第27話 高速思考
クラスメイトたちは私の話を聞いているうちに納得の表情を浮かべた。
裏門は『氷結魔法Ⅲ』で封鎖。
これに異論の余地はない。
問題は正門だ。
9999匹が攻めてくるのなら『火炎魔法Ⅲ』を撃ち続けて圧倒するしかないが、『火炎魔法Ⅲ』のMP消費は7だから多少の工夫が要る。
まず、3人PTのうち、メンバーAが『火炎魔法Ⅲ』と『魔力吸収』を取る。
火炎魔法Ⅲ 7P(学校の教室くらいが範囲だよ!長々と標的を焼き続けるよ!)
魔力吸収 2P(相手が空になるまでPTメンバーに秒間100のMPを貰うよ!余りは消滅!詠唱30秒!)
メンバーBは『無限魔力』だ。
無限魔力 9P(MPが減った瞬間に全回復!無尽蔵だよ!)
メンバーAは、MPが減ったら『魔力吸収』の詠唱を開始する。これに30秒。
吸収が始まりさえすれば一瞬で満タンになるから、すぐに打ち切って『火炎魔法Ⅲ』の詠唱に入ることができる。そして30秒で再発射。
合計およそ1分で『火炎魔法Ⅲ』を撃ち直せる。
実際には細かい時間ロスでもう少し掛かるだろうが、大体そういう認識で良いだろう。
MPの心配をする必要がないため、『火炎魔法Ⅲ』の波状攻撃は相当に濃密なものとなる。
10PTを用意すれば6秒に1発。もはやこれだけで正門は火炎地獄と化す。
その程度の数なら楽に調達できるだろうけど、連携が上手く行くとは限らないのだから、人数はできるだけ多く集めるべきだ。
不測の事態に備えるには10PTじゃとても足りない。最低でも3倍は欲しい。
各教室を回って有志を募るしかないが、具体的なプランを用意してあるから、応じる者は少なくないはず。
私に対抗心を燃やしている由美子も居ることだし。
自分で人を集めれば、それだけ派閥争いが有利になる。彼女は そう考えて必死になってくれるに違いない。
メンバーCのスキルも忘れてはならないけれど、これについては先送りだ。
ランク1のモンスターは『火炎魔法Ⅲ』の連発で圧倒できるにしても、ランク2以降が問題になってくる。
敵がスキルを使ってくるというのも厄介だが、それより気になるのは武器の方。
モンスターランク2(1000匹目~9999匹目)
・剣とか槍とか弓とか武器を持っているよ!
剣は良い。槍も良い。しかし弓というのが どうにも引っ掛かる。
『火炎魔法Ⅲ』は30メートルより少し先まで届くが、弓矢となるとそれを遙かに越えてくるのではないか。
だとしたら対策が要る。
考えられるスキル案は、『身体強化Ⅱ』と『危険感知』だ。
とはいえ問題は多い。
『身体強化Ⅲ』ではなく『身体強化Ⅱ』で大丈夫なのか。
それどころか、『身体強化Ⅲ』でも矢を捉えられないのではないか。
逆に、『危険感知』まで取らなくても『身体強化Ⅱ』だけで何とかなるのではないか、という疑問もある。
もしそうなら『危険感知』のポイント分を他のスキルに回した方が良いのではないか。
考え出したら際限がない。この辺りは試してみないと分からないだろう。
だから先送り。
いくつかのPTに実験台となってもらい、その結果を見てから、全PTのメンバーCをどうするか決める。
それが一番だ。なにも急いで決めることはない。
『危険感知』に関しては ちょっと思うところもあるし。
クラスメイトへの説明を終えて私は教室中を見渡した。
みんな特に反論はないようで、由美子でさえ黙ったままだった。
文句の付けようが どこにもないのだから当然だけど。
スキル一覧を見た瞬間に ここまで思い付くなんて、そんなの、おそらく私くらいのものだろう。
この状況で じっくり考えることは普通できないから、多くの場合、『無限魔力』抜きで『火炎魔法Ⅲ』に頼ろうとして、結局は火力が足りずモンスターの波に押し切られる、という感じではないだろうか。
時間を掛ければ『無限魔力』の有用性に辿り着ける人もそこそこ居ると思うけど、それじゃ駄目なのだ。少なくとも皆がスキルを取得し始める前でなければ手遅れになる。
その前に気付いて行動できるかどうか。これはそういうクエストだ。
スマホに表示されている成功率0%という数字も頷ける。
つば姉と舞姉なら どうだろう。
姉と言っても、血が繋がっているわけではなく、単なる昔馴染みなのだが。
あのふたりは『そこそこ』の部類に入っているけど、私ほど飛び抜けているわけではない。
やはり、気付くのは手遅れになってからだろうか。
仮にそうだとしても、つば姉と舞姉なら、どうにかして お兄ちゃんを守ってくれそうな気はする。なんとなく。
具体的にどういう手段を取るのかは まるで想像できないけども。
「じゃ、そういうことで。私は各教室を回って説得してくるから、みんなは正門で待っていて」
私が言うと、由美子が勢い良く立ち上がった。
「あたしも行くわ! ひとりで全部の教室を回れるわけないしね」
予定通り自分から飛び付いてくれた。
派閥拡大の好機を彼女が逃すはずはない。
第二勢力を率いるボスとしてリーダーシップを誇示したいというのもあるだろう。
別に彼女の傘下が増えようと全く構わないし、協力してくれるのであれば願ったり叶ったりだが、私に貸しを作ったなんて思われたら今後の障害になりかねないので、少しだけ嫌がる態度を取っておこう。
「私だけで大丈夫だから、由美子は正門に行ってていいよ」
「ひとりじゃ無理だって! もう決めたから!」
「まったく……」
渋々折れる感じで息を吐く。
由美子の方は満足そうだ。
もう少し先のことを考えるタイプだったら私の脅威にも成り得るが、この分じゃその心配は要らない。
「俺も行くよ」
と、クラスで一番のイケメンくんが名乗りを挙げた。
イケメンの清田くん。
彼は私にベタ惚れなのだった。
協力する気になったのも自分をアピールしたいからだろう。
由美子は、イケメン清田くんをチラ見して複雑な表情になった。
恋する乙女の顔だ。
このクラスには、由美子→清田くん→私、という面倒な構図が出来上がっているのである。
確かに清田くんはイケメンだと思うが、お兄ちゃん一筋の私にとっては至極どうでも良いことだった。
むしろ、清田くんが存在するせいで由美子との関係が拗れている面もあるわけで、どちらかと言えば邪魔だとすら思う。
まあ、協力を拒む理由はない。
私たち3人は集まって協議した。
誰がどこの教室へ行くか くらいしか決めることはないけど。
最初に由美子が言った。
「あたしは二年生の教室を回るわ」
最上級生の私たちからしたら下級生の方が遙かに説得しやすい。しかし一年生では何かと立場が弱い。だから、人を集めやすくて最下級ではない二年生を選んだ、と。
そういう計算の元に発言しているのだ、この女は。
「じゃあ俺は一年生を」
とイケメン清田くんは言った。
私に媚びたいのであれば三年生の教室を引き受けるべきだと思うが、なるべく苦労は負いたくないし、自分から名乗り出ておいて人が全然集まりませんでしたなんて情けない報告もしたくない、といったところか。
その程度の心情を見抜かれないと思っているのなら私も舐められたものだ。
何でも良いけど。
私は言った。
「決まりね」
時間に余裕はない。
私たちはすぐに動いた。




