第28話 集中運用
正門前に集まったのは全校生徒の約3割。
これ以上は望めないほどの人数だ。
具体的な作戦案を提示できたのが大きかったと思う。
全体の指揮は、私と由美子で半分ずつを担当する。
私がすべてを掌握した方が良かったけれど、この数ともなると細部に目が行き届かなくなってしまうから、これはこれで有りかもしれない。
かくして殲滅戦が始まった。
推移は完全に想定通りだった。
『無限魔力』のおかげでMP枯渇の心配はないし、この人数ならタイミングが多少ずれても数で押せば良い。
何の憂いもなく次々に『火炎魔法Ⅲ』を撃てる。
正門には常に火炎の波が届き、ほぼ途切れることがなかった。
多少心配していた『火炎魔法Ⅲ』の威力も申し分なく、熱波に触れたモンスターを消滅するまで焼き尽くしてくれた。
モンスターたちは自動処理機に自ら突っ込んでいるようなものだ。
唯一の懸念は士気の低下だった。
いくら作戦が完璧でも、兵士たちが恐れを成せば勝ちようがない。
実際、彼らはモンスターを目にして震え上がっていた。
とはいえ最初の頃だけだ。
100匹ほど殲滅した辺りからは すっかり落ち着いてしまい、安堵のためか次第に笑みが見えるようにもなった。
弛緩した空気に私は若干の不安を覚えたけれど、結果的にこれは、モンスターのレベルが上がることで解決した。
弓矢の脅威によって戦線に緊張が走ったのである。
想定していたことなので私は即座に対応できた。
まあ、事前に『身体強化Ⅲ』を取らせておいた何人かに迎撃を指示するだけだし。
どうやら、竹刀やバットを持った彼らは、矢の軌道を完全に見切って叩き落とせるようだった。
『身体強化Ⅲ』でこの調子なら『身体強化Ⅱ』でも大丈夫だろう。
私はそう判断し、PTメンバーの くーちゃんに『身体強化Ⅱ』と『危険感知』をこっそりと取得させた。
こっそりと。
つまりは、他のPTに知られないように。
くーちゃん以外の各メンバーCには『身体強化Ⅲ』を取らせた。
『身体強化Ⅲ』は7ポイントだから、5ポイントの『危険感知』は もう取れない。
これには当然リスクがある。
『危険感知』が無ければ不慮の事故は起こり得るし、それに伴う全軍の動揺も避けられない。
しかし、あらかじめ備えておけば影響は最小限に抑えられるだろう。
まず、『矢を受けたらPT3人ごと後方へ下がる』と定めておき、周知徹底する。
取り決めを確認させることで各人に負傷時の光景を想像させ、引いては心の準備を促す、という狙いもある。
戦力的には余裕があるので多少PTが抜けても問題はない。
あと、『身体強化Ⅲ』を持つ人たちには、疲労を溜めないよう警戒と休憩を交代で こなしてもらう。
これもまた、戦力に余裕があるからこそ可能なことだ。
もちろん、『危険感知』スキルを他のPTにも取らせた方が確実なんだけど、この先どうなるか分からないのだから、あらゆる事態に対して保険を掛けておくべきだろう。
その一環として、『火炎魔法Ⅲ』の運用にも、本来とは別の意図を持って臨んできた。
他PTに悟られないよう気を遣いながら自分のPTに経験値を片寄らせ、レベルアップを図ったのである。
もし そうしていなければ、経験値が分散して誰もレベルアップできなかったに違いない。
狙いは成功し、私たちのPTはレベル2になった。
PTメンバーである くーちゃんと初美は、スマホでそれを確認しても口には出さなかった。あらかじめ言い含めておいた通り。
誤算は、由美子も自分の指揮で密かに経験値を集めレベルアップを果たしていたことだ。
彼女の場合、今後の保険のためではなく、目先のレベルアップ特典に釣られただけのようだが。
自分のPTメンバーに『身体強化Ⅲ』を馬鹿正直に取らせていたことから、先を考えていないことが分かる。
由美子のPTには男が入っていた。
私たちのクラスが誇るイケメンふたり。ナンバー1の清田くんと、ナンバー2の柊くん。
どちらも私に気があるけど、なかなか接近してこようとせず現在に至っている。
男子のまとめ役を担うふたりにしては消極的な態度だ。他の女子に対しては馴れ馴れしく接しているというのに。
距離を縮めようとしたら私に拒絶されると思っているのかもしれない。
するけど。
――――
『身体強化Ⅲ』を持つ者たちで築いたローテーションの防空体制はそれなりに機能していたが、弓矢による負傷者をゼロにすることはできなかった。
2人が肩と足にそれぞれ矢を受けた。ただ、足の方は かすっただけのようだし、肩の方も致命傷では全くないようだった。
これにより6人が戦線から離脱したものの、前もって決めておいたことなので さほどの混乱はなかった。
それどころか兵士たちの集中力維持に貢献したくらいだ。
もっとも、矢の飛来によって近くのPTに一時的な影響が出ることはあった。
私のPTも例外ではない。
「危ない!」
戦闘中、私はPTメンバーの くーちゃんをグラウンドに押し倒した。
矢が間近に飛んできたので咄嗟に かばった、という感じで。
実際はそこまで近くなかったし、くーちゃんには『危険感知』と『身体強化Ⅱ』があるから、本当に危険なら彼女の方が先に動いていただろう。
『危険感知』の使用感を本人から細かく聞いているので、その特性は私も ほぼ完全に掴めている。
警報が頭の中で鳴り続けるわけではなく、嫌な予感が一瞬するだけらしい。
物理攻撃か魔法攻撃が どこに来るかくらいなら感覚的に判別できるが、それ以上のことは分からないんだとか。
便利なスキルだが無敵ではない。
「ごめんね、大丈夫?」
私は立ち上がり、自分の体に付いた砂を払いながら聞いた。
「う、うん……」
くーちゃんは体中を砂まみれにされながらも特に怒っているわけではないようだった。
大人しい彼女がこれくらいで怒るはずはないが。
こんなんでも古武術の黒帯だから、いざ怒った時は恐いんだけど、それは私も一緒だ。
昔から同じ道場に通っていて、実力も伯仲している。
「ちょっと結、何してんの」
もうひとりのPTメンバーである初美が呆れていた。
「矢が急にね、飛んできたからさ。思わず」
PTメンバーの信頼を多少は損なったかもしれないが、こればかりは仕方ない。
万一に備えてのことだ。
すぐ近くに立っている由美子がどんな表情をしているかは想像に難くないので、しばらくそっちは見ないでおこう。
私のPTと由美子のPTは間近に陣取っている。
緊急時の円滑な意思疎通のため、部隊長同士は声の届く範囲に居るべき。
私がそう主張し、由美子が受け入れたのだった。
――――
モンスターをすべて片付けるとスマホが震えた。
『9999匹のモンスターを倒したね! お疲れ様! これからっけしょう』
メールの内容はそれだけだった。
最後は意味不明だし。
間違えて送信したんじゃないの、こいつ。
こいつって誰だよって話だが。
自分の打ち間違いにイライラして、滅茶苦茶にボタンを押し、意図せず送信してしまう。そんな間抜けであることだけは確かだった。
…………。
そういえば、最初の頃から気になっていたけど、9999というのは ずいぶんと中途半端な数字だ。
一万匹ピッタリにしたら駄目なのだろうか?
普通はそうするだろうに。
などと思っている間に再びメールが来た。
『これから決勝戦を始めるよ! でもその前に、レベル1のPTはここで退場だよ!』
直後、私と由美子のPTを除く全員が倒れ、あっという間に消えてしまった。
これは予想外だった。
密かにレベルアップを画策したのは戦術の幅を広げるために過ぎず、レベル1のPTが問答無用で排除されるとは さすがに思っていなかった。
とはいえ、こうなると次の展開は予想しやすい。
元々危惧していたことでもあるし。
今から心構えをしておくことで即応体制を整えよう。
思った通り、すぐにまたメールが届いた。
内容も おおむね想定内。
『30分後に複数のPTが生き残っていたら全員が死ぬよ!』
次のクエストは由美子PTとの殺し合いというわけだ。
やれやれ、まったく。




