く気付かなかった。

 まあそれは不要だったからで、もし出足が遅れていたら他の手段を考えるしかなく、そしたら思い付いていただろうけど。


 それにしても、初動をミスった時の救済策が用意されていたとは驚きだ。

 と言うか、システム的には むしろそっちが正攻法なのか。

 私の攻略法は、超越的な順応力と異常な高速思考の合わせ技であり、プログラムの隙を突いた裏技みたいなもの なんだろう、きっと。


 あと もうひとつ、気になったことがある。

 なぜか、今回限りという但し書き付きで私に新条件が加えられており、時間制限が1分になっていた。

 突撃から1分が経つまでにプレイヤーを全滅させないと私は死ぬらしい。

 1分て。

 勝敗は瞬時に決まるから、大したことじゃないようには思えるが……。


――――


 生き残っているのは1PTのみ。

 舞台は学校。

 しばらく待ってから、指示された時間通りに私は突撃した。


 校門を抜けた辺りで俯瞰モードをオンにして、校舎入り口近くのPT4人組を目視する。

 どうやら、男が前面に立って私を迎え撃とうとしているようだ。


 しかし他の3人が何もしないとは限らない。

 警戒のため意識を向けておく。

 俯瞰モードの今なら4人全員の動きに注意することができる。


 私は高速移動から急ブレーキを掛け、前面の男に右腕を突き出した。

 『爆裂魔法Ⅰ』を撃つ、フリだ。


 ボス戦まで到達するようなPTなのだから、当然、30分の待機時間で速射への対策を練ったに違いない。

 その筆頭候補が『魔法防御』。

 こっちは突進を止めてから撃たなければならないのだから、向こうは『せーの』でタイミングを合わせることができる。

 これなら確かに速射を防げるかもしれない。


 であれば私が やることはひとつ。

 フェイクでタイミングを外す。


 狙い通り、私の動きに釣られた男は、目の前に赤いバリアを展開させた。

 1秒後にあれは消える。

 まず間違いなく男は慌てて再度のバリアを張ろうとするだろう。

 私は男より先に『爆裂魔法Ⅰ』を叩き込めば良い。


 早撃ち対決なら勝ったも同然。

 『身体強化Ⅲ』を持つ私が反応速度で負けるわけがない。

 相手はフェイクで虚を突かれているはずだから尚更だ。


 しかし……。

 どうにも不気味な感じがする。

 男の様子からは焦りが感じられない。

 俯瞰モードでも そういうのは薄々伝わってくるはずだけど。


 まさか、フェイクを読まれていた?

 有り得なくはない。

 だが それでも、早撃ち対決となれば向こうの不利は否めないはず。

 なのに、あの自信に満ちた雰囲気は一体どうしたことか。


 疑問を抱えたまま私は『爆裂魔法Ⅰ』を撃った。

 別に、それが原因でタイミングが遅れたとは思わない。

 むしろ問題は、1回しか撃てないせいで男の頭を確実に狙わなければ ならなかったことだろう。フェイクが通じず逆にこちらが余計なことを考えてしまったというのもある。あと、あまり自覚はないけど、フェイクの動作自体に多少は意識を持っていかれたかもしれない。


 それに。

 男の後ろでは、女ふたりが私に向けて手を伸ばしていた。

 まるで攻撃魔法を撃とうとしているかのような動きだ。

 スキルポイントを考えると速射は撃てないはず。見せ掛けだけに決まっている。

 だから何の脅威にもならないが、こうした判断に僅かでも思考を割かせること自体が彼女たちの狙いなのだ。


 勝敗のポイントは他にも複数あるが、最も大きかったのは、男の集中力が全く揺るがなかったことだろう。


 身体強化スキルを持っていないはずのに臆していない理由は謎だが……。

 仲間の存在に支えられて、とか?

 もしそうなら、私と彼らは対極の存在であると言える。


 早撃ち対決は、再び発動した『魔法防御』に『爆裂魔法Ⅰ』を防がれ、私の敗北で終わった。

 この後の展開は完全に予測できる。

 他にできることはない。


 絶体絶命の状況下で思い出すのは何故か お兄ちゃんのことだった。

 あの鬱陶しい頭ナデナデも今となっては良い思い出だ。

 もう、お兄ちゃんの手を振り払うことはできないらしい。


 気持ちが切れたせいか、意識せずとも俯瞰モードがオフになった。

 赤いバリア越しに男の表情がハッキリと見える。

 その顔は見慣れていて、懐かしくて……。

 って、え?


 お兄ちゃん!

 思わず心の中で叫んでしまう。


 お兄ちゃんも私を見て驚いているようだった。

 しかし すぐに『火炎魔法Ⅲ』の詠唱を始めた。

 単純に目が合って戸惑っただけらしい。


 ああ、そうだ。今の私は、プレイヤーそれぞれが抱く理想の異性に見えているんだった。

 メールにそんなことが書いてあった。


 きっと、お兄ちゃんからすると、私の姿は つば姉に見えていることだろう。舞姉はないと思う。

 近くに立っている委員長風のポニーテールという可能性なら、まあ無くはないか。


 とにかく。

 お兄ちゃんのところへ駆け寄ろうとした私にポニテが横槍を入れてきた。

 彼女の手には金属バット。


 私も金属バットで応戦した。

 明らかにこっちの方が強いけれど、瞬殺できるほどの差はない。

 これでは時間制限を迎えてしまう。

 いや『火炎魔法Ⅲ』の詠唱完了が先か。


 このままポニテと打ち合っても丸焼けになるだけだが、ルール上、逃げ出すことはできないのだった。

 殺すか死ぬかの二択しかない。


 つば姉と舞姉は、困惑した顔をお兄ちゃんに向けていた。

 本当の姿が見えなくても私の様子を見て正体に思い至ったらしい。

 とはいえ推測でしかなく、そのせいか お兄ちゃんに言い出せないでいるようだ。


 つば姉と舞姉の態度から結局お兄ちゃんも勘付いたみたいだけど。

 明らかに動揺していることから それが分かる。


 ただ、詠唱は中断されなかった。

 まだ迷っていそうな感じはするけども、100%の確信がないのに危険は冒せない、みたいなことを考えているのだろう。

 表情を見るに、つば姉と舞姉も似たような考えらしかった。


 正しい判断だ。

 攻撃の手を緩めて反撃を食らったりしたら取り返しが付かないわけだし。


 ひとりでも死ねばPT全滅という設定がお兄ちゃんたちを より慎重にしているというのもあるだろう。

 寂しくは思うが、それで良い。

 導入したのは私自身だけど後悔はない。

 PTは運命共同体であるべきだ。


 お兄ちゃんたちの攻略法にも無意識下で影響を及ぼしたに違いない。

 あの作戦はPT全員の協力で成り立つものだから、運命共同体という認識が攻略法の発想に重要な役割を果たしたはず。


 突き詰めれば、私の足掻きも無駄ではなかったということになる。

 あの選択は、私が苦しんだ結果であり、教訓でもある。

 私はここで死ぬけれど、お兄ちゃんたちが生きている限り私の影響は残る。


 生き残ったお兄ちゃんには舞姉と つば姉が居て、あとついでにポニテも居て。

 そういう状況であれば、私と同じ道を辿ることはないだろう。

 運命を共にする仲間と支え合っていける。


 死が目前に迫っているにもかかわらず私は満足していた。

 何も成せないまま終わると思っていたのに、意外な形で報われたのだ。

 元々望んでいた世界的偉業に比べれば ずっと小さな影響だけど、今の私には僅かな希望でも充分だった。

 これで足を止められる。

 もう休もう。

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