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たったひとつのシンプルな攻略法  作者: 千代田ちとせ
第四章 妹(陰)編
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第30話 急転直下

 初美の説得に うんうんと頷いたり、柊くんの命乞いを聞き流したり、青ざめている くーちゃんを励ましたり、そんなことをしているうちに10分が経過した。

 残り20分。


 この10分間は無駄ではなかったと思う。

 初美は すっかり警戒を解いており、くーちゃんと何やら話している。

 柊くんは私の前方8メートルの距離。初美たちは私の右斜め前方に2メートル。

 これならやれる。不意打ちで片付けてしまえば良い。一瞬で終わる。

 実行しよう。


 私がそう思った途端、くーちゃんが言った。

「撃たないで!」

 普段 控え目な彼女にしては大きな声だった。古武術の道場 以外では初めて聞く音量かもしれない。

 それだけに緊急性が初美にも伝わったようだ。

 初美は私を振り返り、その勢いのまま足を進めようとしていた。


 反対に、私の方は瞬間的ながら硬直していた。

 そんな馬鹿な、という思いがあった。

 こっちはまだ動き出していないのに、何故くーちゃんは確信を持って声を上げた?

 スキル『危険感知』のおかげ?

 でも、柊くんはPTメンバーじゃない。なのに、どうして彼の危険を察知できた?


 動揺のせいか頭が回らない。

 自覚できるくらいだから相当に鈍っているだろう。

 集中力の問題で俯瞰モードにも入れなかった。


 とはいえ、気持ちが落ち着くのを待ってはいられない。

 殺意はもうバレた。

 いま止められたら、残りの20分間、くーちゃんも初美も二度と油断しないに違いない。

 チャンスは この瞬間にしかない。


 今すぐ撃たなければ。


 私は右手を柊くんに向けた。

 彼は未だ正座中。

 初美が邪魔さえしなければ仕留められる。

 即座に爆裂をイメージ。


 結果は最悪だった。

 動揺した上で先手を争う状況下では これほどまでに頭が働かなくなるものなのか。

 あるいは私のメンタルに問題が出ているのかもしれない。

 いずれにしろ、まともに思考さえすれば避けられた事態だ。


 初美は、私と柊くんの間に割って入り、『爆裂魔法Ⅰ』の直撃を受けて倒れた。

 そして すぐに消滅してしまった。


 何故そんな無茶をしたのか、私には全く理解できなかった。

 それほどまでに柊くんが大事だったというわけではないだろう。イケメンだから惚れていたとしても不思議ではないけれど、いくらなんでも、彼のためなら死んでも良い とは思っていなかったはず。


 なら、私が攻撃を止めると踏んだ上でのことだろうか?

 直前に何の警告もなく斜線を塞がれて瞬時に反応なんて できるわけないのに。

 スポーツは得意だけど、常人の範疇を超えた覚えはない。神懸かり的な反射神経を期待されても困る。


 それとも、標的にしか爆裂は発生しないという原則を信頼してのことだろうか?

 確かに、私の認識が柊くんに向いたままだったなら、おそらく不発になっていただろう。それか柊くんに当たっていたか。

 しかし私は、爆裂のイメージを形成しながら目の前の障害物に意識を向けてしまった。

 その結果がこれだ。

 こうなる可能性を初美は少しも考えなかったのだろうか。


 いや そもそもの話、咄嗟の行動に論理性を求めるのは間違っているか……。


 いずれにしろ、今さら初美の心情を推し量っても無意味だろう。

 もう確かめようがないんだし。


 一方で、くーちゃんの『危険感知』が発動した理由は明白だ。

 柊くんの危険を感知したのではなく、初美の危険を感知したのだ。


 しかし、だとすると。

 初美はくーちゃんの言葉を受けて動き出したのだから、もし『危険感知』が無ければ全く間に合っていなかったはずで、その場合は爆死することもなかったはず。

 なので、くーちゃんが感知したのは、『危険感知』が生んだ危険ということになる。

 訳の分からない理屈だが、スキルの原理が不明な以上、考えても仕方ないか。


 とにかく、理論上は有り得たこの結果を事前に予測していれば こんなことにはならなかっただろう。

 くーちゃんが大声を上げた時点で気付くべきだった。

 動揺だの状況だのを言い訳にしても意味がない。初美を殺した事実は変わらない。


 反省。

 原点に立ち返ろう。

 どんな状況でも常に最善手を模索し続ける。

 それこそが私の持つ最大の武器だ。


 ならば どうするか。

 今はミスを悔いる時ではない。初美の死を嘆く時でもない。

 柊くんも くーちゃんも呆然としている現状、最善手は決まっている。


 コンマ数秒で精神的に立ち直った私は柊くんに狙いを定め直し、『爆裂魔法Ⅰ』を撃った。

 万一に備えて連射する。


 親友を自らの手で葬った直後だと言うのに、爆裂は2発とも外れることなく柊くんの頭部を襲った。

 突き出している右腕も震えていない。

 自分のことながら、惚れ惚れする切り替えの早さだ。

 ただ、何かに まとわり付かれているような気持ち悪い感覚が胸の奥にあるけれど……。


 柊くんは即死だったようで、爆風が薄れる前に体の方が先に消滅した。


 それから間もなくスマホにメールが届いた。


『おめでとう! レベルが3に上がったよ! しばらく休んでて良いよ!』


 まだ何かあるかのような含みを持たせた言い回しが気になったけれど、直近の問題は、くーちゃんが現状をどう捉えているかだ。

 スマホから顔を上げて くーちゃんの方を見るには勇気が必要だった。

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