第29話 先手必勝
スマホを操作する。
レベルアップ特典でスキル再取得を選択。
候補のスキルは3つだ。
詠唱省略 7P(0秒で攻撃魔法を撃てるよ!無詠唱だね!)
爆裂魔法Ⅰ 3P(人間の手足を吹っ飛ばす程度の爆発が起きるよ!)
火炎魔法Ⅰ 3P(人間の全身くらいが範囲だよ!長々と標的を焼き続けるよ!)
対人戦は先手を取った方が勝つのだから、無詠唱は まず必要。
攻撃魔法は二択。『爆裂魔法Ⅰ』か『火炎魔法Ⅰ』か。
威力重視で『火炎魔法Ⅰ』も有りだが、やはり射程の長い『爆裂魔法Ⅰ』の方が使い勝手は良いだろう。
それに、後々のことを考えると『火炎魔法Ⅰ』では具合が悪い。
そんな事態にならないよう祈るばかりだが……。
結論としては『詠唱省略』と『爆裂魔法Ⅰ』になる。
前々から そう考えていた私は即座に このふたつを取得した。
対応速度が勝敗を分ける状況なのは明らかなので、相手が人間だろうと躊躇している暇はない。
最初に狙うべきは、『身体強化Ⅲ』を持つ清田くんだ。
彼に動き回られると非常に厄介。速射でも確実に当てられるとは限らない。
だから最優先で排除する。
集中力が高まった時、私は、一箇所に焦点を合わせることなく視界全体を平等に捉えることができる。
これにより、現場を上から見下ろすような感覚となり、視界内の動きすべての把握も可能になる。
言わば俯瞰モードだ。
代わりに細部が ややぼんやりと見え、今はプレイヤーの性別くらいしか見分けられないが、問題はないだろう。
事前に位置関係を掴んでいるから、誰が誰だか分からなくなる なんてことはない。
由美子PTは まだ誰も戦闘態勢に入っていないようだった。
全員スマホを見て固まっている。
それが普通なのだと思う。一瞬でスキル再取得に動いた私が異常なのだろう。
私は清田くんの頭に向けて右手を伸ばした。
イメージするだけでスキルを使えるのだから、別にそうする必要はないのだけど、この方が しっくり来る。
距離は10メートルも無い。しかも相手は棒立ち。
これなら瞬時に仕留められる。
部隊長同士の意思疎通を名目にして由美子PTを近くに留めたのは やはり正解だった。
さあ集中。
清田くんの頭が弾け飛ぶ光景を脳内に描く。
直後には その通りになった。
もし清田くんが『危険感知』を所持していたら、初撃は回避されたかもしれない。
だが現実の彼は『身体強化Ⅲ』を取得してしまっているため、躱される心配は全くなかった。
いくら身体能力が凄くても不意打ちに対しては意味がない。
私が他のPTに『危険感知』を勧めなかった理由はここにある。
あくまでも保険のつもりだったが、打てる手はすべて打つという この姿勢こそが私と由美子の決定的な違いなのだ。
爆裂が引き金になって、ようやく全員がスマホから顔を上げた。
あとの反応は みんな一緒だ。
ついさっきまで清田くんが立っていた場所をまず見て、そこに何も無いことを悟ると、次に、右腕を突き出している私を見る。
まあ、みんなが見た私の右腕は、清田くんではなく由美子に向けられているんだけど。
この時点で私はすでに由美子へと狙いを変えていた。
仮に、『PTメンバーがひとりでも死ぬとPT全員が死ぬ』なんてルールがあったなら、もうこの時点で由美子PTは全滅ということになるけれど、残念ながらスマホにそんな記述はない。
だから3人とも私が始末しなければならない。
くーちゃんや初美に「殺せ!」と言ったところで簡単に従うわけないし。
由美子は口を少し開いただけで他には何もできず爆死した。
何を言いたかったかは分かる。私でなくても分かることだ。
『待って』とか『やめて』とか、そんな感じの言葉だったに違いない。
今となってはどうでも良いことだが。
続いて私は残りの男に右手を向けた。
イケメンナンバー2の柊くん。
3人目だと さすがに無抵抗とはならず、柊くんは「ひっ」と掠れた声を漏らしながら両手を前へ出した。
腕で防げると思ったわけでは まさかないだろう。おそらく、恐怖による無意識の動きだ。論理的に導き出された防衛手段ではない。
しかし、頭部を狙っている私からするとイメージ構築の邪魔だった。
一瞬のタイムロスでしかなかったが、そのせいで初美の介入を許してしまう。
「待って!」
と、由美子が言いたかったであろう台詞を初美が言った。
私は初美をチラ見した後、『爆裂魔法Ⅰ』を撃った。
だが直前のタイミングで柊くんが崩れ落ちた。『爆裂魔法Ⅰ』が当たったからではなく、腰が抜けたからのようだ。
つまり私の『爆裂魔法Ⅰ』は外れたのだった。
MPが残り1になってしまった私は内心で焦りながらも無反応を通した。
撃っていないかのように振る舞う。
無詠唱のおかげで魔法陣は展開されず、不発だと爆風も爆音も皆無なので、私がリアクションを取らない限り誰にも気付かれないだろう。
私の残りMPは4だと思われている、はず。
「待ってよ、待って!」
初美が私の右腕に すがり付いてきた。
何か策があるわけではないようだ。
ただ感情に従って邪魔をしただけらしい……。
私は努めて冷静に言った。
「クエストをクリアしなければ全員が死ぬ。柊くんは殺すしかない」
しかし初美は引かない。
「まだ30分もあるじゃないの。考えてよ。殺さずに済む方法があるかもしれないでしょ」
「…………」
完全な他力本願に思うところがなくはないけど、初美の懇願は現状だと都合が良い。
受け入れたように装えばMP回復の時間を稼げる。
「結なら何か思い付くって! だから諦めないでよ。あんたに不可能はないんだから」
「諦める?」
なんて、特定のワードが引っ掛かったかのような反応をして、数十秒後の方針転換を自然に見せるための下地を作っておく。
期待通り初美の表情が変わり、畳み掛けてきた。
「そうでしょ、諦めてるじゃないの。助けられるかもしれないのにそれをせず、簡単な解決策に逃げようとしてる。あんた、違うって本心から言える?」
「逃げるってそんな」
「やるだけやってみれば良いじゃない! 30分あるんだから、最悪の選択はそれからでもできるでしょ!」
「…………」
私は初美とくーちゃんの顔色を窺い、その後、腰を抜かしているイケメンくんに視線を向けた。
「柊くん」
「は、え?」
「正座」
言った通りにする確率は そう高くないと思っていたが、柊くんは迷うことなく正座した。
最良の判断ではあるだろう。彼のスキルは『無限魔力』のみだ。速射を持つ私から逃れる術はない。
本当はMPが1しかないから今なら逃げられるかもしれないけど、それでは どのみちクエスト失敗で死んでしまうし。
彼が生き残る唯一の方法は、私がミラクルを起こすことだけなのだ。
こっちに その気はないけども。
考えるべきは一点。どのタイミングで柊くんを始末するか。
30分ギリギリまで待つというのは論外だ。
時間制限が迫れば迫るほど初美もくーちゃんも私の動きを警戒するだろうから、柊くんを処理するのが難しくなってしまう。
時間が経てば初美も理想論を捨てて現実的な選択を考えるかもだけど、もしそうならなかったら困った事態に陥る。
その前に手を打つべきだ。具体的には、残り時間が半分になる前に。
それまではMP回復も兼ねて大人しくしていよう。




