第15話 ギャル子PT
俺の目前に突如として氷の壁が出現した。
熱波は来ない。
音も衝撃も無かったので実感はないけど、氷の壁に阻まれたようだ。
何が起こったのか、おおよその見当は付くが、俺は確認のため後ろを振り返った。
PT集団の先頭で金髪小麦肌の女子が腕を組んで立っていた。
ギャル子ちゃんだ。
あと、お供のふたり。
あいつらの『氷結魔法Ⅲ』でモンスターの『火炎魔法Ⅲ』を防いだらしい。
『火炎魔法Ⅲ』は、標的を捉えない限り真価を発揮できない。軽い火傷が精々で、瞬時に消えてしまう。
数メートル級の氷壁に対して無力なのは順当な結果だろう。
ひょっとしたら多少は削られてるのかもしれんが、防げさえすればそれで良い。
「感謝してくれても良いんだけどぉ?」
ギャル子ちゃんは滅茶苦茶ドヤっていた。
いやお前、一度は正門PTを見捨てただろ。
そんで、無限連射で形勢逆転したのを屋上かどっかから見ていて、それでまた戻ってきたんだろ?
なんて調子の良い奴だ。
と思ったけど俺は黙っていた。適当に愛想笑いをしておく。
助かったのは事実だしな。
モンスターの『火炎魔法Ⅲ』で窮地に陥ることは もうないだろう。
『火炎魔法Ⅲ』の詠唱30秒に対して、『氷結魔法Ⅲ』は9秒。
モンスターの詠唱が始まった後からでも充分に間に合う。
威力重視タイプ(射程9メートル・詠唱30秒)
火炎魔法Ⅲ 7P(学校の教室くらいが範囲だよ!長々と標的を焼き続けるよ!)
高速防御タイプ(射程9メートル・詠唱9秒)
氷結魔法Ⅲ 7P(氷の壁を作れるよ!30秒で溶けるよ!重ね掛けできるよ!)
これなら、無限連射による殲滅を続けられる。
つばさと舞の考えた攻略法は間違っていなかったんだな。
俺は心底から安堵して前へ向き直り、氷壁の横から『爆裂魔法Ⅰ』を撃ちまくった。
ここで重要なのは、俺とギャル子PTは複雑な連携をしない、ということだ。
俺は勝手に撃ちまくるだけで、ギャル子PTの動きを注視することはない。俺の前方には誰も居ないのだから、何の躊躇もなく撃てる。
ギャル子PTの方も、モンスターが『火炎魔法Ⅲ』の詠唱を半分以上 進めたら、勝手に氷の壁を作るだけ。俺の動きを見ることはない。
俺の真ん前ではなく横に壁を作ってくれるのなら、無限連射の邪魔にもならない。
それぞれが自分の判断に基づいて動くから、『身体強化Ⅲ』と『火炎魔法Ⅲ』の連携とは違い、味方の行動に合わせる必要は全くない。
だから破綻もしないというわけだ。
――――
『爆裂魔法Ⅰ』を撃ちまくっている俺の背後で、委員長とギャル子が会話をしていた。
話を聞くに、どうやら、ギャル子PTは委員長が直接 連れ戻してきたようだ。
無限連射を成立させた時点で『氷結魔法Ⅲ』の必要性をすでに感じ取っていた舞とつばさが委員長に頼んだらしい。幼馴染みふたりは無限連射を維持するためにこの場を離れられないからな。
そういうわけで、俺がランク1のモンスターを倒しまくっていた時、すでに委員長は校舎の中に入っていたんだとか。
ギャル子ちゃんが戻ってくるタイミングはそれでもギリギリだったが。
俺は『爆裂魔法Ⅰ』を連射しながら、ふたりの話をさらに聞いた。
「3人のスキル構成を尋ねても構いませんか?」
「んー? 良いけどぉ?」
委員長は、ギャル子PTのMPが尽きることを懸念しているようだった。
結論から言えば問題はなかった。
ギャル子PTは本来なら裏門封鎖 専用だから、スキルもそのために組まれている。
『氷結魔法Ⅲ』を持つメンバーAは同時に『魔力吸収』も持っているし、別のメンバーBは『魔力供給』を持っている。
だから、メンバーAはMPが尽きてもメンバーBから供給してもらえる上、自分でメンバーCから吸収することもできる。
氷結魔法Ⅲ 7P(氷の壁を作れるよ!30秒で溶けるよ!重ね掛けできるよ!)
魔力供給 2P(自分が空になるまでPTメンバーに秒間100のMPを譲るよ!余りは消滅!詠唱30秒!)
魔力吸収 2P(相手が空になるまでPTメンバーに秒間100のMPを貰うよ!余りは消滅!詠唱30秒!)
今後は俺も、『火炎魔法Ⅲ』の詠唱を始めたモンスターを最優先で狙うから、基本はそれで片付くだろうし、『氷結魔法Ⅲ』を使う機会は そうないはず。
ただ皆無ではないと思うので、その時に楽々防御できるというのは非常に有り難い。
ちなみに、メンバーCであるギャル子のスキルは、『身体強化Ⅱ』と『危険感知』だった。
身体強化Ⅱ 5P(身体能力がとても上がるよ!)
危険感知 5P(不意打ち対策は万全!PT全員の危険を数秒前に察知できるよ!)
不測の事態でモンスターに肉薄された時にPTメンバーを守るため、とギャル子は委員長に説明していたが、本当のところはどうだろう。
自分の身を守りたいだけなんじゃないか?
『危険感知』がPT全員をカバーしてるからってのは、説得力のある言い分だけども。
まあ、あんまり疑うのも悪いか。
どういう経緯を辿ったにせよ、命の恩人なわけだし。
俺だって生徒全員の命を救っていると言えるが、実際に自分の手で行っているのは、一方向に撃ちまくっているだけのことでしかない。
この状況は他PTの裏門封鎖によって成り立っている。
モンスターの『火炎魔法Ⅲ』を防げたのもそうだし、最後の手段としてバットマンと後衛部隊が控えているのもそうだ。
それに委員長。彼女抜きに現状は有り得なかった。今後も何か問題が出てきた時は委員長との協力が重要になるだろう。
無限連射が強すぎて忘れそうになるが、自分と幼馴染み以外の存在も決して忘れるべきではない。
なんて、えらく模範的なことを心の中で呟いてしまった。
これも余裕が出てきたからこそか。
しかし その余裕は長く続かなかった。
近くの地面に矢が刺さったのだ。
無限連射の脅威が『火炎魔法Ⅲ』だけではないことを俺は悟った。
モンスターの武器は様々だ。剣とか槍とか弓とか。
近接武器の有無なんて どっちだろうと俺にとっては同じだけど、30メートルより遥か遠くから矢を飛ばされるのは困る。とても困る。
スマホにあった『モンスター情報』の通り、奴らは矢を1発 撃つと突進に切り替えているが、弓装備のモンスターは少なくないため、結局のところ矢は頻繁に飛んでくる状態だ。
なかなか俺には命中しないものの、撃たれ続けていればいつかは当たるだろう。
詠唱9秒の『氷結魔法Ⅲ』では間に合わないし、氷の壁をずっと展開していたらMPが追い付かない。
かと言って、今から裏門PTに再度の援軍を要請するのもどうだろうか。前回はギャル子PTしか来なかったわけだし、期待はしない方が良いだろうな。
何か他に打開策があるはずだ。
突撃してくるモンスターは無限連射で殲滅できる。『火炎魔法Ⅲ』は『氷結魔法Ⅲ』で防げる。
どんな状況にも対処法はある。矢だって同じに違いない。
けど具体案は浮かんでこなかった。
どうすべきか。
後ろを見てみる。
つばさと舞と委員長が3人で何やら相談していた。
結論は出ていないらしい。
判断材料がまだ足りてないのだろうか。
なら、こっちはこっちで足掻くしかないな。
そうすることによって問題解決の鍵を見付けられるかもしれないし。




