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たったひとつのシンプルな攻略法  作者: 千代田ちとせ
第四章 妹(陰)編
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第31話 全裸水泳

 くーちゃんは蹲って泣いていた。

 私は彼女に近寄り声を掛ける。

「ごめんなさい。私のせいだわ」

 本当なら『事故だったのは分かるでしょ?』と言いたいところだが、やめておいた方が良いだろう。


 くーちゃんは顔を手で覆ったまま、ふるふると頭を横に振った。

 どうやら私を責めるつもりはないらしい。

 ひと安心。


 先を見通すことにおいては並外れている私でも、先程の初美のように、他人の思考については読み切れないところがある。

 だから、くーちゃんの本音を掴めているとは限らないが、とりあえずのところ、いきなり襲い掛かってくることはないと判断して良いだろう。


 残りMPを1にしておいたのが効いたのかもしれない。

 今の私は無力なので、くーちゃんの恐怖心を無駄に煽ることはない。


 清田くんに連射したのは、確実に仕留めるためだけではなく、私自身を無力化するためでもあった。


 くーちゃんには『危険感知』があるから奇襲は通じないし、『身体強化Ⅱ』があるから速射は避けられる恐れがある。私のMPが満タン状態で連射が可能ならともかく、残りMPが4では分が悪い。

 そこで、どうせ勝ち目が薄いのなら、即時の戦闘を避ける方向に全力を注ごう、と思ったわけである。

 元から低い確率であっても、念を入れ さらに下げておくに越したことはない。


 幼馴染みの くーちゃんに襲われるなんて想像できないけれど、現実問題、そうなる理由は存在する。

 初美の爆死によって精神的に参ってしまうとか、私に不信感を抱くとか、そういうのもあるが、より重大なのは次のクエストの存在だ。

 有るとも無いとも言われていないものの、最後の思わせぶりなメール内容からして、考慮はしておくべきだろう。

 で、その場合、レベル2以上のPT同士で殺し合わせることがあったのだから、PTメンバー同士で殺し合わせることだって有り得るわけで。

 くーちゃんがそこまで考えたとしたら、クエストを待たず先手を打ってくる可能性がある。

 私の連射能力は くーちゃんにとって脅威だろうから。


 相手のスキルが脅威なのは、私からしたって同じなんだけど。

 くーちゃんに不意打ちされたら どうにもならないだろう。


 仮に、MP満タン状態で正面から戦うのなら、これはもう正直言って予測不可能だ。

 どっちが勝ち残っても おかしくない。


 ただし。

 私の意図する状況で戦うのなら、勝率100%とは いかなくても、90%以上には引き上げられる。

 『危険感知』なんて、せいぜい2秒前か3秒前に攻撃を察知する程度でしかないのだから、くーちゃんが無警戒である限り対処法はある。

 そのための布石も打ってあることだし。


 寝込みを襲えば作戦を練るまでもなく楽勝だが、夜まで待ってはいられない。

 いつ次のクエストが始まるか分かったものではないし、考える時間を くーちゃんに与えることにもなる。

 どう考えても悪手だろう。

 彼女が危機感を抱き始める前に処理すべきだ。


 まずは優しく語り掛けるとしよう。

「こんなとこにずっと居るわけにもいかないし、ほら、中に入ろう?」


 くーちゃんは泣くばかりで動こうとしなかった。


 仕方ないから私は彼女の腕を掴み、ゆっくりと引っ張って立ち上がらせた。

 そのまま手を引いて校舎入り口に向かう。


 ……なんか、あれだ。

 ぐずる友達を連れて登校する小学生になったような気分だ。

 昔そんなことが何度かあったような気がする。相手も同じ くーちゃんで。

 あんまり覚えてないけど。


――――


 くーちゃんを連れて私は屋内プール場に入った。

 体育館3階のプールは、学校ごと転移した後も ちゃんと満杯になっていた。


 校内に誰も居ないと分かっていても、一応、体育館中の戸締まりを確認する。

 なにしろ素っ裸でプールに入るのだから。


 理由はいくつもある。

 髪には砂が付いているし、汗も掻いたし、気分転換で頭をクリアにしたいし。他にも色々。


 私は更衣室で服を脱ぎ、全裸で隣のプール場に移動した。

 くーちゃんには制服姿のままプールサイドで見学してもらう。


 さすがに気恥ずかしさを覚えるが、ここは我慢。

 隠そうとすると情けない感じになってしまうので、何も気にしていないかのように背筋を伸ばしながらプールに入る。


 後は楽だ。水面に体が隠れるので あまり恥ずかしくはない。

 水着抜きで体のあらゆる部分に直接 感じる冷たい水には違和感があったけれど、すぐに慣れた。

 慣れれば それがむしろ気持ち良く感じる。


 すいーっと真ん中辺りまで潜水して、浮上。

 貸し切りプールの解放感を味わう。

 とはいえ、状況が状況だけに、そこまで楽しめるわけではなかった。


――――


 ふたりで更衣室に戻る。

 持参のタオルで体を拭き終えてから私は言った。

「くーちゃんも入ってきたら?」

 ちなみに私だけ未だ全裸。


 服には手を伸ばさず、さらに促す。

「ここで待っててあげるよ。私は壁の方を向いてスマホを弄ってるから。スキル一覧を見直しておきたいし」

「…………」

 くーちゃんは沈黙を続けながらも小さく頷いた。

 入るらしい。


「分かった。別に急がなくても良いからね」

 私は内心で ほくそ笑んだ。

 作戦上、くーちゃんにはプールに入ってもらった方が良い。


 くーちゃんをグラウンドに押し倒して砂まみれにした時、飛来する矢を恐れて過剰反応したかのように装ったが、本当は このためだ。

 さっき一緒にプール場に入って全裸水泳を見学させたのだって そう。誰にも見られることなく体を綺麗にできるという当たり前の提案を、実際より魅力的に見せるため。

 私がまだ全裸なのも、ここで服を脱ぐことに対する くーちゃんの抵抗感を和らげるため。


 ひとつひとつは些細なことに過ぎないけれど、積み重ねれば そこそこ確率を上げられるだろう。

 それでも結局は運次第だが、どうやら賭けには勝てたようだ。


「じゃ、待ってるから」

 私はパイプ椅子に腰を下ろし、さっきの言葉通り、壁の方を向いて自分のスマホを弄った。全裸で。


 そのうち、衣服の擦れる音が後ろから聞こえてきた。

 ちゃんと脱いでくれているみたいだ。


「行ってくる……」

 まともな声を聞いたのは久しぶりのように感じた。


「うぃ」

 私は壁を向いたまま、いつも通りの気楽さを意識しながら応えた。


 ぺたぺたと背後で足音が鳴る。

 それが遠ざかっていき、やがて、かすかな水音がした。


 どれどれ。

 ドアの隙間から覗き見て、くーちゃんがプールに入っているのを確認する。

 よし。ここまでは予定通り。


 作戦開始。

 残された制服に手を伸ばし、くーちゃんのスマホを取り出す。


 くーちゃんのスキルを勝手に変えてしまえば こっちのものだ。

 由美子PTを倒してレベルアップしているので、スキル再取得は いつでも可能になっている。


 スキルは何を選択すべきか。

 『危険感知』さえ無ければ不意打ちの速射で葬れるのだから、言っちゃえば何でも良いんだけど、万全を期して『無限魔力』を取らせようか。

 これ単体なら持っていても完全に無力だ。無限魔力だけに。


 初美が取得済みのスキルではあるが、消滅後の今なら、同じPTのメンバーでも取得できるかもしれない。

 試してみる価値はある。


 って、あれ?

 いくら触っても全く反応がない。

 他人のスマホは操作できないということ?


 …………。

 まあ良い。

 こんなやり方で殺せてしまったら卑劣にも程があるし。


 オーケー。問題ない。

 プランBに移行するだけだ。

 くーちゃんからしたら、卑劣な手段であることに変わりはないだろうけど。

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