第02話 消失
「翔太!」
責めるような呼び方をしたのは、もうひとりの幼馴染みにして美少女の木戸 舞だ。
席が離れているせいで今まで話をしていなかったけど、教室が騒然となると舞は真っ先に俺たちの方へ向かってきた。
悲しいことだが、舞には他に話相手が居ないのだ。
いつも不機嫌で、何か気に入らないことがあるとすぐに相手を睨み付けるものだから、友達なんて出来るはずもない。
昔から付き合いがある俺とつばさに構ってもらうのが せいぜいだった。
「ちょっとあんた、どうするつもりなの、これ!」
なんか、俺がこの事態を招いたかのような言い方だが、そこはスルーするに限る。いちいち付き合ってはいられない。
普通の奴ならとっくにうんざりしているだろう。
だが俺なら耐えられる。
舞は俺にベタ惚れだからな。多少の悪態なんて可愛いもんだ。
俺は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「落ち着けよ、舞。何を慌てる必要がある? 面白くなってきたところじゃないか」
必要以上に余裕綽々の態度を取ったのは、舞に安心感を与えてやるためだ。
「バカじゃないの!?」
どうやら失敗したようだった。
つばさが静かに言う。
「いいから座って」
「あ、うん」
舞は大人しく従った。
自己中の権化とも言える彼女だが、つばさに対してだけは遠慮がちだ。
なぜなのかは知らない。
近くの空いている椅子を舞が引き寄せている間に俺は教室内を見回した。
クラスメイトはみんな、仲良しグループで固まっている。全員が不安そうな顔で話し合っているが、取り乱している奴は居ない。
最初に少し騒いだだけで、ある程度の落ち着きを取り戻したらしい。
たぶん、現実感が無いせいだろう。この状況は意味不明 過ぎる。
夢の中だとは思っていないにしても、これが現実なのだと断定もできない。なんだかよく分からない状態。そんなところだと思う。
だって、俺がそうだし。
女子集団の中心に居た委員長(美少女)は席を立つと、ポニーテールを揺らしながら早足で教室を出て行った。
残された女子集団の会話から察するに、どうやら先生を捜しに行ったようだ。
さすが委員長。この状況で率先して動ける積極性には感心するしかない。
「あのさ」
口を開いたのは舞だ。
引っ張ってきた椅子に腰を下ろしながら続ける。
「あたしたち、あの消失事件に遭っちゃったんじゃない?」
「…………」
消失事件。あるいは消失現象。どちらも俗称で、略して単に『消失』と呼ばれることもある。
建物ごと大勢が消える原因不明の消失は かなり前から世界中で起きていた。
学校に限らず、オフィス・飲食店・駅・飛行機……、人の集まるところでは どこでも発生する可能性がある。
最初にフランスで映画館が消失した年は映画業界が大不振に陥った。その一方、マンション消失により一戸建てブームが沸き起こったりもしている。
経済的には様々な影響があったが、消失自体は そう頻繁に発生するわけではないため、自分が被害に遭う確率は極めて低く、日常的に警戒し続ける必要なんて実際はあまりない。交通事故で死ぬ心配をした方が良いくらいだ。
とはいえ、悪いことは重なるものらしい。
これが本当に消失なのだとしたら、俺は妹に続いて被害に遭ったということになる。
俺の妹は以前に中学校ごと消えてしまったのだ。
「妹もこの世界に来たんかな?」
「かもしれない」
俺の言葉につばさが同意した。
まあ、仮にそうだとしても、妹がこの世界で生きている確率は0.01%以下なんだよな……。
もう死んだものだと思っていたから、あんまりショックではないんだけど、生存の可能性が出てきた以上、探してみたいとも思う。
悪知恵の働く唯我独尊の妹なら、クラスメイトを利用し尽くして0.01%の側に入ってるかもしれないし。てか入ってそうだし。
「でもさ」
と、舞は言う。
「消失事件から生還した話は聞いたことがないでしょ? ということは、このクエストとやらに成功しても、元の世界には帰れないんじゃないの?」
「…………」
こくり。つばさが無言で頷いた。
肯定している内容は恐ろしいが、冷静な表情を保っている。
今の状況だとそれが凄く頼もしい。
ああ、これだ。
こういう印象を俺は さっき舞に与えたかったんだ。
返ってきたのは罵声だったけど。
気にしていても仕方ない。
俺はふたりの顔を交互に見ながら言った。
「なんにしろ、やれることはやっておこう。とりあえずスキルの確認だ」




