第16話 弓矢の脅威
飛んできた矢に狙いを定めて俺は爆裂をイメージした。
しかし矢に変化はなく、そのまま近くの地面に突き刺さった。
やっぱり、標的を完全に捕捉していないと撃てないか。
とは言っても、『身体強化』スキルを取得していない俺の動体視力と反射神経では、高速の矢を正確に捉えることなんてできない。
つーか、標的ってのはモンスターのことなんだから、仮にドンピシャでも、地面と同じで不発になるような気がする。
「出番が来たようだな」
バットマンたちが俺の前に出てきた。
さっそく矢を叩き落とす。迎撃成功。
やだ格好良い……。
しかし参ったな。
こうなると、『爆裂魔法Ⅰ』を万が一にも当てないように気を遣わなければならず、かなり戦いにくい。
その場でバットを振っているだけなら まだしも、矢を打ち落とすために急に動き出したりするわけだし。
バットマンたちはそれを察して俺の隣まで下がってくれた。
まあ彼らだって爆死したくはないだろうからな。
だがそのせいで今度は守りが薄くなった。
バットマンたちは下がっただけでなく、俺の『爆裂魔法Ⅰ』を警戒してもいたから、矢の打ち落としは どうしても遅れがちになる。
ザクッ、と、近くの地面に また矢が突き刺さった。
しかも、打ち漏らしてしまう矢は時間と共に増えていった。
バットマンたちの注意力が低下しているためだ。
ある程度は仕方ないかもしれない。いつ飛んでくるか分からない矢を延々と警戒していたら、疲労が蓄積するのは避けられないだろう。
不意に、後衛部隊から「おおっ!」と歓声が上がった。
バットマンたちの打ち漏らした矢が向こうまで飛んでいき、それをギャル子ちゃんが打ち落としたらしい。
今までそこに矢が届いたことはなかったから、後衛部隊が危険に晒されるとは思わなかった。
もっと下がってもらおう。
ギャル子ちゃんは『身体強化Ⅱ』だが、それでも楽に打ち落とせたみたいだ。
確かに、『身体強化Ⅲ』のバットマンたちも、基本的には余裕を持って軽々と打ち落としている。
たまに失敗するけど、その原因は明らかだ。
人間の動きで最も遅いのは始動であり、いくら身体能力が凄かろうと、最初の一歩にはタメを必要とする。
気付いてから動き出すまでの間に矢が近距離に迫ってしまったら、『身体強化Ⅲ』でも打ち漏らしてしまう。そういうことだろう。
打ち落としの成否は初動に懸かっていると言える。
問題なのは集中力の持続なのだ。
とにかく、このままでは まずい。
何かを変えないと。
これまでとは全く別の発想が必要なのかもしれない。
新しい発想なんて大抵は既存の組み合わせに過ぎないから、糸口さえ掴めば後は簡単に思い付いたりもするんだよな。
見落としてること。軽視していること。
この辺にヒントがありそうな気もしなくはないんだが、それ以上のことは分からない。
俺は幼馴染みの方をチラ見した。
舞とつばさと委員長はまだ相談していたが、すでに結論は出ていて、今は確認事項を潰している段階のようだ。
3人の様子から そんな感じがした。
判断材料の不足はこの短時間で解決したらしい。
聞き耳を立てていたわけではないから、細かいことは良く分からんが、あいつらの妙案に期待しよう。
俺は、自分のやるべきことをやる。すなわちモンスターの殲滅。
矢にビビってモンスターの突破を許したら妙案どころじゃないからな。
飛来する矢を無視して俺は『爆裂魔法Ⅰ』を撃ち続けた。
恐いけど無視だ。断固無視。
しばらくそうしていると、ポケットの中のスマホが震えた。
なんだ? メールでも来たのか?
今は精神的にあまり余裕がないんで、内容を確認するのは後にしたい。具体的には矢の脅威が去ってからで。
…………。
いや、ひょっとしたら、これが現状打開に繋がるかもしれない。
スマホを取り出すべきだろうか。
迷っているうちに高速の矢が飛んできた。
真っ直ぐ こっちに向かっている。
このままでは当たる。そう認識した途端、俺は恐怖で棒立ちになってしまった。
俺の隣に控えていたバットマンは反応が遅れたようだ。
今さら慌てているのが横目で確認できた。どうやら寸前まで別の方向を見ていたらしい。
これでは、タメから一歩目を踏み出す間に矢が到達してしまう。
バットマンの迎撃は とても間に合わないだろう。
疲労で集中力が落ちていたとはいえ、5人も居るんだから、もう少し何とかならなかったのか、と思ってしまう。全く気付いてない奴すら居るし。
まあ、バットマンはバットマンで、『爆裂魔法Ⅰ』に当たってしまうかもしれないという問題も抱えてるし、色々大変なんだろうけど。
でもさぁ、と俺は言いたい。
しかし他人を責めている場合ではなかった。
マジで俺に当たりそうだ。
なのに体は全く動かない。一直線で飛来する矢を呆然と見ていることしかできなかった。




